閑話 side「勇者」その1
入れ忘れていた勇者サイドになります。
三人称視点でお送りします。
※残酷な描写注意
冒険者パーティー〈白の大樹〉が〈迷宮都市・ラビリンス〉への遠征準備をしている頃、渡率いる勇者一行は次なる目的地に着いていた。
「…こんな田舎村で、ワタルの言うような事件が起きるとは思えないのだが?」
渡と対をなすパーティーの前衛…では無く「聖女」セラフィアの専属護衛である「騎士」ジャンヌが、渡に胡乱な目を向けながら独り言ちる。
「まぁ、起きないようにしたんだけど。
一応の確認に、ね。」
渡は〈ブレサガ〉のストーリーで、セラフィアが語るジャンヌの人物像との違いに苦笑しながら相槌を打つ。
「確か…死者の蘇生、でしたか?」
「聖女」セラフィアが、渡に聞いた事件の首謀者の目的を再確認するように問う。
「うん、そうだね。」
〈ブレサガ〉のストーリー第1章にあたるこの事件は、ストーリー序章のスタンピードで恋人を失った魔術師の女が、恋人を蘇らせるための実験で付近の村に被害をもたらすというものだ。
主人公はこの時の生き残りの村人の依頼により、アンデッド蔓延る〈ウィッチハント村〉へと向かう。
元村人のアンデッドを全て倒すと元凶である「魔女」が現れるのだが、戦闘勝利後の選択によって「魔女」が仲間に加わる。
という、いわゆる“仲間加入イベント”となっているのだ。
「魔導による神の奇跡の再現、ふむ…興味深い。」
〈ブレサガ〉における「魔法使い」の上位職である、「魔導師」リズリットがぼそりと呟く。
「いや、ダメだからね!?」
勇者である自分たちがアンデッドハザードを起こすわけにもいかない。
渡は慌ててリズリットに注意する。
「…………分かってる。」
渡の必死の注告に、リズリットはかなりの間を空けて頷く。
「そうだよね、あはは…。」
渋々といった様子のリズリットに、渡は愛想笑いを返した。
こうして、一抹の不安要素を抱えながらも勇者一行は、目的地である〈ウィッチハント村〉へとたどり着くのだった。
…………………。
…………。
…。
勇者一行が〈ウィッチハント村〉にたどり着くと、一人の青年が門番のように村を囲う柵の切れ間に立っていた。
「…む、止まれ!」
門番のようではなく、青年はまさに門番なのであろう。
村に近付く、冒険者にしては煌びやかな格好をした4人の男女に気付いた青年は、その4人組にその場に留まるように大声で呼び掛ける。
…ピタッ
「…その場で待て。」
呼び掛けに従い立ち止まった4人組を見て、野盗の類いではなさそうだと判断した青年は、用心のために柵に立て掛けていた鋤を手にして4人組に近付く。
「何の」
「どうも!お仕事ご苦労様です。」
ビクッ
用件を尋ねようとしたところ、4人組の内唯一の男に言葉を遮られ、青年はたじろぐ。
「いや…い、いえ。
お貴族様だとは知らず、ご無礼を…。」
声を掛けてきた相手は少年と言っても差し支えがなさそうであったが、その丁寧な言葉使いから、青年はこの4人組を貴族の一行だと判断した。
「いや、僕は別に…」
「ようこそ〈ウィッチハント村〉へ!
