120 盲点
お久しぶりです
さて…〈光の騎士団〉リーダーのレオンに付けられた条件だが、それを達成するのは難しいことでは無い。
神請魔法の使い手は攻撃魔法の使い手より少ないとは以前ニーニャに説明したが、田舎の街に数人居るくらいだ。
そしてこの街はダンジョンを抱える大都市で、探索者という練習台には事欠かない。
熟練者は雇えないか既にどちらかのクランが雇っているだろうが、見習いであろうが回復役は回復役である。
しかし見習いであっても貴重な神請魔法使い、雇うとなればそれなりに高いお布施を必要とされる。
レオンは Dランクに成り立ての俺たちにそんな金は持っていないと考えたようだが、俺たちにはスタンピードの報償等で永久雇用すら可能な蓄えがある。
(…こいつに狙われたのも悪いことだけじゃ無かったってか?)
俺は今や叙事詩級の槍と化した魔物に思いを馳せるが、当然ながら槍から反応が返ってくることは無かった。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
〈創世教会フラワーフィールズ王国本部ラビリンス出張教会〉。
それがここ、〈ラビリンス〉にある創世教教会の正式名称である。
何故こんなややこしい名前になっているのかというと、教会がもたらす利益で民衆に最も分かり易いのが治癒師。
その育成の最大手という権威を地方支部に渡さないためという、なんとも心の狭い理由からだった。
まぁ…理由がどうであれ俺たちにして見れば、「名前がややこしい」以外に害も無いので好きにすれば良いと思う。
そんなことより見習い治癒師を、回復役として俺たちのパーティーに同行させて貰うのが先決だ。
「これはこれは、冒険者殿。
本日はいかなる御用ですかな?」
そう訊ねながら教会に入った俺たちに近寄ってきたのは、若いシスターを二人連れたどこか胡散臭さを感じる初老の男司祭様だった。
人の…しかも聖職者に抱く印象としては失礼極まりないとは分かってはいるが、顔はにこやかなのにかもし出す雰囲気に振れが無いのだ。
雰囲気という曖昧なものでの判断に「お前は何を言っているんだ?」と思われるだろうが、オットーさんとの特訓でそういうものをそれとなく察することが出来るようになったのだ。
「獣人は悪意に敏感」などと言われ、実際にニーニャも勘が鋭いことがあるが似たような理屈なのだろう。
…まぁ、教会と言えど人の組織だ。
その中において重要な地位に就くというのは、やはり潔白のままというわけにはいかないのだろう。
〈ベビーリーフタウン〉の司祭様は聖職者というに相応しい人柄だったが、だからこそ田舎の街に追いやられてしまったのだろう。
そのおかげで命を拾った俺が言うのは烏滸がましいが、当人が権力に興味が無いことで丸く収まっているので、それはそれで良いのだろう。
ここの司祭様に関しても腹に一物を抱えていようが、俺たちに害が無いのなら許される範囲で好きにすれば良いのだ。
「あ~…っと、」
(なんて言えば良いんだ?)
ここで回復役を雇えるとは知ってはいても、具体的な手順などを知らないため言葉に詰まる。
「浄財ですかな?奉納ですかな?
それとも得度ですかな?」
(うっ…!?)
俺たちが単に祈りに来たわけではないことを覚ったのか、獲物を見つけた魔物のように目をギラつかせて詰めてくる司祭様。
司祭様のその勢いに辟易ろぎ、俺は一歩退かされる。
(てか、金か物か本人って俗過ぎないか!?)
確かに祈る以外の用事としては妥当なのだろうが、それはあくまでも自ら進んで行うことだ。
救世教のように清貧が教義にあるわけではないものの、司祭様のこの行動を下品に思ってしまうのは俺の心が狭いからではない筈だ。
「あのっ、私たちパーティーに回復役を求めてまして。
ダンジョンに同行して貰える治癒師の紹介をお願いします。」
押し売りをする商人のような司祭様にたじたじの俺を見かねたのか、マリ姉が俺と司祭様の間に割り込むようにして用件を伝えた。
〈白の大樹〉のリーダーは俺だが、ここに来てからマリ姉に頼ることが多い。
不甲斐ないリーダーで申し訳なく思うものの、ダンジョンに関するあれこれにはマリ姉に一日の長がある。
「…追加の派遣、ということですかな?」
マリ姉話した用件を聞き露骨にテンションを下げた司祭様だが、その返答は明らかにこちらの要求に合っていないものだった。
(…ああ、そういうことか。)
この街に来たばかりの俺たちですら、探索者が2つのクランに二分していることを知れた。
この街に根付いた教会の司祭様がそのことを知らない訳がなく、教会がその2つのクランに治癒師を何人派遣しているかも当然把握しているのだろう。
クランに属している探索者パーティーは、クランに派遣されている治癒師を連れてダンジョン攻略に入る。
それなのに探索者パーティーが治癒師の派遣を求めて来たのだから、追加の派遣を求めていると勘違いしても仕方ない…のか?
「あ、いえ。
私たちはクランに属してはいないので…」
司祭様が勘違いしていることを俺と同様に覚ったマリ姉が、自分たちは個別のパーティーであることをやんわりと主張する。
「おお!?…それは失礼。
………あぁ。」
マリ姉の指摘を受けて謝罪する司祭様だったが、途端に顔を覆って天を仰ぐ。
「申し訳ないのですが、現在皆さまに同行可能な者はいませんな。」
そして無表情で俺たちに向き直ると、突き放すように淡々と告げたのだった。
そーるどあうと
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