133 DO☆GE☆ZA ☆
短め
今日も更新しないと思った?ところがギッチョン!
ゴッ…!
〈迷宮都市・ラビリンス〉、そこにあるとある宿屋のロビー兼食堂。
宿泊客が疎らに朝食を取っている場の端、不義理を働いた男が床に頭を叩きつけた音が鈍く響く。
「何だぁ…?」
「…ちっ、痴話喧嘩かよ…。」
「浮気か?…あんな太い奴が?」
黒髪に褐色肌をした魔術師のような格好の美女にDOGEZAする男に、宿泊客たちの視線が集まる。
そしてその男の後ろでは、修道服を着た金髪の…これまた美女がおろおろとしていた。
(ちっ、勝手言いやがって…!)
古の勇者の故郷で最上級の謝罪とされるDOGEZAをする男…つまり俺は、聞こえてくる野次馬の言葉に憤る。
…特に俺に嫉妬して舌打ちした奴、お前だけは許さん!
「…ラス君ちゃんと反省してる?」
野次馬に理不尽に恨みを向けた俺に、マリ姉が冷え冷えとした声で言う。
バッ!
「スマンシタッ!!」
ゴッ!
顔を上げて即謝罪の後、再び床に額を打ち付ける。
ふらりと居なくなった男が、朝帰りしたと思ったら別の女を連れている。
これがマリ姉から見た、現在の俺だ。
…うん。
普通に考えてクズ男である。
「……………、はぁ…。
とりあえず朝食にしましょう。」
はいっ、是非とも!
… … … … … … …。
… … … …。
…。
朝食を食べ終えた俺たちは、アデリナも含めて俺たちが泊まる部屋に戻ってきた。
「………はぁ、そういうこと…。」
アデリナに補足を加えられつつ、俺の説明を聞いたマリ姉が頭が痛いというように呟く。
マリ姉から感じる呆れやら困惑やらは強くなったが、一応納得はして貰えたようだ。
結果論になるが、もしあの時俺がアデリナを押し退けて逃走していた場合、サキュバス化したアデリナにより一体何人の男が昇天していたか想像もつかない。
そして、サキュバス化したアデリナの討伐という選択肢は、俺にはハナから存在していなかった。
…まぁ、役得であったことは否定しないが。
「…アデリナさんをパーティーメンバーにするのは問題無いわ。」
「ん。」
俺が手を出してしまった以上拒否しにくいのもあるのだろうが、それを別としても回復役の重要性を理解しているマリ姉は、アデリナのパーティー加入を認める。
マリ姉に目配せされたニーニャも否やはないようで、いつものように言葉少なに頷いた。
「アデリナさんはどうする?」
「是非、よろしくお願いします。」
これでパーティーメンバー全員と、アデリナ本人の同意が得られた。
普通なら、この後ギルドでパーティーメンバー追加の手続きをするだけ、なのだが…。
「…でも、教会がアデリナさんを手放すかしら?」
「「………。」」
「…?」
マリ姉がポツリと呟いた言葉に、黙り込む俺たち。
(そうなんだよなぁ~…。)
神請魔法の使い手は攻撃魔法使い以上に希少な存在、しかもアデリナのように『死者蘇生』まで使えるとなると、パーティーへの臨時加入はともかく還俗するとなると難しい。
これは高度な神請魔法の行使に対するお布施という利益が得られなくなるだけでなく、神請魔法使いが教会を離れることによる“教会の権威の低下”を嫌がってのことだ。
〈楔の絆〉のダンジョン攻略にアデリナが同行したのも、「ダンジョン攻略に教会も大きく貢献している」という示威の一環だろう。
また、『魔化の呪い』を受けて半ば幽閉状態におかれたアデリナだが、呪いを抑えられるとなれば逆に俺たちが教会に囲われかねない。
とはいえ〈影の虚狼〉が現れる恐れがあるため余りにも強引な手は使われないだろうが、あの司祭ならやりかねない雰囲気があるのも事実。
(やはり、力と地位を得るのを急がないとな…。)
「あの…実はまだ、呪いを受けてから高位の神請魔法が行使できたことを伝えていないんです。」
俺が今はどうしようもないことを考えていると、アデリナが俺たちにとって良いことを伝えてきた。
「それは…、…良いの?」
…まぁ、マリ姉がアデリナに訊ねたように、今は教会に属しているアデリナが俺たちに話したことは、極端な話裏切りである。
教会に対する裏切り…、万が一バレたら身の破滅だな。
「まぁ…良くはないですが、…良い機会かと。」
チラッ
マリ姉の問いにそう答えて、仄かに頬を紅潮させて俺に視線を送るアデリナ。
…信じられるか?
この清楚な美人、たまに〈サキュバス〉になるんだぜ?
「はぁ…。
ボソッ(ラス君に惚れるのは分かるけど…。)」
処置無しといったようにため息を吐くマリ姉だったが、その後何やら呟いたのは気のせいか?
「…ごちそうさま?」
ニーニャ、それどこで覚えた!?
… … … … … … …。
… … … …。
…。
と…何だかんだありつつも、俺たちはアデリナを還俗させるため、教会に赴き司祭様との会談のアポを取り付けたのだった。
次回「ブラックジャック」
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