114 対立する二つのチーム
〈光の騎士団〉と名乗った集団の代表らしき男は、…なるほど。
自らの率いる集団に騎士団と名付けるように、茶髪に茶目と最も一般的な色彩ながら…いや一般的な色彩だからこそ、その容姿の良さが際立っていた。
(ちっ、イケメン野郎が。)
しかしいくら容姿が良かろうと、俺に取っては嫉妬を通り越して憎悪を向ける対象にしかならない。
というのも、元身内に外面だけのクソ野郎がいたからなのだが。
「あ゛ん?テメェはすっ込んでろ!」
蛮族一味の親分もその点は俺と同様だったらしく、自称騎士団長に掴み掛からんばかりの勢いで噛み付いた。
アレと同等の考えということについては思うところがあるが、ターゲットを変えてくれたのは正直助かる。
「ふぅ、君たちは相変わらず粗暴だな。
君たちのせいで他の探索者まで迷惑していることを自覚しているかい?」
そり言葉と諦めを含んだ呆れた雰囲気に、俺はこのやり取りが日常的なものだと覚る。
「はんっ、お前たちが迷惑していようが俺様たちには関係ねぇ!
お前らみてぇなナヨっちいのは後ろのママにでも甘えてな!」
「「「「「ギャハハハハ!!」」」」」
粗暴な輩の言動は場所が変わっても変わるものではないらしく、〈光の騎士団〉を馬鹿にすると子分たちは下品な声を上げて嗤う。
…しかしまぁ〈光の騎士団〉女性メンバーをママと揶揄したものの、「ママのおっぱいでも吸ってな!」にならないあたりに女性メンバーがいることへの嫉妬を隠せていない。
「っ、彼女たちを馬鹿にするのは許さない!」
ビクッ!
(おおぅ!?)
突如として〈光の騎士団〉リーダーが上げた大声に、俺は面食らって身体を跳ねさせた。
というのも絡まれた際の態度から、俺はてっきり「そんなんだから女性が寄り付かないんじゃないか…。」などと言って軽く受け流すものだと思っていたのだ。
「ふぅん…、騎士団を自称するだけはあるみたい。」
自称騎士団長の豹変に目を白黒させていた俺に、マリ姉がスッと寄ってきて小声で言う。
「騎士道ってやつか?」
小声で問う俺に、小さくコクリと頷くマリ姉。
それならもう少し周りに気をつかえと言いたいところだが、だからこその“自称するだけはある”というマリ姉の評価なのだろう。
いくら自称しようが、結局のところは冒険者の一パーティーに過ぎない。
劣化竜は竜にはなれないのだ。
「へっ、いくら喚いたトコでお前らが俺様たちより弱ぇことには変わんねぇよ。」
「そこまで言うなら仕方ない。
我々《光の騎士団》は君たち《絶対正義 の 力 》に決闘を申し込む!」
ちょっと意識を逸らしていた間にもヒートアップしていた言い合いは、いつの間にやら実力行使の直前まで発展していたようだ。
(というか、おい!)
さらっと判明した蛮族一味のパーティー名だが、見た目蛮族のくせに“正義”を冠するとはどうなのか?
(いや、まぁ…うん。)
正義の力とは称しているものの、奴らの態度からして“力こそ正義”といった意味合いなのだろう。
つまり〈絶対正義の力〉の連中は、野盗や盗っ人といった後ろ暗い輩の中で暴力に片寄ったような連中だと考えていいだろう。
そんな頭の中身まで筋肉な連中が、決闘などという力比べを申し込まれたらどうなるか?
「いいぜ、そのスカした顔を二度と見れないようにしてやんよ。
おらっ、お前ら付いてこい!」
自分の言った言葉通りの光景を思い浮かべているのか、蛮族一味改め〈絶対正義の力〉リーダーはニヤニヤと嗤って決闘を了承する。
そしてリーダーの呼び掛けに最初から背後にいた数人以外にも、ギルド内に屯っていた半分程の冒険者を引き連れて行ってしまう。
「仲間を侮辱した奴らを許すな!
《光の騎士団》、行くぞ!」
そして自らのパーティーメンバーを鼓舞して〈絶対正義の力〉を追って行ったリーダーに、ギルド内に屯っていたもう半分が続く。
ガラン…
二つの冒険者パーティーが出て行ったギルド内には、俺たち三人を含んでも十に満たない冒険者が取り残された。
先ほどまでの喧騒とギルド内の広さも相まって、今の静けさが不気味に感じてしまう。
「えぇ…どういうこと?」
これにはここで活動したことのあるマリ姉も困惑するようで、これがこのギルドの伝統というわけではないらしいことが伺えた。
「あんたら、ダンジョン目当てで来たのか?」
唖然とする俺たちに、ギルドに残っていた冒険者の一人が話しかけてきた。
「あ、ああ…。」
最初は俺たちに絡んできていた〈絶対正義の力〉リーダーと異なり、悪意は感じなかったため、俺は一先ず頷く。
すると渋い顔になる残っていた冒険者たち。
「あんたらも運が悪い。」
冒険者たちの反応に内心で首を傾げる俺たちに、話しかけてきた冒険者は更に続けた。
「今の探索者は《光の騎士団》と《絶対正義の力》っつう集団に二分されていてな…」
どうやら俺がパーティー名だと思っていたのは、集団というパーティーとはまた異なった纏まりの名前らしい。
更に探索者が二分されているという話で、ギルド内に屯っていた冒険者たちが半々に分かれた理由も判明した。
「じゃあ、あんたもどっちかのクランに?」
「いや、俺は外専門だ。」
迷宮都市だからといっても、迷宮に関する依頼だけとは限らない。
稼ぎは迷宮関係の方が断然良いのだろうが、そういうのもありなのだろう。
しかしそうなると少し問題がある。
「どっちかのクランメンバーじゃないと迷宮の探索は出来ないのか?」
俺たちはハイポーションを目的としているが、クランに所属するとなれば何らかの不都合があるのは確実だ。
「いや、そんなことはないぞ?」
無いのかよっ!?
「だが、どっちかにいた方が良いってのは確からしいな。」
他人事のようにそう言う冒険者だが、その表情は恨みや悲しみなど多数の負の感情がない交ぜになった複数なものであった。
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