107 新たな槍の性能は?
「ん…?」
ふと気が付き周りを見渡すと、そこは〈相棒に屋〉の見慣れた店内。
「おっ!終わったか?」
目の前に立つガンキンの問いに、先程俺が体験したことが白夢昼で無いことを確信する。
…そう言えばああなる前に「気張れ」とか言っていたが、こうなることが分かっていたのだろう。
「終わったも何も…、どういうことだよ!?」
ガンキンの様子を見る限り数分も経っていないようだが、闇に閉じ込められたあげく戦場に放り出された身としては一先ず説明をして欲しい。
「何って…槍の仕上げだよ、仕上げ。」
「はぁ?」
仕上げなどと言われても、手に持つ槍に渡された際と比べ特段の変化は無い。
心なしか握りがしっくりしたような気がするが、まぁ…意味深なことを言われたことによる「何か変化がある」という思い込みだろう。
…どんな手を使ったのか知らないが、変な体験をしたのもその思い込みに拍車をかけていそうだな。
「そんなんで納得出来るか!」
それはそれとして、実際変化があったとしても未完成品を渡されたことに変わりは無い。
高い金を払っている以上、ちゃんと完成させていて貰いたい。
槍の作成を依頼した側ではあるが、憤りで多少語気が荒くなっても仕方ないことだった。
「まあ落ち着けって、今から説明してやっからよ。」
そんな俺の怒りを平然と受け流し、ガンキンは諸々の説明を始める。
俺はその説明を聞くために憤っている場合ではなくなり、自然と矛を納めることとなった。
「まず、お前さんが体験したことだが─」
と、ガンキンの説明の要点を纏めると次のようになる。
・俺が受け取った槍は魔物素材をふんだんに使用したことで、魂の器に成り得る品になった。
・槍の所有者となる俺が素材となった魔物の討伐者であったことで、器に適合する魔物の魂が残留している可能性が高かった。
・案の定、俺にはエレファントボアの魂が憑いており、魂の器となる槍を持ったことで“封魂の儀”が行われた。
・封魂の儀とは、器に魂が宿る過程で器の所有者の魂と宿る魔物の魂が触れ合うことで発生する現象全般のこと。
・魂が宿った品は“魂封装備”と言われ、特殊な性質を得る。
「つまりこの槍がより強くなったってことか?」
色々と突っ込み所はあるが、結論はそういうことだろう。
「…まぁ、そういうこった。」
長々と語ったわりに俺の反応が薄かったことで不満げなガンキンであったが、概ね理解出来ていたようで何よりだ。
…魂封装備が魔剣の原型だとか、D ランクの魔物素材で魂封装備が出来るのは珍しいだとか言われても、俺には正直どうでもいいことだ。
そう思っていたことが伝わったのだろうか?
「はぁ…。
じゃあそれを寄越せ、視てやる。」
「あ…!おい。」
ため息を一つ吐いたガンキンはそう言って、俺から槍を引ったくる。
「『武器鑑定』……ふむ。」
カリカリ…
鑑定系のスキルで槍を眺めたガンキンは一人で頷くと、カウンターの下から取り出したメモ用の紙に鑑定結果を書き始めた。
カリカリ…カリ
ガンキンのペンを持つ手が止まる。
おそらく視えた結果を全て書き出せたのだろう。
「ほれ。」
そして放り投げるように渡されるメモ用紙。
「おわっ!…っと。」
ひらりと舞うメモ用紙を、俺は慌てながらも確保する。
武器の性能も、冒険者の隠すべき手札に含まれる。
ここでこのメモ用紙を紛失しては、俺の手札が見知らぬ誰かに露見してしまうことだろう。
…ガンキンにはその辺、もう少し気を遣って貰いたいものだ。
「どれどれ…」
ガンキンの情報の扱いの雑さに呆れつつ、態々鑑定スキルを使ってまで暴かれた結果を見る。
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銘:巨象魔猪の骨槍
レアリティ:叙事詩
武器ランク:C
性質:頑強、自動修復
成長、帰還
付与スキル:猪突猛進
状態:良好、(未覚醒)
詳細:↓
己を鍛え上げた末、進化を果たした
巨象魔猪の希少素材を凝縮して作成
された骨槍。
朽ちた大樹によって育まれた巨象魔
猪は、その身を討ち果たした幼樹の
支えとなった。
しかし、あまりにも軟弱な幼樹は巨
象魔猪の魂に見限られてしまうこと
を心しておくべきだろう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ほぁっ!?」
メモ用紙に書かれた予想外の内容に、思わず変な声が口から出てしまった。
(叙事詩って何だよ、叙事詩って!)
叙事詩とはざっくりといえば英雄譚のことだ。
レアリティが叙事詩ということは、その英雄が使う武器と同等のレアリティというわけだ。
確かにあのエレファントボアはイレギュラーな個体ではあったが、D というランクが示す通り、そこそこ知られている魔物である。
…まぁ、ドラゴンなどの Sランクの魔物はそれ以上に有名だったりするのだが。
それは置いといて。
レアリティもそうだが、武器ランクも Cと素材となったエレファントボアの魔物ランクから一段上となっているのも異常だ。
しかしこれに関しては魔剣の原型となった魂封装備とやらだと考えたら、レアリティよりよほど納得がいく。
「って、性質のとこが多くないか?」
4つ書かれた性質の内“頑強”と“自動修復”の意味はなんとなく理解できるのだが、非生物である武器に“成長”やら“帰還”は違和感が拭えない。
というわけで知っていそうなガンキンに訊ねたところ、
「“成長”ってのは使えば使う程強くなるってことよ。
それだけだと大した強化になる前に武器自体が保たなくなるんだが、“自動修復”があるそいつならその心配は無ぇ。」
とのこと。
「じゃあ“帰還”ってのは…」
“成長”が“自動修復”と相乗効果がある有用なものだったことで、油断した俺はなんとなしに訊ねてしまう。
「それなら、武器が所有者から一定の距離離れると所有者の元に戻って来るって奴だな。
有用っちゃ有用だが、武器が壊れるまで売却や譲渡は出来無ぇな。」
“帰還”単体なら盗難防止としては有用なのだろう。
しかしこの槍の“自動修復”という性質が合わさると、途端に“手放せない(強制)の槍”の出来上がり。
………。
呪いの武器じゃねぇかっ!
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