115 迷宮都市に起こったこと
話の区切りの都合で短めです。
「…まさか、そんなことになっていたなんてねぇ。」
ダンジョン〈楔の宮〉、その〈第2層・草原〉での慣らし中、マリ姉がポツリと口にする。
あの後黙り込んでしまった冒険者に無理矢理話を聞くわけにもいかず、俺たちは詳しい話を知っているであろうギルドの職員に詳しい話を聞いた。
俺たちが話を聞いた羊獣人の受付嬢…メリィさんの話によると、事の始まりはこの街を拠点としていた Cランクパーティー〈楔の絆〉の壊滅。
そのパーティーはこのギルドにおける代表格だったらしく、〈楔の絆〉壊滅の報はギルドどころか街に少なからず混乱をもたらした。
また、この報が冒険者ギルドで無く、教会から発表されたことが混乱を更に大きくした。
何故そうなったのかと言えば、唯一生還して 〈楔の絆〉壊滅の報せをした人物が、〈楔の絆〉に雇われ回復役として同行していたシスターだったからだ。
教会の発表によれば、
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探索者パーティー〈楔の絆〉は、ダンジョン〈楔の宮・第6層〉にて非常に強力な魔物に遭遇。
盾役ドナを囮に残し逃走するも失敗。
剣士ソウ、斥候ハトリが対峙し死亡。
荷運びヒューバートは錯乱、逃亡後行方不明。
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とのことだ。
この発表に対しギルドは「非常に強力な魔物」の詳細を求めたが、教会はこれ以上の聴取は同行していたシスターの心身に負担が大きいとして不明のまま。
正直な話、ここまでであれば割と良くある話の組み合わせである。
幾つかの不幸が重なり事態が重大化したというわけだが、ギルドを襲った不幸はまだ続く。
代表格のパーティーの壊滅という事態にギルドの混乱が収まり切らない頃、ダンジョン内での盗賊行為が多発する。
ダンジョン内で盗賊行為を行う者たちに「略奪者」という呼び名が付く程と言えば、その被害の大きさが伝わるだろう。
このトレイター達の駆逐に貢献したのが、実力だけならば〈楔の絆〉以上だった〈絶対正義の力〉と、〈楔の絆〉に代わる代表格として王都ギルドより招かれた〈光の騎士団〉だったのだ。
片や評判はいまいちだが実力は本物の地元のパーティー、片や評判も良く実力もあるが他所からきたパーティー。
ギルドが二分するのは必然とも言えた。
だが、最初から今のように「どちらかに所属していなければ迷宮の探索は無理」という状況では無かった。
元はと言えば自由を掲げる冒険者。
当然〈絶対正義の力〉と〈光の騎士団〉のどちらにも合流しないパーティーは、それこそ併せれば第三勢力となる程には存在していた。
しかしそれほどまでにあったパーティーは、今や見る影も無い。
その原因が未だに判明していない「非常に強力な魔物」の存在だ。
時に瞬時に一人の命を狩って姿を消し、時にパーティーごと行方が分からなくなる。
当時既に派閥を築き始めていた二つのパーティーにも被害はあったのだが、一パーティーあたりの人数の問題か、二つのクランに関係するパーティーがパーティーごと行方不明となることは無かった。
また重要となるヒーラーを派遣する教会が「〈楔の絆〉壊滅事件」を受け、ヒーラーの派遣を渋ったのもクランへの合流を促した。
このことにより二つのクランとそれ以外の格差は決定的となり、パーティー単位で活動していた探索者はクランに合流するかこの街を去った。
…おそらく外の依頼専門だと言っていたあの冒険者は、この一連の騒動で割を食ったりしたのだろう。
そしてそれは俺たちも例外では無かった。
厳密に言えばマリ姉が世話になったパーティーが〈楔の絆〉だったというだけなのだが。
マリ姉もその辺は割り切ってはいるのだが、やはり知り合いの死はショックなのだろう。
マリ姉の呟きは一連の流れを聞いての感想のようだが、俺にはそう思えた。
「マリア…。」
そしてそう思ったのはニーニャも同様だった。
「あ、大丈夫!
気にしていないと言えば嘘になるけど、悲しいわけじゃないから!」
俺とニーニャがしんみりしていることに気付いたマリ姉が慌てて弁明するが、その様子は確かに無理に振る舞っているようには思えなかった。
「それはそうと、そろそろ帰りましょ?」
と、まだまだ周りが明るいにもかかわらず帰還を提案するマリ姉。
(…やはり辛いのだろうか?)
そんな疑問が顔に出ていたのだろう。
「ああ、ダンジョンの中に時間は無いのよ。」
(時間が無いだって?)
「時間が無い?」
マリ姉の話に、俺はどういうことかを考えようとしたが、俺と同じ疑問を持ったニーニャは素直にマリ姉に訊ねることにしたようだ。
分からなければ、分かる人に聞く。
…なるほど、それが一番手っ取り早く正確に近いことに違いない。
それからの俺たちは探索を切り上げ、マリ姉にあれこれと話を聞きながら、常晴れの空の下街への帰路を行くのだった。
更新のペースを早めたい今日この頃。
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