134 ブラックジャック
???「あっ、ちょ…ん゛!?」
アデリナのパーティー加入が認められ、一晩が明けた。
意外なことに、司祭様との会談日として伝えられたのは次の日…つまり今日だった。
(はてさて…、どうなることやら。)
俺は昨日、マリ姉とアデリナから聞いたことを思い出す。
─ 昨日(会談のアポ取り後) ─
「ところで、アデリナさんは“どっち”?」
アデリナが還俗する理由として、会談時の打ち合わせのために今日も行動を共にすることとなったアデリナに、マリ姉が訊ねる。
「私は…、扱いとしては内部生ですね。」
「ちょっと待ってくれ。
その、内部生?…とかってのは何だ?」
マリ姉の問いに少し考えてから答えたアデリナだったが、俺は二人の会話のわけが分からず思わず中断する。
「え、そこから?
えっと、神請魔法使いは内部生と外部生っていうのに分けられるんだけど──」
まるで俺が常識を知らないと言ったように驚いたマリ姉が説明するには、
内部生 →教会の孤児院出身者の神請魔法使い。
孤児の中で素質がある者が養成される。
教会が親代わりのため、還俗は難しい。
外部生 →教会外出身の神請魔法使い。
神請魔法の使い手になりたい者が、教会に
謝礼を払って養成される。
教会に属する義務等は無い。
(へぇ~…、ってあれ?)
マリ姉の説明を聞いて、俺はとんでもないことに気が付いてしまった。
「アデリナ、…さっき内部生って。
てことは…。」
親代わりの教会が反対するから還俗が難しいということ以上に、アデリナの心の繊細な部分に、俺は無遠慮に踏み込んでしまったのではないかと焦る。
「はい、父は小さい頃に迷宮で。
母は…私が見習いの勤め先を探す直前に、倒れてそのまま。」
「悪い…。」
「いいえ、…もう気持ちの整理はついていますから。
私に神請魔法の素質があると判ったのは、母の葬儀の時でした。」
予想もしなかったアデリナの悲しい過去に謝る俺だったが、アデリナは気にしないと微笑んだ。
「それよりも…内部生だからといって、決して還俗出来ないということはないんです。」
… … … … … … …。
… … … …。
…。
─ 現在 ─
あの後、湿っぽくなった雰囲気を変えるように、アデリナの還俗のための交渉材料を打ち合わせた。
そして、
「お待たせしました、皆さん。
さて…時間も限られているので早速ですが、…そちらの道士アデリナが還俗して皆さんに着いて行きたいとのことでしたな?」
「はい。
先の一週間行動を共にして、回復役の重要性が身に染みまして。」
コクッ
コクリ
俺たちのパーティーで交渉を担当するマリ姉の言葉に続き、俺とニーニャは神妙な顔をして頷く。
「それは何より。
して…貴女方はその重要な治癒師を、この街から一人奪おうとしているわけですな?」
「っ!」
司祭様(いや、様はいらないな)…目の前の司祭の悪意のある言葉に、俺は手が出そうになるのを必死に堪えた。
「そんなつもりじゃ…!」
まさかそう言われるとは思っていなかったのか、マリ姉の口調が少し乱れた。
「そのつもりがなくとも“そういうこと”なのですよ。
………まぁ、良いでしょう。」
一頻りトゲでさして満足したのか、一先ずは引き下がった司祭。
…本当に性格の悪い。
「例え道士アデリナが道を違えようとしていても、我々に道士アデリナの道を強要する権利などありませんからな。」
暗にアデリナまで悪く言う司祭。
俺に力と地位があればこの司祭を酷い目に合わせてやるのだが、今は妄想に留めておく。
「それに冒険者という者は不信心者が多い。
道士アデリナの祈りが無駄にならぬよう、信仰心を示していただきたい。」
要はアデリナを連れて行きたいなら、それ相応の金を出せということだ。
やっていることはこの国で禁止されている「正規奴隷以外の人身売買」のようだが、王族や貴族が治癒師を専属で囲うためや教会が仲介している等の理由で認められているのだ。
それに受講料を払う外部生はともかく、内部生の養成費用も回収しなければならないのだ。
つくづくお偉方に都合の良いことだと思うが、俺たちはこの言葉を待っていた。
司祭が言ったように、この特例は王族や貴族に限られた話ではない。
王族や貴族はこの特例で大金をはたいて治癒師を囲っているのだが、大金さえ用意出来れば誰でも治癒師を囲うことが出来るのだ。
そして俺たちがパーティーとして用意してきたのが、ほぼ手付かずだったスタンピードの報酬…その内500万 Gである。
貴族が『大回復』を使える治癒師を囲う際の相場でも300万 G。
現在神請魔法が使えない最底辺治癒師とされているアデリナを囲うとするなら、100万 Gでも相場の倍になる。
(因みに外部生のいわゆる講習料は、神請魔法を使えるようになれなくても50万 Gかかるらしい )
レオンとの条件時には不発だったが、ここで存分に金貨袋で殴ってやろうじゃないか。
(さあ…俺たちの信仰心、存分に叩きつけてやろうじゃないか?)
と、内心で黒い笑みを浮かべる俺。
…しかし俺はこの司祭の“欲”をまだ甘く見ていたらしい。
「………どうすれば私たちの信仰を示せますか?」
マリ姉が形式的に司祭に問う。
「そうですなぁ………。」
考える振りをする司祭。
事情を知っていると酷い茶番だ。
「………良いでしょう。
貴女方の信仰を示すには、教会に300万 Gほど納めていただきましょう。」
…………………。
…………。
…。
「ほど」ってレベルじゃねぇぞ!!
ブラックジャック
革や布の袋などに、石やコインを詰めた殴打武器。
流血沙汰になりにくい。
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