135.5 ニーニャと迷宮都市デート
割と重要なエピソードだったかも?
(135話の後から136話で絡まれるまでの間のエピソードです)
これは、アデリナが〈白の大樹〉に加入して何度目かの休息日の話。
─ とある休息日 ─
カチャカチャ…モグモグ…
…ゴクン
「…なあニーニャ、今日空いてるか?」
その日の朝食中…ふと用事を思い出した俺は、その用事に関わってニーニャの予定を訊ねた。
「ん…、どうしたの?」
頷いたニーニャが、今度は俺に用事の内容を訊ねてきた。
特に予定が無かったとしても、自分の予定を問われたのだから気になるのだろう。
「いや、ちょっと一緒に行きたいとこがあってな。」
特に隠すことでもないため、俺はニーニャの問いに何ともなしに答える。
しかし俺の答えに過剰に反応した魔女が一人。
ガタッ
「ラス君、私も行って良い!?」
「お、」
「ダメ。」
あまりにも過剰気味に反応したマリ姉の勢いに圧され、「応」と答えようとした俺に代わり答えたのはニーニャ。
「「………。」」
まさかの拒否に、言葉を失い顔を見合わせる俺とマリ姉。
しかし、行先を考えるとマリ姉がいた方が良い気がするのだが…。
「ダメ、ご主人との“でーと”だから。」
耳を伏せ尻尾の毛を僅かに逆立てそう言ったニーニャの背後には、俺とマリ姉を威嚇する〈刃牙虎〉の姿が浮かんでいたのだった。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
ざわざわ…
マリ姉の同行を断り外出の支度を終えた俺とニーニャは、〈ラビリンス〉の雑踏の中を寄り添って行く。
トントン、タタンッ
「~♪︎~♪︎」
俺と街を歩くだけの何が楽しいのか、ご機嫌で時折ステップを踏むように歩くニーニャ。
(…器用なものだな。)
人にぶつからないように実は必死な俺に対して、ニーニャは人々の間をすり抜けるように歩く。
…でも万が一人にぶつかると面倒だから、ステップを踏むのは止めて欲しい。
…………………。
…………。
…。
それから二人連れ立って歩くこと、およそ十数分ほど。
俺とニーニャは、とある店の前にたどり着いた。
「…ここ?」
「ああ、ここだ。」
〈エディソン魔道具工房〉。
〈ラビリンス〉に数多く軒を連ねる工房の中で、一番腕の良い錬金術師の店らしい。
カラン…
店に入ると、ドアに付けられたベルが軽やかな音を鳴らす。
「おぉ…!」
「物がいっぱい。」
店内を照らす光は小さな窓から入る日の光のみで、薄暗い店内には大小様々な商品の陰が並ぶ。
(留守か?無用心な…。)
俺とニーニャ以外の人がいない店内を、俺は目的の品を探して歩く。
(おっ、風呂の魔道具だと!?)
その途中、ベビーリーフタウンの高級宿で体験して以降俺・マリ姉・ニーニャのお気に入りとなった風呂に入るための魔道具に、〈重量軽減背負い袋〉や〈魔石コンロ〉などの冒険に役立ちそうな魔道具に目を惹かれる。
しかし今回の目的ではないので、後ろ髪を引かれながらもスルー。
(…あった!)
そうして俺が足を止めたのは、魔剣や魔銃が並ぶ“魔導武器コーナー”だった。
思い起こすのは、逃げる野盗を長距離から撃ち抜いたヘリーさんの姿。
平均より小柄気味なヘリーさんの懐に収まる魔拳銃であの威力であれば、ニーニャが〈ゴーレム〉を倒すための武器になり得る。
冒険者ギルドに登録した際はその値段の高さから選択肢にもならなかった魔銃だが、今なら余裕というわけではないが手は出せる。
………。
ニーニャが〈ゴーレム〉を倒せるようになれば狩りの効率が上がるわけで、これは甘やかしではなく先行投資というものだと“一応”言っておこう。
(しかしこう…、思ったよりゴツいな?)
