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農家のデブ三男、兄に実家を追い出されて街で冒険者始めたらモテ始めました!?  作者: FURU
4章  迷宮都市と越冬

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109 ふーあーゆー?

 魔馬に牽かれる荷馬車は、意外なことに無事怪しげな三人組のもとへとたどり着いた。


 …いや、何事も無いのが一番なのはそうなのだが。

 俺はもっと、こう…。


 無防備に馬車で近付いて行ったら、

「掛かったな、馬鹿め!」

 とか言われて、後ろの林の中から多数の矢を射かけられるものだと思っていた。


 しかし実際のところは…


「いやぁ、済まない。

 …ところで売り物は何だ?」


 止まった馬車に歩み寄って来た三人組。

 その内俺たちに呼び掛けてきた男は、本当に申し訳なさそうにしながら売り物を訊ねてきた。


「何を売っているのか分からないのに止めたのか!?」


 と、普通の村々を廻る行商ならブチ切れ確実な無作法だ。

 何せ廻りの行商は各村で売る物を決めて仕入れをしており、こうして道端で買い物をしようとするのは横入り以外の何ものでもない。


「物が売れるのだからちょっとくらい…。」


 と思って商品を売ったが最後、その廻りの行商が失うのは巡回する村々の信用だ。

 信用を失って商売が立ち行かなくなってしまうというのは、駆け出しの行商に良くあることらしい。


 だからこそ村では商人との伝手を持つ家が強いのだ。(ファム家の爺さん談)

 

「生憎と、この馬車には塩漬け肉しか載せていなくてねぇ。」


 …言葉そのままで受け取るのならば、


雑貨(道具)を期待していたのなら、塩漬け肉しかないから申し訳ない。」


 という意味になるのだろうが、ヘリーさんが彼らを野盗と疑っていることを知る俺としては、


「金目の物は無い、散れ。」


 と聞こえた。


「はぁ…。」

「ちっ…!」


 どちらの意味で受け取ったにせよ、ヘリーさんと話す男以外の二人の男はそれぞれ「落胆」と「苛つき」という、正反対ながらも揃って負の感情を示した。


「そりゃ良かった!

 …ちょうどこれから、日持ちする食料が必要になりそうだったんだ。」


チラッ


 他二人とは異なり喜びを示した男は、そう言ってこちら(荷台)に目を向け…


(というより…、ニーニャか?)


「っ…!」


「どうしたの?」


 ピクリと俺が身体を僅かに動かしたのを認めたマリ姉が、小声で俺に何事かと尋ねてくる。


「マリ姉、ニーニャ、いつでも動けるようにしておいてくれ。」


 マリ姉に説明する変わりに、元々していた“警戒”を“臨戦”にするように指示を出す。


「オーケーよ。」

「わかった。」


 説明も無しの臨戦体勢の指示に、二人は即座に頷く。


(…本当に出来た仲間だよ。)


 二人の行動が示す俺への信頼に、俺は気を入れ直した。

 初めて人を殺すことになるかも知れないが、躊躇いは無しだ。


 和やかにヘリーさんと交渉をする男。

 アイツが一瞬だけ“ニヤリ”と不気味に嗤ったのは、決して見間違いなどではなかった。


 あの嗤い方は、俺を素寒貧で追い出したクソ野郎(兄貴)表情(かお)と同じだった。


 … … … … … … …。

 … … … …。

 …。


 嫌に緊張しながら待つこと暫く。


「う~ん、困ったなぁ…。」


 唸る男。


「「困った」のはこちらでしょう?

 積み荷の半分を仕入れの1割で売ったら赤字も赤字、大赤字すら生緩い。」


 いつの間にやら男は、積み荷の半分もの塩漬け肉を“ただ”同然の値段で買い叩こうとしていたようだ。

 値引きもそうだが、買おうとしている量からして非常識にも程がある。

 

 だいたい、手ぶらで荷馬車の半分もの荷物を、男三人でどうやって運ぶというのだろうか?


「交渉は決裂だな。」


「あんなふざけた条件で交渉などと…。

 しかしそれ(決裂)については同感で。」


 およそ鐘一つ(30分)にも及んだ交渉の末、出た結論は「決裂」というなんとも骨折り損なものだった。


「では、これにて。」


 僅かながらに疲れを滲ませながらも、馬車を出そうとするヘリーさん。

 ここで別れられたら「非常識極まる客に会った。」というだけの話なのだが、どうやら実際に骨を折る以上の惨事になりそうだ。


「だから間怠っこしい真似する必要なんかないって言ったんだ!」


 馬車の前から退かない交渉の男に、怒鳴りながらも合流したのは苛ついていた男。


「どうせ全部いただくんだ、あのエロい姉ちゃんは俺のモンだ。」


 交渉の男はニーニャ狙いらしかったが、短気男はマリ姉狙いを明言した。


アイツ(交渉の男)少女趣味(ロリコン)か?)


 遂に顕となった本性に内心で引く俺だったが、そうで無いことは残る一人の言葉で否定される。


「ゴリさん、あの人は魔女ですよ「魔女(・・)」!」


 戦闘において多大な貢献を果たす魔法であるが、魔法に馴染みの無い村人には忌避されることも珍しくは無い。


 特に女魔法使いは物語で残虐を尽くす魔女に重ねられ、魔法が使えずとも「魔女である」という疑いを向けられるだけで排除対象となってしまうことがあった。

 マリ姉の故郷である〈ウィッチハント村〉なんかは特にそれが顕著なのだ。


 つまりコイツらはそういった村の出身であり、そうでなければ…否、そうであったとしても野盗(討伐対象)であることに変わりは無い。


「皆さん、お願いします。」


 御者台から俺たちに振り向いたヘリーさんが、俺たちに頭を下げる。


「任された、〈白の大樹〉…行くぞ!」


「ええ!」

「んっ!」


ドサッ、ザザッ!


 俺に続いて荷台から降りた二人は、俺を前にして三角(トライアングル)陣形(フォーメーション)を組む。


 敵は鉈、手斧、ナイフの三人。


「おいお前ら、今夜は肉パーティーだ!」


「「「「「ヒャッハーッ!」」」」」


 交渉の男…改め野盗リーダーが叫ぶと、藪から男共がワラワラと出てきた。


「うわ、気持ちわるっ…!」


 その光景を見たマリ姉がド直球(ストレート)に罵倒を呟く。


 あー…、うん。

 俺もゾワっときた。


 ………。

 それはともかく!


 俺たち3人対野盗…ひーふーみー、総勢13人の戦いが始まろうとしていた。

「肉パーティー」、…ふむ?



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