121 治癒師を求めて
〈白の大樹〉メンバー、各人のランク
リーダー ラスト Dランク
マリア Dランク
ニーニャ Eランク(限定)
ラストのランクがしれっと上がっとるやないかい!
(やられた…!)
回復役として雇える治癒師がいないことを告げられ、俺は内心で舌打ちをする。
俺はてっきり、レオンが俺たちのことを他の多くの探索者のように「ランクをある程度上げ次第、稼ぎの良いダンジョンにやって来た」と思っているように考えていたが、実のところは俺たちが雇える治癒師がいないことを承知で「パーティーに回復役を加える」という条件を出してきたのだ。
雇える治癒師がいなければ金のあるナシは関係ない。
俺たちがダンジョンの〈第5層〉を探索するにはクランに所属するか、〈第5層〉の探索を諦めるしかない。
(あの野郎…!)
自分たちで雇用可能な治癒師を独占しておいてそれをダンジョン探索の条件にするとは、騎士を自称する奴の風上にもおけない卑怯者である。
そんな奴を野放しになど出来ぬ、必ずかの卑怯者を除かねばならない。
「見習いでも良いので誰かいませんか?」
レオン打倒を密かに掲げた俺の隣で、司祭様に見習い治癒師の派遣を求めるマリ姉。
「しかし見習いでは…、皆さまのお役には立てないかと。」
と、こちらの不利益を気にしているように見せかけて、司祭様は遠回しに断る。
…まぁ、司祭様の「役に立てない」という言葉も事実ではある。
しかしそれ以上に、少人数でクランにも所属していない新顔のパーティーに、探索に慣れていない見習いを預ける気が無いのだろう。
「ついて来て貰うだけで良いんです。
ラス君、ギルドカード貸して。」
「お?おう…。」
マリ姉の有無を言わせない雰囲気に、胸ポケットに突っ込んでいたギルドカードを手渡す。
…おそらくマリ姉はギルドランクを実力の証明に司祭様を説得しようと考えたのだろうが、俺たちのような他所から来た冒険者は似たり寄ったりのランクである。
「…ふむ。
噂でスタンピードが発生したとは聞いていましたが、貴方が功労者の一人でしたか。」
無駄だという俺の予想と違い、俺のギルドカードを見た司祭様の反応は好感的だった。
(あっ、そういうことか!)
ランクを見せるだけであれば、俺とマリ姉のランクは同じである。
何故態々俺からギルドカードを借りたか疑問だったが、俺の「スタンピードにおける主級魔物」の討伐実績を司祭様に示すことが目的だったのだ。
「…紹介だけでもして貰えませんか?」
治癒師はいればいただけ、その街の住民は安心する。
ゆえに治癒師は割りの良い仕事をいくらでも選ぶことができ、「ダンジョンへの同行」等危険な仕事を選ぶ者はあまりいないことだろう。
そんな中で冒険者という荒くれに雇われても良いという変わり者が現在空いていないとなれば、あとは雇わせて貰えるように説得するしかない。
とはいえ好き勝手に交渉するわけにもいかないため、マリ姉は“紹介”という“個別交渉の許可”を求めたわけだ。
「ふぅむ、……一人だけ心あたりがあります。」
「本当ですか!?お願いします!」
駄目で元々だったのだろう。
心あたりがあるという司祭様の言葉に、即座に食いつき頭を下げるマリ姉。
「お願いします!」
「…お願い?します。」
俺もマリ姉に続いて頭を下げ、それを見たニーニャも真似をする。
「保証はしません、それでも良いのであれば。
…アデリナを呼んで下さい、第3談話室です。」
司祭様は俺たちに念押しすると、お付きのシスターに心あたりの人物を呼びに行かせた。
「では皆さま、こちらへ。」
残ったもう一人のお付きのシスターが、俺たちに移動を促す。
どうやらここからは当人同士の話し合いということらしい。
…………………。
…………。
…。
コツ、コツ、コツ
「ではこちらでお待ち下さい。」
〈第1談話室〉〈第2談話室〉というプレートが掛かった部屋をとうに過ぎ、かなり奥まった部屋に案内される。
扉から手入れの行き届いた他の部屋とは異なり、この部屋はそうと知らなければ「長らく使用されていないのではないか」と勘違いしそうな小ぢんまりとした部屋だった。
「…何か落ち着く。」
しかしニーニャが言うように、室内はシンプルながらも滞在に問題ないように整えられていた。
「平民向けの部屋ってことね。」
マリ姉にそう言われて見れば、なるほどと思う。
平民…とりわけ冒険者を案内する部屋に、貴族や金持ちと同じ部屋をあてられるわけは無い。
調度品が万が一破損した場合もそうだが、談話室というだけあって緊張させないようにという配慮もある筈だ。
コンコン
室内の観察を終えて落ち着いたタイミングで、遠慮がちに扉がノックされる。
「はい、どうぞ。」
キィ…
「…失礼します。」
マリ姉が入室の許可を出すと、最低限開いた扉の隙間からソロリと入って来るシスター。
「皆さま初めまして、私はアデリナと申します。」
「っ…!」
(おぉっ!?)
そう自己紹介をして顔を上げたアデリナの顔を見て、俺たちは息を飲んだ。
緩く波打つライトブロンドのロングヘアに、光の加減によって赤紫にも見える薄紫色の神秘的な瞳。
薄く光っていると見紛う美しい肌に、薄紅色の艶々とした唇。
勇者パーティーの聖女が「聖女」であるなら、アデリナは「聖母」または「豊穣の女神の写し身」とでも言おうか。
…ここまで言えばお察しの通り。
アデリナが着るのは禁欲的なシスター服なのだが、一部の盛り上がりを筆頭にその色気が全くと言って良い程隠されていなかった。
(マリ姉サイズ、だと…!?)
マリ姉のものも中々に大きなサイズなのだが、アデリナのそれはもしかするとマリ姉以上のものなのかも知れない。
ベビーリーフタウンの司祭様が言っていたように創世教に禁欲の戒律は無い、どころか信仰の中心によっては推奨されているまである。
だが、敢えて言わせて貰おう。
(「その胸で聖職者は無理でしょ」)
ヒロイン候補その2
※ラストのランクアップについての描写をep 91に追加しました。
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