136 マナー < カネ
そういえば、固有名詞に〈 〉、スキルや魔法に『 』を付けているのですが如何でしょうか?
立て続けにトラブルに巻き込まれたりはしたものの、〈上級神請魔法使い〉のアデリナという新たな仲間を得た〈白の大樹〉。
このことにより、〈ラビリンス〉に来た目的の一つである「回復手段の確保」が達成されたわけだ。
…なのだが。
いくらアデリナが『死者蘇生』という最上級の神請魔法を行使可能とはいえ、万が一アデリナが先に倒れるなどしたら一貫の終わりだ。
回復の手段をアデリナに頼りきりにならないよう、本来の候補である〈ハイポーション〉を引き続き求めることになる。
それに今の時期は既に冬に入り、朝晩に霜が降りるようになった。
こんな中で態々、街の移動などの途中で野営が必要となる遠出をする馬鹿はいないだろう。
(…それに強くもなっていないしな。)
そもそも「回復手段の確保」は、ダンジョンでの修行の“次いで”に過ぎない。
依然として〈第6層〉以降は封鎖されていて、〈第5層〉に出現する〈ゴーレム〉は、ランクこそ〈オーガ〉や〈巨象魔猪〉と同等…なのだが──
「『拡散火球』ッ!」
ドゴォオォンッ!
「go、goo …」
ガラガラ、スゥ…
マリ姉の魔法を受けて崩れ落ちた〈ゴーレム〉が、ダンジョンに溶けるように消えていく。
ゴトッ
そして残されるドロップ品。
以前にも確認した記憶があるが、〈ゴーレム〉は物理的な攻撃…とりわけ武器としてメジャーな斬擊に滅法強い反面、魔法で攻撃されたらこの通り脆い。
人も人間と獣人で種族的な得意不得意があるが、魔物ではそれが特に現れるのだ。
つまり何が言いたいのかと言えば、稼ぎとしては都合が良いが修行にはならない、ということだ。
〈ゴーレム〉のドロップ品で楽に稼げるなど、他の探索者からすれば贅沢な悩みなのだろう。
生活のために冒険者をしている面々からして見たら、日々を過ごすだけ稼げるのであれば態々リスクを冒す必要もないのだ。
実はこのダンジョンが〈第13層〉までしか攻略されていないのも、これ以降は得られる利益に対して損耗や予想されるリスクが見合わないという理由からだ。
と言っても探索者が日常的に探索していたのは精々が〈第10層〉といったところらしい。
〈第11層〉からは攻略済み階層の更新のため、ギルドの後援ありきの実績なのだ。
壊滅した〈楔の絆〉は、ギルドの指名依頼により〈第14層〉の攻略を進める筈だったという噂も聞いた。
その噂が本当だとしたら、イレギュラーがあったとはいえ〈第6層〉で大コケしたものだから、冒険者ギルドの失墜もある程度は仕方のなかったことなのだろう。
…教会がギルドに先じて失敗を公表し、ギルドに情報を渡さなかったのは、あの司祭の嫌がらせだったのだろう。
まあ、それはさておき。
アデリナの加入により安全マージンが引き上がった俺たちは、クランが解散された影響もあってか、数あるパーティーの中で圧倒的な稼ぎを叩き出していた。
「よいしょ…っと。」
ドササッ…!
今日の成果をギルドに売りに行くと、メリィさんが重そうに報酬袋をカウンターに置く。
「ふぅ…、こちらが素材売却代金の40万 Gになります~…。」
今日の成果は鉄のインゴットが8本。
ここ最近の納品により、1本10万 Gまで高騰していた〈インゴット・鉄〉も半値にまで値段が落ちた。
まぁ…元々これくらいの売値ではあったらしく、これ以上値段が落ちることはなさそうだ。
そうなると休息日を挟んだところで、このままいけばアデリナを還俗させるために示した信仰()の分は、1ヶ月と経たずに回収出来てしまう。
ニーニャが獲物を見つけ、アデリナの神請魔法で『強化』された魔法をマリ姉が叩き込む。
これだけで〈インゴット・鉄〉を1本ゲットだ。
魔法使いが重要視されるのが良く分かる効率の良さである。
(あれ…もしかして俺、要らない?)
………。
ふと浮かんだ恐ろしい考えには気が付かなかったフリをして。
これだけ荒稼ぎをすれば、自分の利益が最優先な冒険者達の中で目立つもので──
「ねえねぇお嬢さん方。」
「俺たち元“第一”だったことがあるんだけど、」
「人数も3:3で丁度だし、俺らと組まね?」
俺が今日の成果を精算を終えるのを待っていた3人に、“また”見知らぬ男3人のパーティーが勧誘をかけていた。
(んなろっ、あいつら…!)
最近は少し気を抜くと“こう”なる。
既に余りにも執拗かったパーティーを、いくつか修練場で伸している筈なのだが。
マリ姉やアデリナの魔法使い二人は、「休息日に街に出れば必ず声を掛けられる」と現状にうんざりしている。
尚…そんな時にどうあしらっているのかを俺が聞いたところ、二人とも「婚約者が居るから」とはっきりと突き付けていると言われ、嬉しいやら気恥ずかしいやら。
ニーニャも、ニーニャを「お荷物」と言った馬鹿ガキにマリ姉が激怒してから声掛けが増えたらしく、マリ姉とアデリナのように明確な断り文句が無いことに俺は危機を覚えた。
そんな俺にニーニャが提案したのが「ニーニャに首輪を着けること」だったのだが、マリ姉が激怒した一件で今更奴隷のフリは意味が無いと却下した。
しかしその際何とも言えない雰囲気を発していたニーニャが気になり、このことを少しボカして仲良くなった獣人の外専冒険者に話したところ、
「女に首輪ぁ?
そりゃ他の野郎に『この女は俺のメス』って示すやつだろ?」
とのことだった。
…仮にやっていたとしても獣人くらいにしか伝わらないとはいえ、しれっと周りの認識を固めようとしたニーニャに慄いた。
その晩、ニーニャに影響を与えたであろう悪い魔女と、寝室で一晩HANASHIAI したのは…言うまでも無い。
いつも読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク、☆、いいね等、執筆の励みになります。
「面白かった」「続きが気になる」という方は是非、評価の方よろしくお願いします。
感想、レビュー等もお待ちしています。




