106 封魂
エタってきたので書き直しを検討中です。
(ぶっちゃけ、読み返してみると話がごちゃごちゃしているんですよね…。)
… … … … … … …。
… … … …。
…。
ゆらり…、ゆらゆら…
…ああ、身体が軽い…。
「死は安らぎで恐れるものではない。」という、普段であれば「何言ってるんだコイツ」となる意見にも、こうして実際に体験してしまえば納得もしてしまう。
穏やかに波打つ水面を漂うような感覚に浸りながら、もう一度意識を閉じようとする。
…待て、何で“意識がある”?
創世教では「全ての生物は死後、徐々に世界へと溶け込み次なる生の礎になる」と教えられている。
…救世教では、輪廻転生なるものが主張されているが。
つまり俺が何を言いたいかというと、「死後にこうして意識を保っているのはおかしいのではないか?」ということだ。
「ん…、んあ?」
一度感じた違和を無視することは出来ず、こうしては居られ無いと俺は目を開こうとする。
「見よう」と考えただけで瞼を動かさずとも視界が開けたなんとも不思議な感覚がしたが、俺の視界(?)は相変わらずの闇一色だった。
「……ん?」
どうやら視界が開けたような感覚は気のせいだったようで、俺は意識して瞼を開こうとした。
「………っ!?」
しかしいくら目を見開こうとしても視界は変わらず、それどころか周りを探ろうと動かそうとした手足の感覚もしないことに気が付いた。
「こうか?…違うな、こうだ!』
この状況を把握しようとあれこれとしている内に、自分が今横になっているのか立っているのかが分からなくなった。
そして遂には自分が本当に声を発しているのかすら定かではなくなってしまう。
『ああ~っ!何だってんだコンチクショウ!!』
自分の存在が曖昧になっていく恐怖を、怒鳴り声を出して誤魔化す。
村にいた頃ですら滅多に使わなかった乱暴な言葉を使ってみたりもするが、何か状況が打開できるわけでも無い。
コォオオォ…
「!?」
…と思いきや、闇の中で風が流れる低い音が聞こえた。
(…近いぞ?)
風が流れるということは空気の出入口があるということで、出入口の大きさにもよるがこの謎の空間から出られるかもしれない。
ということで気持ち的には、風が流れてきた方に近寄って行く。
ゴォオォ…
(お!)
動いている感覚は分からなくとも、どうやら目的の場所には向かえているようだ。
空気の流れる音が大きくなり、風が顔を撫でる。
(うっ…!)
事態の進展に喜ぶも束の間。
顔を撫でた風に感じた不快さに、俺は顔をしかめる。
どんな感じかを簡単に説明するなら、生臭くて湿っている。
…違うと思いたいが、まさかごみ捨て場かなんかではないだろうか?
そんなことを気にして身体の感覚が戻りつつあることに気付かなかった俺だが、すぐにそんな場合でも無くなる。
ギョロリ
突如俺の目の前に現れる、怪しく光る二つの巨大な目玉。
「っ!!」
俺はその目を知っていた。
(やっぱりお前かっ…!)
パッ
この謎の現象を起こしている犯人を看破すると同時、なんの予兆もなく世界が切り替わる。
「「「「「ワァアアアッ!!」」」」」
「ガァアアッ!!」
「「「ギャギャギャギャ~ッ!!」」」
「「「ガウガウッ!」」」
「「「キューッ!」」」
大勢の人の上げる鬨の声に、一際大きく響く咆哮に様々な魔物が吠えている。
この光景には覚えがある。
〈初心者の森〉のスタンピードだ。
なんてことの無い休日の筈が、暗闇で閉じ込められたと思えば戦場のド真ん中。
しかし戸惑ってはいられなかった。
ドドドッ!
何故ならば、地響きを鳴らして猛進する“奴”の巨体が、俺の間近まで迫っていたのだから。
「なんて日だよっ!」
バッ!
悪態を吐き捨てながら、俺は形振り構わず“奴”の進路上から必死で飛び退く。
ドゴォーン!
「「「うわぁあぁっ!?」」」
「「「ギャギャ~ッ!?」」」
俺に避けられて通り過ぎた“奴”は、そのまま冒険者とゴブリンの集団を弾き飛ばす。
ドッ、ドッ、ドッ、ドンッ!
「フゴォォ…」
集団を弾き飛ばしたことで勢いが多少は削げたのか、数歩進んだのちに止まった“奴”が振り返り俺を見据える。
「…あの時の再現ってか?」
あの時…つまり俺が“奴”に止めを刺した時だ。
「ブオッ!」
あの時と異なるのは、“奴”は傷だらけではあるものの壮健で、俺が握る槍は“奴”の素材で作られた骨槍という点だ。
「………。」
「………。」
互いに睨み合う俺と“奴”。
いつの間にやら戦場の喧騒は幻だったかのように消え失せ、踏み荒らされた草原には俺と“奴”の二人きり。
サワッ…
戦場に似つかわしく無い、爽やかな一陣の風が吹く。
「『ブゴォオォッ』!」
ドッ!
その風を合図とするように、“奴”は光を纏い走り出す。
ドドドドッ…!
あの時は避ける余裕が無いという自棄っぱちな理由で迎え打ったが、そのスキルは他ならぬ“奴”自身から俺が譲り受けている。
…まさか初めてスキルを使用する相手が、スキルの元の保有者になるとは誰が想像できただろうか?
(俺だってあの時から強くなっているんだ…!)
たとえ“奴”が壮健であろうと、たとえマーカスの一矢が無かろうと。
「うおおぉっ、『猪突猛進』!」
ドッ!
俺は吼え、“奴”と同様の光を纏って飛び出す。
「ブオオオッ!」
「はあああっ!」
カッ!
槍の穂先と“奴”の鼻先が触れた途端、弾けた光で世界が白く染まった。
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