123 レア素材
ポーション瓶の容量は大体250mlくらい
スライム。
それは“魔石を持たない”不定形の原始生物…らしい。
スライムは魔物ではないためか他の生物に対して攻撃的ではなく、大概のものを溶かし吸収する生態から「森の掃除屋」との異名がついている。
人々はその性質から、その辺のスライムを捕まえて汚物の処理に利用している。
またスライムから取れる〈スライムジェル〉はポーション等の作成に広く利用される〈低級溶媒液〉の素材となるため、子供が小遣い稼ぎに木の棒で狩ったり、スライムを養殖する専用の牧場まで存在する。
それらを踏まえて、マリ姉がミスリルスライムの討伐を焦った理由なのだが、単に希少種だからというだけではない。
通常種のスライム素材から出来るのは村の薬師ですら入手出来る〈低級溶媒液〉だが、ミスリルスライムの素材からは〈魔水銀〉というものが精製されるらしい。
この〈魔水銀〉は魔銃などの高度な魔道具の作成に必須らしく、精製前の〈ミスリルスライムジェル〉ですらポーション瓶一つで5万ゴールド前後で売れるというのだ。
「う~ん…ちょっと小ぶりねぇ、はい。」
そう言いながら〈ミスリルスライムジェル〉を回収するマリ姉が、ニーニャに渡したポーション瓶は3本目。
これで全体の大体3分の1程の〈ミスリルスライムジェル〉が回収された。
1本5万ゴールドの〈ミスリルスライムジェル〉が9本で45万ゴールド。
単純に考えて〈ミスリルスライムジェル〉だけで、アデリナを雇うための教会への寄進が賄えてしまった。
ダンジョンに入る度に用意する〈ダンジョン内限定ハイポーション〉の代金を含めても、その他ドロップ品の売却額を合わせると収入がマイナスになることはないだろう。
ウム、実に運が良かった。
アデリナが〈白の大樹〉に同行するのは、今日を含めて残すところ後3日。
その後どうするかは決まっていないが、俺個人の意見としてはそのままパーティーに加わって欲しいと思っている。
(…パーティーに回復役がいれば安心だからな。)
これはパーティーリーダーとして妥当な判断であって、決してアデリナが巨乳で美人だからという安直な考えではないのだ!
そう…たとえこの数日、アデリナが神請魔法を使ったところを見ていなくとも。
実力を知らないのに、その理屈はおかしいって?
………ごもっとも。
だけど仕方ないじゃないか、誰も怪我を負っていないのだから。
誰かが怪我をするよりはマシだろう?
パーティーメンバーが優秀で、リーダーとして誇らしい限りだ。
男としては微妙な気持ちにならないこともないが、そのための遠征なのだ。
「ラス君、この後どうする?」
俺が目的の再確認を終えたところで、〈ミスリルスライムジェル〉の回収を終えたマリ姉が次の行動について訊ねてきた。
「ニーニャ、今何時だ?」
チャリ…
「ん~…、天後一の鐘くらい。」
俺がニーニャに訊ねると、ニーニャは首にかけた〈ダンジョンタイマー〉を見て答える。
俺達がダンジョンに入ったのは、前天八の鐘の直後だった。
ちょくちょく休憩を挟んでいたとはいえ、日帰りで5時間の活動は長めだ。
(…〈インゴット・鉄〉が2本に、〈ミスリルスライムジェル〉が瓶9本。)
「…よし、帰還しよう。」
いつもならインゴット3本を帰還の目安にしていたが、今日は思いがけない成果があったため活動を切り上げることにする。
「そうね、それが良いわ。」
「ん、分かった。」
「…私は皆さんの判断にお任せします。」
「それじゃ行こう。」
アデリナが棄権したが、メンバーの半数以上の同意を得たため上層へ上がる階段を目指して歩き始める。
(…今はまだしょうがないか。)
パーティーで決をとる際アデリナが毎回棄権するのが気にはなるが、身内パーティーに臨時で加入していると考えればそれも処世術という奴なのだろう。
帰還の道中、俺は密かにアデリナを仲間に引き入れるための方法に無い知恵を絞るのだった。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
「こちら、素材売却代金の50万ゴールドになります~。」
「ああ、ありがとう。」
特に何事もなくダンジョンから帰還した俺は、いつも通りに“本日の成果”をギルドで売却して金に代えていた。
(うん、見込んだ通りに売れたか。)
今回ギルドで売却したのは〈インゴット・鉄〉2本に、〈ミスリルスライムジェル〉6本。
内訳としては〈インゴット・鉄〉の買い取り額が減少してはいたが、代わりに〈ミスリルスライムジェル〉がマリ姉の話より若干高く売れたので、全体的には変わらないという結果に落ち着いた。
「〈白の大樹〉の皆さんのおかげでお給金が減らずに済んで、職員一同感謝しているんですよ~。」
「それは良かった。」
冒険者支援の側面もある常設依頼が引き下げられたことから、ギルドの資金繰りが厳しいのは察していたが、まさか職員の給金を切り詰めなければならない程だとは思わなかった。
当然のことながら一つのパーティーの働きでギルドの運営が左右されることなど無い。
しかしダンジョンで得られた素材、特に〈第5層〉で活動し始めてからの俺たちの貢献は大きいだろう。
これが都合の良い物語ならば〈白の大樹〉の名はギルドに轟き、俺は美人揃いの受付嬢達でハーレムをつくったりするのだろうか?
しかし実際は感謝を伝えられるだけである。
そのことについて、既にニーニャとマリ姉と行動を共にし、加えてリタとも関係を持っている俺に不満を感じられるわけが無い。
…のだが、
「〈ミスリルスライムジェル〉を後3本ほど納品していただけたら~、特別なお礼…して差し上げますよ?」
カウンターから身を乗り出し、俺にそう囁くメリィさん。
「おっと、皆を待たせていたんだ!
今日はこれで失礼するよ。」
羊獣人であるはずのメリィさんに本能的な恐怖を感じた俺は半ば無理やり話を断ち切り、そそくさと逃げるようにギルドを後にしたのだった。
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┃『メリィさんは羊の皮を被った──』 ┃
┃ …文章はここで途切れている。 ▼┃
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