11 武器の決定と購入
???「まだだ、まだゴブリンは殺らせはせんよ!」
何だかんだで俺の今のところの武器適性は、良いものから順に槍、ハンドアクス、メイス、スリング、魔拳銃、魔猟銃の6種となった。
「ほらぁ、やっぱり槍だったじゃないですかぁ♪」
得意げな顔で俺に言うリタ。
「ま、新人は剣を選びがちだが、素人には槍が一番扱い易いんだ。」
ギルマスの言うように、刃の当て方など剣は扱いに意外とコツが要る。
比べて槍はリーチがあるのは勿論、突きの動作は隙が少なく、穂先部分以外が木製のため武器の大きさに対して軽い。
また、重量が鉄製の穂先に偏っているので、最悪振り回すだけでもダメージを与えることが出来る。
俺的にはやはりリーチがあるのが、一番有り難い点だ。
「欲を言えば盾を持てたら安定性がグッと増すんだが…。
とりあえず槍の扱いに慣れてからだな。」
いくら剣に比べ軽いと言っても片手で扱える程ではない。
ましてや利き腕でない左腕で盾を持つなど、両手斧を持つことが出来なかった俺には厳しい。
「てことで俺のオススメは槍何だが、ラストはどれが良い?」
槍の利点だけを挙げていたが、俺の適性武器は5種もある。
しかしその内、魔拳銃と魔猟銃はとても手を出せる値段ではなかったので、実質槍、ハンドアクス、メイス、スリングの4種だ。
槍は先ほど言った通り。
ハンドアクスは少々重いが、その分威力はある。
リーチは短いが取り回しが良いのも利点だ。
メイスは俺が持つと、まさに服を着たオークになってしまう。
ので、たとえ利点が多くても問答無用で除外する。
スリングは最も安上がりでしかも飛び道具だ。
紐と弾をつかむ布があれば自作も可能で、弾もその辺に転がっている石で十分だ。
しかし小さな標的に当てることは難しく、毛皮の厚い魔物には効き辛いのが欠点か。
以上をふまえると、やはりというか、ギルマスの見立て通りというか。
「俺は槍を使うことにする。」
とまあ、そういうことになる。
「そうか、良い選択だ!」
「それで、これっていくらになるんだ?」
良い笑顔で親指を立てるギルマスに、試しで振るった槍をさして聞く。
「スマンが試しの武器はギルドの備品だ。
それに鈍くら武器で、実戦には使えん。」
失念していたが、ギルドの修練場の倉庫にあった武器が販売しているわけがなかった。
それに俺のような素人に振らせる武器が、切れ味抜群の業物では危な過ぎる。
「じゃあこの街の鍛冶屋の紹介を頼む。」
「なら職人ギルド直営の店が良い。
鍛冶屋に直接依頼するのは稼げるようになってからだな。」
「職人ギルド直営だって?」
村では服は針子、農具や包丁などは鍛冶屋と、それぞれの専門の職人に頼んでいた。
「ああ、そこなら武器だけじゃなく冒険者の基本セットが揃えられるぞ?」
職人というのは物を造ることに優れていても、全員が商売上手とはならない。
過去に、材料の仕入れや作品の販売で商人に搾取され、店を閉める職人達が問題となった。
当時職人独自の工夫(古の勇者曰く“特許”というらしい)の保護を主としていた職人ギルドに、各ギルドのグランドマスターが話し合うギルド総会から『職人が取引を一任できる店』の経営が要請された。
それが職人ギルド直営店の始まりで、今では見習いの作品を安く販売するなどもして、職人ギルドが若い職人の支援者的な活動をしているらしい。
「んで、直営店の要請のきっかけが、当時の有名な冒険者が、馴染みの鍛冶屋を助ける為にグラマス達に直談判したってことで、チュートリアルを受けた冒険者は初回限定で割引して貰えるのさ。」
なるほど、店を構える一人前の鍛治師の作品は新人冒険者には良い物過ぎる。
武器に慣れるまでの間に合わせ的な武器ならば、見習いの作品で十分事足りる。
見習いとしても作品が売れたら自信となるし、何より現金収入を得られる。
また店側も初回割引で客寄せをすることで、多くの常連客をつくることが期待できる。
上手く客・職人・店の三方好しとなっているわけだ。
「ここが職人ギルド直営の店だ。」
考えながらもギルマス自らの案内で、服に武器・鎧、皿や瓶などの陶器に、家具、雑貨…流石に食品や宝石などの高級品は置いてはいないが、それ以外なら何でも置いてありそうな雑然とした店に着いた。
[職人ギルド直営店 相棒に屋]
コンビに屋…少し言いにくいが、店と客の関係を相棒と例えるのは中々良い発想だと思う。
屋が付くから言いにくいのであって“コンビに”で区切れば、なんだか不思議としっくり来る。
「お~い…俺だ、冒険者ギルドのオットーだ!
新人の槍を見せて貰うぞ!」
店に置かれている物は雑然としているが、売り物自体は種類毎に区分けされ、きちんと整理されて見やすく陳列されていた。
ギルマスは誰もいない店の奥に叫び、武器・鎧の区画に向かう。
「ホラよ。」
ギルマスは見習い作品が纏められた一角に寄ると、樽に立てられていた槍の束から長めの一本を無造作に引き抜き、俺に渡してきた。
[粗鉄の槍 どれでも一本1万ゴールド]
槍の入っていた樽に貼られた札を見ると、銀貨10枚の値段が書かれていた。
(やっぱり武器は高いな…。)
「どうする、これ以上安い槍は恐らく無いぜ?」
俺の内心を見透かしたかのように煽るギルマス。
見習いの作品とは言うが、職人ギルド直営店が売り物にする槍だ。
これが職人ギルドの認める槍の最安値だとすると、これより安い槍があったとしても信頼出来る物ではなさそうだ。
「手持ちが無いならギルドが立て替えるぞ?」
ギルマスが俺に、本日二度目の借金をしろと言う。
しかも今度は登録料の3倍だ。
今回は俺が個別でギルドに借金するわけなので、当然利子が発生する。
一般的な利子の10日で一割で考えても、俺の現在の手持ち2340ゴールドでは、これから依頼で稼ぐとしても、宿代1000ゴールドを考えると、借金奴隷ルートが極めて近い。
それを避けるには、
「くっ…、やっぱり俺には棍棒しかないのか!?」
僧侶の持つような総鉄製のメイスならそうはならないが、総鉄製のメイスは粗鉄の槍より高くなる。
[木製棍棒 どれでも1,000ゴールド]
いかにも「木工職人見習いが細工用ナイフに慣れる為に削りました」と言うような、歪な棍棒の樽が目に入る。
「い…嫌だ、止めろ。俺は人間なんだ…!」
世界に「オークになれ」と言われているように感じ、俺は戦慄く。
「手持ちが無いだぁ?
なら背中のモン下取りに出せば良いだろ?」
「それともシロウトが二槍流しようってか?」と続けて言ったのは、背が低くずんぐりとした体型の髭モジャだった。
わあ どわあふ だ!
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