ご案内致します!」
青年は素性を看破されてなお誤魔化そうとする少年に気付かないふりをして、一行を村へと先導したのだった。
ただでさえ青年は、最初に無礼を犯しているのだ。
これ以上の相手は気が気では無く、青年はさっさと村長に一行の相手を丸投げしたかったのだった。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
所は変わって村長宅。
村長宅で歓待を受け用件を聞かれた渡は、まず旅のための保存食を求めた。
「申し訳ないのじゃが、不作の影響で村の者達にも行き渡らない次第で…。」
「そうですか…。」
平身低頭といった様子の村長に対し、「有れば良いや」くらいの軽い気持ちだった渡は、これからの時期食料が十分でない村人に同情する。
…尤も、その同情も「農民の人達は大変だなぁ」くらいの軽い気持ちなのだが。
村長ましてや渡は知る由も無いのだが、この年の不作は“成育の過程で成育に必要な要素が欠如したような空穂の多さ”と大陸中の国々で報告書が上がる異常事態だった。
それはさておき。
ここまでは村長が恐縮してはいるものの、概ね問題が無かった。
しかし渡の主目的のための次の要求により、空気が悪いものに一変する。
「じゃあ、この辺にある生活拠点になりそうな建物の場所を教えて下さい。」
「っ…!?」
渡の何でもない要求に、息をのみ顔を強張らせる村長。
「…村長?」
「駄目ですじゃ。」
体調でも悪いのかと心配する渡に、語気を強めてはっきりとした拒否を突き付ける村長。
「何故か聞いても?」
「言いませぬ。」
急に頑なな態度を取り始めた村長に、渡だけでなく4人全員が訝しむ。
しかし村長のこの態度には理由があり、その理由というのが、渡の言う条件に当て嵌めるのが、普段は主に村の狩人が狩りの拠点としている山小屋しかないからだ。
この小屋には現在、冬のための食料が備蓄されているのだが、その中には徴税を逃れるために村全体の収穫の一割にも及ぶ麦が隠されていたのだ。
「そこを何とか…。」
事情を知らない渡は、物語の強制力によりこの村が「魔女」ではない苦難に見舞われていると思い込み、どうにか話を聞き出そうとする。
「この口を裂かれようとも言いませぬ。」
しかし村長は衰えた身で、自らの苦痛と引き換えてでも黙秘する覚悟を見せる。
(一体何が村長にそこまでの覚悟を…?)
村長の気迫に圧され、渡は原因を考えるべく思考の海に沈む。
しかし、それがいけなかった。
「『炎上』。」
淡々とした声で紡がれた短い詠唱。
ボッ…!
「ぎゃあああっ、熱いっ熱いぃ~!」
火達磨と化し、悲鳴を上げて転げ回る村長。
「リズリットさん!?」
渡が凶行の犯人であるリズリットの名を呼び咎める間にも、事態の悪化は止まらない。
バタンッ!
「親父っ!」
村長の悲鳴を聞きつけ、渡たちを案内した門番の青年が部屋に飛び込んで来る。
「大変!回復を…」
リズリットが魔法を解除したことで、全身火傷を負った村長にセラフィアが駆け寄る。
しかし…
「親父に触れるなっ、魔女の手先め!」
父親の惨状に激昂した門番の青年は、あろうことか治療をしようとするセラフィアに殴り掛かる。
シャキンッ
僅かな金属の擦過音。
ボトッ…
「ぎゃあああ、俺の腕があぁっ!」
「下郎が、姫に何をしようとした!」
ブンッ!
門番の青年の腕を瞬時に斬り落としたジャンヌは、怒りのままに青年を斬り殺そうと剣を振る。
ガキンッ!
「ちょっと皆ストップ!落ち着いて!」
渡がジャンヌの剣を自分の剣で受け止め、その場の全員に制止を呼び掛ける。
ガヤガヤ…
「余所者が暴れてるらしい。」
「村長が殺されたそうだ。」
「村を皆殺しにして食料を奪うつもりだ!」
しかし時既に遅し。
どこで話が曲解したのか分からないが、渡たちは村人達にとっての殺戮者と認識されてしまっていた。
村長宅に迫る殺気を湛えた村人達。
「セラフィアさん、二人の治療は?」
「はいっ、どちらも恙無く!」
「ありがとう。
それじゃ皆、この村から脱出するよ!」
こうして勇者一行は何一つ目的を達すること無く、次の目的地へと向かったのであった。
ワタル は 大衆 に対し 僅かに疑問を持った。
セラフィア は 混乱している。
ジャンヌ は 大衆 に対し 不満を募らせた。
忠誠 + 1
リズリット は 大衆 を軽蔑した。
大衆 が 愚民 に変化した。
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