ヘリーさんが使っていたピストルのようなものを探してみるも、棚に並ぶピストルは武器選びの時に試したようなものばかりだった。
ギルドで試したピストルは魔“拳”銃というだけあって、立派な鈍器になる重さだった。
あれでは、せっかくのニーニャの素早さが発揮出来なくなってしまうので駄目だ。
「ご主人、あれ見て。」
俺がピストルを見て理想との違いに困惑していると、ニーニャが穂先の捻れた短槍を指差す。
@━━━━━━━━━━━━━━━━━━
〈魔槍・グングニールrp〉
武器付与スキル
『鎧貫き』、『帰還』、『回転運動』
値段 1,000,000G
━━━━━━━━━━━━━━━━━━@
恐らく商品説明なのであろう羊皮紙の切れ端を読むと、以上のことが書かれていた。
(御噺の槍がこんなところに?…なわけ。)
〈神槍・グングニル〉、隻眼の英雄が〈北の果ての大狼〉を倒す際に使用したと言われる伝説の“投擲槍”だ。
御噺では隻眼の英雄が投げた〈グングニル〉は嵐を纏い、大狼を頭から尾まで貫いて尚も勢いを失わず空の彼方に飛んで消えたとされている。
形の特殊さや武器付与スキルなどはそれっぽいが、恐らく御噺の〈神槍・グングニル〉を元に作られたのだろう。
しかしまぁ…こんな捻くれた穂先では斬るのは当然として、突くことすらまともに出来ないではないか。
「…この槍は実戦には向かないな。」
「ふ~ん…そっか。」
せっかくニーニャが俺へ教えてくれたものに心苦しさを感じながらもダメ出しを言うも、指した槍にダメ出しを出されたニーニャは興味が失せただけのようだ。
…ここまであっさりと興味を失われたことに、俺はニーニャを悲しませなかったことにほっとすれば良いのやら…。
「素直に使えないと言えば良いのではないか?」
いやいや、売り物にそんなことを言ったら失礼…
「ってあんた誰だ!?」
いつの間にか近くにいた、その…身嗜みが乱れた男に、俺は驚いて誰何した。
カラン…
しかしその男が名乗る前に、新たな客が店に入ってきた。
「おーい、100万ゴールド稼いで来てやったぞー!」
新たに入ってきた少し柄の悪い若い男は、店に入ってきたとたんにそう叫ぶ。
「おっ、いたじゃねぇか。
ホラよ、〈グングニル〉を寄越しな。」
チョイワル男は俺たち…というよりはいつの間にかいた乱れ男に大金貨一枚を放る。
「…確かに。
もう一度聞くが、本当にそれが欲しいのか?」
「しつけぇぞ!
俺はお前が決めた金でコイツを手に入れた!
お前に何か言われる筋合いはもう無ぇ!」
売りたいのか売りたくないのか分からなくなる確認をする乱れ男改め推定店主だったが、チョイワル男は〈グングニールrp〉に異常な執着を見せて叫んだ。
(え、怖…。アレ、呪いとか無かった…よな?)
「…分かった分かった、もうそれは君の物だ。」
「ヒャッホイ!
…これがあれば6層のバケモンなんか目じゃないぜ。
俺の伝説の始まりだぁ!」
そして去って行ったチョイワル男。
まるで嵐のような目まぐるしさだった。
「…それで、君たちは何用で?」
結局俺の誰何に答えることもなく、逆に用件を訊ねてくる推定…暫定店主。
俺は釈然としない気持ちになりながらも、ヘリーさんのピストル(勿論暈した)のことについて話し、そういった魔拳銃が欲しいということを相談した。
「ふむ、その懐に収まる魔拳銃とやらは恐らくダンジョン産のアーティファクトだろう。」
魔道具技師でもある暫定店主の話によると、魔道具の魔銃はダンジョン産のアーティファクトをそれっぽく再現したもので、素材や技術の問題で完全に再現することは不可能なのだとか。
小型化自体は可能なものの、発射可能数や威力が大幅に下がってしまうらしい。
そして現在作られているサイズの魔拳銃が、携行性と威力その他のバランスが現状の最良ということだ。
「今回は残念だったが、また何かあれば来てくれ。
直接〈魔水銀〉を卸してくれたらサービスしよう。」
そう言う店主に見送られ、俺とニーニャは手ぶらで店を後にする。
「~♪︎~♪︎」
そして宿への帰り道。
若干疲労した俺に対し、来る時同様にご機嫌なニーニャ。
「…なぁニーニャ、つまらなくなかったのか?」
店では〈グングニール〉以来、暇そうに店内を歩くだけだったニーニャ。
結局特に成果もなく、行って帰るだけになってしまった。
「うぅん、ご主人とお出かけ出来たから満足!」
そう言って笑うニーニャに、俺の疲労も癒されていくのだった。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
「…それで?次は私たちも“満足”させて欲しいなって。」
その晩、俺はベッドの上で薄着のマリ姉に跨がられていた。
「あの、私は別に“まだ”…。」
マリ姉に連れてこられたのであろうアデリナが、顔を真っ赤にしつつも俺のとある部分に視線を釘付けにしている。
(というかちょっと“なり”かけてる!?)
…と、不本意っぽくしているが、俺にマリ姉やアデリナを拒否するつもりなど欠片ほども無い。
「よし、どっちからでも良いぞ?」
この後無茶苦茶“満足”した。
いつの間にか大銀貨が消えて大金貨になってたze☆
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(割り込み先ミスった~)




