122 回復役確保!
“かも知れない”とは言ったものの、露骨な感想くれくれに応えて下さる優しい読者の皆さま。
誠意、見せましょか!
一体どれ程惚けていたのだろう。
ギリィッ…!
「いっ!?」
俺は突如脇腹に走った激しい痛みに、思わず叫びそうになるも悲鳴を噛み殺す。
「………。」
俺の脇腹をつねった犯人の方に目を向けると、据わった目のマリ姉が無言で俺を見返していた。
パクパク
と思ったらマリ姉は口を動かし、俺に何かを伝えてくる。
(「み・す・ぎ」?…ああ。)
どうやら俺はアデリナの胸をかなりの時間見ていたようで、マリ姉はそれを咎めたということらしい。
「どうかしましたか?」
しかし当のアデリナはテーブルの下で行われたマリ姉の凶行に気付いていないらしく、突然声を上げた俺に首を傾げるばかりだ。
その反応からしてそこまで露骨にガン見していたわけではないようだが、同じようなものを持つマリ姉は視線読みのエキスパートだったらしい。
「いえ、何も?」
問いかけられたのは俺の筈なのだが、アデリナの問いに応えたのはマリ姉。
(「何も」ってマリ姉が、)
チラッ
あっ、はい…黙ってマス。
「?…そうですか。
ではご用件に関してなのですが──」
「はい。実は───」
「そうですか。それでは───」
「ありがとうございます。謝礼は────」
「待って下さい。実は────」
「なるほど。では────」
マリ姉の視線に黙らされた俺と、元より交渉ごとには向かないニーニャ。
そんな俺たちを蚊帳の外に置き、マリ姉とアデリナの話し合いは続く。
話の流れ的には無事同行はして貰えるようで、期間や謝礼、分け前等の詳細な条件が次々に決まっていく。
パーティーリーダーである俺を抜きに決まっていくことに解せない気持ちを抱くが、〈白の大樹〉は身内パーティーのようなものなので任せていても問題はない。
仮にマリ姉が自分に有利な条件で決めたところで、パーティー全体の利益になることに変わりはないのだ。
「──では以上でよろしいですか?」
「はい。
まずは一週間、宜しくお願いします。」
どうやら不満なく話が纏まったようで、マリ姉とアデリナはどちらも微笑んで握手をする。
纏まった条件をざっくりと纏めると、
・アデリナが〈白の大樹〉に同行するのは一週間
・〈白の大樹〉はこの間、1日あたり3万ゴールド
の謝礼を教会に払う
・アデリナが同行するのはダンジョンとラビリンス
限定
・ダンジョン内への同行は〈第5層〉まで
・ダンジョンで得た素材の売却代金の内、3割をア
デリナの取り分とする
・負傷はなるべくポーション等で治療し、アデリナ
の神請魔法による治療は温存する
という、アデリナにかなり有利なものとなった。
教会に払う謝礼だけでも30万ゴールド。
アデリナの取り分も考えると、毎日〈第5層〉で〈インゴット・鉄〉を入手しなければ儲けが出ない。
分かってはいたことだが、治癒師をパーティーに同行させるというのは、 D ランク成り立てのパーティーにはかなり厳しいことだった。
…まぁ、〈白の大樹〉にはマリ姉がいるため、〈第5層〉のゴーレムは美味しい獲物でしかないのだが。
マリ姉には是非とも頑張って貰わねば。
それはともかく。
こうして俺たちは無事に回復役を確保し、〈第5層〉の探索に立ち入ることができるようになったのであった。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
─ 数日後 ─
「『火球』!」
ダンジョン〈第5層〉に出現する魔物…ゴーレムに、マリ姉の十八番の火の球が迫る。
ドオォーンッ!
『火球』は一直線にゴーレムを捉え、命中と同時に炸裂する。
「ggg…」
岩同士が擦れるような音を出しながら、爆煙から姿を現すゴーレム。
パラパラ…
しかしその岩の体には全体に罅が入り、砕けた細かな破片が動く度に毀れ落ちる様は、いかにも満身創痍といった感じだ。
そしてその印象は間違いではない。
「『石突打ち』!」
ドゴォッ!
俺は槍をクルリと回し、石突でゴーレムの土手っ腹を打ち据える。
「goOooッ!?」
ビキッ、ビキビキビキッ
『火球』により脆くなっていた体は『石突打ち』のだめ押しにより、限界を迎えて崩壊する。
「gooo…」
…ゴトッ
力尽きたゴーレムは一片の欠片も残さず幻のように消え、代わりに金属のインゴットが一つ残された。
「む…、また鉄…。」
武器が武器だけにドロップ品の回収係と化したニーニャが、ドロップしたインゴットを見て口を尖らせる。
〈インゴット・鉄〉は外れドロップというわけではないのだが、ここ数日毎日のように回収しているため飽きてきてしまったのだろう。
「ごめんねニーニャ、荷物を任せちゃって。」
遠慮なく魔法を使えてご満悦だったマリ姉も申し訳なさを感じたのか、ドロップ品をリュックに詰めるニーニャの頭を撫でて宥める。
(片手鶴嘴でも使わせるか?)
戦闘に参加出来ればつまらなくはないのだろうが、ゴーレムに有効な武器はニーニャの戦闘スタイルととことん相性が悪かった。
速さと手数を強みとするニーニャに、一撃の威力と重量の重いメイスは対極にあると言って良いだろう。
(でも結局は攻撃の時に動きを止めることになっちまうか…。)
メイスよりは使えるだろうと片手鶴嘴を武器に考えてみるが、やはりニーニャの戦闘スタイルの強みが消えてしまう。
ここはニーニャに我慢して貰うことにしよう。
(…メリィに旨い串焼き屋を教えて貰わないとな。)
プニッ
「お?」
「nyurun?」
ニーニャの機嫌をどうやって取るか考えようとした時、俺の足元に銀色のパン生地を丸めたような物体が居た。
「魔銀スライム!?
ラス君早く倒して!」
「nyuッ!?」
マリ姉の焦ったような声。
スライムはそう危険な生物ではないのだが、俺は反射的にミスリルスライムを攻撃しようとした。
「nyuruーッ!」
(速っ!?)
しかし槍を構えた時には、ミスリルスライムは逃走していた。
このままでは逃がしてしまう。
シュッ、バシッ!
「nyu゛ッ!?」
しかしどこから飛んできた石に打たれ、ミスリルスライムが怯む。
フッ…、グサグサッ!
怯んで動きを止めたミスリルスライムに影がかかり、ミスリルスライムが再び動き出す前に2本の短剣がミスリルスライムを貫く。
「nyuuu~…」
ミスリルスライムはそのまま脱力するように形を崩し、二度と動く気配がなくなった。
「ん、倒した。」
そう言って短剣を納めたニーニャは、誰が見ても満足気な笑みを浮かべていたのだった。
イメージはメ○ルスライム
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