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農家のデブ三男、兄に実家を追い出されて街で冒険者始めたらモテ始めました!?  作者: FURU
3章  白の大樹

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98 高級宿 with リタ

感想でラストの異名(?)の読みについて疑問があったのですが、ルビ振っておきました。

(…どうしてこうなった!?)


 とある宿の一室で、俺は何度目かの自問を繰り返していた。


 いや…ナンパ男たちに絡まれていたリタを助けたまでは良かったのだが、緊張から解放された反動でリタがその場にへたり込んでしまったのだ。


 スタンピードでの様子から考えるに、リタはそこらの街娘とは違い、いざとなれば無抵抗で連れて行かれるということは無い。

 しかし武器も防具も無く、安全な筈の街中で武器を持った男三人に囲まれては、いくら何でも何とも無しとは無理な話だ。


 さて、そんな状態のリタを


「ナンパ男たちは追い払ったので、では。」


 などと放置して去るなどということは、善人を自称する俺としては不可能な行動だ。

 …敢えてはっきりと言うなら、弱っている状態のリタをこんな往来に置いて行くなど、飢えたウルフの前に足を怪我した角兎を置くようなものだ。


 実際現場から移動する際に、無駄に俺とリタの様子を伺うようにウロウロとしていた男が何人か居た。

 …おそらく俺とリタがそこそこ親しいことを知らないであろう街人の男らは、俺の体型を見て俺がリタに追い払われることを期待したのだろう。


 リタが困っている時は見て見ぬ振りをしていたのに、美味しいとこだけを頂こうとは“ふてぇ野郎”だ。


 俺としては全く期待していなかったと言えば嘘になるが、あの時は単純に目立ってしまったので、リタが落ち着けるように移動を提案したのだった。

 

 それが俺よりは街に詳しいリタに案内を頼み、リタを背負ってやってきたのがこの宿だ。

 俺としてはリタがナンパされていた現場から少し離れた場所に設置されたベンチとかを想定していたのだが…。


 まぁ…俺が落ち着かせたいリタ本人がここに案内したのだから、人目がある往来より室内の方が落ち着けるという風には解釈出来る。


「わぁ、素敵…!」


 リタも部屋に入ってからは、内装や備え付けの家具などを見て目を輝かせている。


 …お分かりだろうか?

 実はこの宿、一泊1万ゴールドもする街一番の高級宿なのだ。

 俺がこの街に来た当初拠点(ねぐら)にしていた〈寝るだけの宿〉が一泊1,000ゴールドだったことから考えると、その高級さが分かるだろう。


 この宿に泊まる客は貴族や大商人などの金持ちだ。

 そんな客が満足できるよう、宿泊費に相応しい内装や設備となっているのだ。


 しかしそれだけでは経営が難しいらしく、この宿は宿泊の他に「ご休憩」なるサービスを行っているらしい。

 そのお値段なんと、破格の鐘二つ(1時間)で1,000ゴールド。


(…て、高いな!?)


 鐘二つ滞在しただけで街最安の宿(安全に泊まれない宿は宿とは認めない)に一泊するのと同じとは、冷静に考えてみれば馬鹿馬鹿しく感じてしまう。

 しかしそうは言っても、普通に生活していれば縁の無い高級宿を体験出来るというのは魅力的らしく、俺とリタが来た際には若い男女が数組宿への滞在の受付を行っていた。


(…まぁ、雰囲気も大事か。)


 金持ちが泊まる宿だからといって、内装が黄金に輝いているわけではない。

 むしろ休息のために落ち着いた…かといって身窄らしいということは無く、一目で上質と分かる家具などの高級感は貴族の邸宅の一室のようで、確かに…一時でも滞在出来るとあれば気分は上がるだろう。


「ラストさんっ、こっちにお風呂がありますよ!」


 部屋の奥にあった扉を開け、中を確認したリタが興奮気味に伝えてきた。


「お、風呂なのか。」


(そういえば貴族は湯を浴びて身を清めるんだったか?)


 てっきり荷物の置き部屋か使用人の待機部屋だと思っていた俺は、リタの報告を受けて貴族の生活について思い出した。


 煮炊きに使用する薪を大量に使って湯を沸かし、湯の入れ換えなどに大勢の人手を必要とする湯を浴びる風呂は、下級貴族でも毎日は入れないほどの贅沢だという。


(それなのに宿の一室で入れるだって?)


 リタと会う前は槍のオーダーメイドのために、散々模擬槍を振り回してきたところだ。

 汗や土埃を流せるなら歓迎なのだが…。


「見て下さい、お湯が出る魔道具ですよ!」


 風呂場から顔を出したリタが俺を呼ぶ。


(魔道具、…そういうのもあるのか!)


 薪の確保や人手など、宿で風呂を提供するにあたっての問題が一気に解決した。

 

 魔道具はギルドで買い取りされる魔石を利用した道具で、魔技師や錬金術師が主に作成している。

 もはや常連である〈相棒に屋〉にも、魔技師見習いの作成した〈魔石・小〉を利用する小さな灯りの魔道具があった筈だ。


「しかしまぁ、この宿も思い切ったことをするなぁ…。」


 見習い作成の魔道具でも〈相棒に屋〉の商品の中では飛び抜けて高かった。

 大量の薪と人手が不要になる魔道具が暗闇で足元を照らす程度の灯りの魔道具より安い筈は無く、そんな魔道具を宿の一室一室に設置して利用する。

 薪と人手の費用と魔道具、果たしてこれはどちらが金がかかるのか?


 まぁ、長期間に見れば魔石の補充で済む魔道具の方が安く上がるのだろう。

 貴族が態々薪で湯を沸かしたりするのは、それだけ財力があるというアピールも兼ねているのだ。


 と、そんなことよりもだ。


「あー…リタ、ちょっと汗を流しても良いか?」


 元々リタを落ち着かせるために入った宿だが、リタの様子を見る限りもう心配は必要なさそうだ。

 しかしせっかくなのだから湯を浴びる風呂というのを体験してみようではないか?


「あ、……良いですよ?」


 未知の場所を探検する幼子のようだったリタだが、俺の問いに興奮が落ち着いたようだ。


「悪いな。」

 

 楽しんでいたところ悪いとは思うが、払った費用分は楽しませて貰おう。


(見せて貰おうか、湯の出る魔道具の風呂とやらを…!)

お祭りの食べ物屋台ってボロ儲けでしょうね…。


次回、誰特なラストの風呂回ですw


いつも読んでいただきありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
ラスト君、そこ…… 結ばれる話?
最後某大佐のセリフで笑ったw
更新お疲れ様です。累計100話到達おめでとうございます! ラストさんラストさん…その気は全くないんでしょうけど、この内装のお宿で&このタイミングで風呂入ってくる→相手からしたら『そういうこと』と受け…
感想一覧
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