110 対人戦闘
※残酷な描写注意!
何気に初の対人戦。
さて、数は向こうに圧倒されているとはいえ、元はゴブリンと同等の戦闘力しかない農民だ。
ゴブリンその他が数千規模で押し寄せるスタンピードを最近経験した俺たちの相手になるかと問われれば、そんなことは無いとはっきり言える。
但しそれは、同じ人を魔物同様に殺せるという前提がある。
ヒュンヒュンッ…
「えいっ!」
ヒュンッ、ガッ!
「がっ…!」
…のだが、最初の犠牲はニーニャのスリングの投石に因るものだった。
「「「なぁっ!?」」」
そしてニーニャを少女と侮っていたらしき数人が、驚愕に動きを止めた。
それはこの場において、大きな隙だった。
ダッ!
「ふっ!」
盾を背負ったまま飛び出し、槍を横に一閃。
「…っ!?、……。」
「ぐあっ!」
ついでに狙った二人目は咄嗟に身を退き、当たりはしたが掠り傷程度。
しかしメインターゲットであった一人目は喉を深々と斬り裂かれ、静かに地に伏した。
あっという間の二人目。
しかしそれだけには留まらない。
「『魔弾』!」
俺が飛び出すとほぼ同時。
ドッ!
「カハッ…!」
「ぅおわぁ!?」
マリ姉が放った魔力の塊を腹に受けた野盗が、仲間の一人を巻き込んで吹き飛んだ。
藪の向こうに消えた二人の野盗は沈黙する。
巻き込まれた方は警戒する必要があるが、『魔弾』の直撃を受けた方は、戦闘へ復帰することは無いだろう。
三人目。
「なっ!?魔法だ!」
「ま…魔女、本物の魔女だ…!」
「何だって!?格好だけじゃなかったのか!」
最初の犠牲の衝撃から立ち直りかけた野盗達だったが、マリ姉が魔法を使ったことで今度は混乱に陥る。
ヒュッ…、ヒュヒュッ…!
すかさずニーニャがスルリと入り込み、野盗達の中で2本のナイフを振るう。
「うっ!?」
「ぎゃあっ!」
一人が短く呻いて倒れ、一人が派手な悲鳴を上げる。
四人。
「何だぁ!?」
「おいっ、どうした!?」
ニーニャは巧いこと俺を目隠しに敵の内側に入り込んだようで、魔法を見ても比較的冷静だった別グループは何が起きたのか分かっていない。
「き、斬られた!」
「うぅ、痛ぇよぉ…。」
そして被害が増加中のグループは、援軍を欲して被害だけを声高に言う。
「畜生っ、ウラギ村の奴ら裏切ったな!」
「何だと!?…野郎、ウラギ村の奴らは前から気に入らなかったんだ!」
「やっちまえ!」
「!?
ま…待て、違っ」
自陣の内側に入り込まれているとは思いもしないのか、犯人を身内と決め込み仲間割れが始まった。
「これが魔女の呪いか…!」
「魔女め、俺が討ち倒してやる!
ウォオオッ!」
そして仲間割れに加わらず俺たちと相対していた何人かの内、三人組の一人である短気男が手斧を振りかぶってマリ姉に突進して行く。
普段マリ姉の護衛役のニーニャは敵陣を撹乱中で、俺は意外と巧者な野盗リーダーに手こずってしまっていた。
つまり後衛のマリ姉を狙う、短気男を阻む壁が無い。
(やらせるか!)
「『割り込み』!」
シュンッ!
「何っ!?」
野盗リーダーとの合間を縫って、マリ姉を対象にスキルを発動。
「おらぁっ!」
ガッ!
「…あ?」
短気男が振り下ろした振り下ろした手斧はマリ姉に届くことはなく、俺が構えた木盾にその刃をめり込ませる。
グッ…
「クソッ、外れねぇ…!」
攻撃を防がれ一旦下がろうとした短気男だったが、良く見れば刃毀れの酷い斧は盾にガッチリと喰い付いて離れない。
グッ、グッ
こういう時は斧を諦めてさっさと下がるのが定石らしいが、短気男は斧を外そうと必死だ。
(そんなに斧が大事なら、盾ごとくれてやる。)
パッ
「うぉおぉ!?」
ドサッ!
俺が盾を手放したことで支えを失った短気男は、勢い良く尻餅をついた。
そしてそれは致命的な隙に他ならない。
「『魔針』。」
ドス…!
魔力で形作られた長さ15cmの針が、短気男の眉間を貫く。
…5。
『戦闘において、大事なのは武器より判断。』
『判断を誤った代償は命で払うことになる。』
(…全く、A ランク冒険者様々だな。)
将来的に義父となる筋肉達磨を思い浮かべ、その教えが身に染み着いていることに、俺は擽ったさを覚えた。
「ゴリさんがやられた!?」
「不味いんじゃないのか?」
短気男はリーダーと共に出てきていただけあるのか、短気男が倒れたことで野盗達に動揺が広がる。
「狼狽えるなっ、食料だけでも頂くんだ!」
そう言って野盗達を鼓舞するのは、三人組のもう一人。
二、三人の野盗を挟んだ後方に、奴が居た。
(そこっ!)
「『猪突猛進』!」
すかさず槍を構え、確実に奴を仕止める為のスキルを発動。
ズガガッ!
「「「ぎゃぁあぁっ!?」」」
光を纏った俺は、容易く“壁”を撥ねて奴に迫る。
「あ、な…!?」
ボッ!
堅木の盾すら掠っただけで抉るスキルの直撃に、特に鍛えたわけでもない人の肉体が耐えられる筈も無く。
ため息男は、苦痛を感じる間も無く逝ったことだろう。
6。
「ご主人、終わった。」
俺とマリ姉でリーダー格二人+数人を倒す間にも、ニーニャは野盗の制圧を終えたようだ。
普段マリ姉についているから分かりにくいかも知れないが、ニーニャは人間族の凡夫が束になろうとも敵わない程度以上に戦えるのだ。
「この、化け物め…!」
一人残った野盗リーダーが、憎々し気に吐き捨てる。
「…まだやるか?」
こちらを睨みながら鉈を握り締める野盗リーダーに、俺は投降を促す。
今更「人を殺したくない。」などとは言わないが、いくら野盗と言えど嬲り殺しにする趣味は無い。
「俺は、俺はっ……」
奴にとっては投降しようがしまいが、結末が死であることに変わりは無い。
だからこそ、俺は奴が言葉を躊躇っている理由を勘違いし、奴の言葉を待ってしまったのだろう。
「俺はあぁっ!」
ブンッ!
自棄糞…に見せかけ、正確に投擲された鉈。
「ご主人!」
「くっ!?」
ガッ!
咄嗟に槍の柄で防ぎ難は逃れたものの、この僅かな間に野盗リーダーは脱兎のごとく逃走を図っている。
「っの、待て!」
林に入られてしまったら追跡は困難。
俺たちは慌てて野盗リーダーを追い駆けようとした。
バシュッ!
しかし全力で逃走する野盗リーダーの背中を、俺たちの後ろから飛んで行った魔弾が貫いた。
「「「……。」」」
絶句して振り向いた俺たちの視線の先。
「…さて、後始末をしましょう。」
魔拳銃を懐に仕舞ったヘリーさんが、当たり前のようにそう言ったのだった。
うわしょうにんつよい。
(尚、対ケインは決闘の為ノーカンとする。)
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