9 チュートリアル開始
前回「冒険者楽勝じゃん!(歓喜)」
今回「あれ、やっぱ冒険者儲からない?」
ギルドへの借金をその直後に返済し、俺は無事(?)に冒険者となることが出来た。
「ひとまず角兎を狩っておけばどうにかなる…か?」
現在の所持金は角兎を売った2,340G、一晩宿に泊まるのに1,000Gを使って、1,340Gが食事やその他に使える金になる。
しかし毎日角兎が狩れるわけではないだろうし、今回売った角兎ほどキレイに倒せる自信もない。
仮に毛皮が全損、肉も半分がダメになったとして、良くて1,000Gを少し越える収入。
とてもではないが生活していけない。
そうなると、より割の良い依頼を受けることを考えるのだが…
「小緑鬼、幼魔猪、魔狼…、危ないやつばっかだ。」
そういった依頼は自然と魔物の討伐になり、荒事とは無縁の生活をしてきた俺には厳しい。
「採集の数をこなすか?」
薬草5枚1束200G、ブルーキノコ1個50G、トリフ1個1,000G。
当たり前だが良くある物は1個が安く数が必要になり、単価が高い物も腰を据えて探すほどではない。
「何かお悩みですか?
冒険者活動のお悩みなら相談無料ですよ!」
依頼板を眺めて今後の遣り繰りを考えていると、カウンター向こうから出てきた受付嬢が、期待の目を向けていた。
「あー…、冒険者ってどうやって生活してるんだ?」
冒険者のあまりの実入りの悪さに、場合によっては「人による」という答えが返ってくるであろう質問をする。
「よくぞ聞いてくれました!
『冒険者になったは良いけど。
どうやって活動するのかわからない…。』
そんなあなたに!
当ギルドでは登録から1ヶ月間、ギルド職員が専属であなたをサポート!
通称「チュートリアル月間」!
受けて『目指せ!一流冒険者!!』
…ですっ!」
俺の曖昧な質問に、早口でビラに書かれたようなことを言う受付嬢。
「お、おぉう?」
そのあまりの勢いの良さに、どう反応したらいいのか困惑する。
「チュートリアル…?ってのは、訓練みたいなやつか?」
しかしギルド職員がサポートと聞いて、気になったことを訊ねる。
「はい!
戦闘未経験者の武器選択のため、一通りの武器を使用した基礎訓練があります。
他にも実地での薬草採集指導や、教官付きで魔物との実戦もありますよ!」
思っていたよりも至れり尽くせりではないか。
「でもお高いんでしょう?」
しかしこうした技能訓練には、結構な謝礼が必要になると決まっている。
「いえいえ、言ったでしょう?
え…、言って無い?
それは失礼。
では改めて。
登録から1ヶ月であれば!誰でも!無料で!サポートを受けることが出来ます。
し・か・も!
実地訓練は、受けた方の依頼扱いで報酬も出ちゃうんです!」
タダで訓練を受けながら、依頼の達成と報酬も得られる、だと!?
これはもう、
「受けた!」
むしろ受けない理由がなかった。
「はい!
それでは専属は私、リタが務めさせていただきますね♪」
はい、勝ち組~!
受けないやつはホンモノかホモだ!
「ああ、よろしく頼む。」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね?」
… … … … … … …。
… … … …。
…。
早速チュートリアル開始ということで、リタに連れてこられたギルドの修練場。
「………。」
目の前には歩兵剣、歩兵槍、短剣、片手戦斧、両手戦斧、棍棒、戦鎚、投擲ナイフ、投擲斧、投擲紐、弓、魔拳銃、魔猟銃がずらりと並び、
「俺がお前に合った武器を見極めてやる!!」
咆哮のような大声で話す、筋肉ダルマのハゲ。
「詐欺だっ!」
ダルマハゲに負けず劣らずの大声で、そう叫んだ俺は悪くないと思う。
「詐欺だぁ?
ここのギルマスである俺が、お前に武器を選んでやるんだ、こんなことは滅多にないぞ?」
何とこのダルマハゲは、ベビーリーフタウン冒険者ギルドの組合長らしい。
そう知ると、確かに一組合員でしかない俺に、ギルドの長直々に武器を選んで貰えるとは。
(人によっちゃ、例えその武器が自分に合っていなくても使い続けるんだろうなぁ。)
そしてよくよく考えると、受付嬢が素人に武器を選べる道理もない。
「もう、ギルマスったら。
…これ、チュートリアルを受ける人全員に言っているんですよ?」
呆れたように呟いた後、リタが俺に教えてくれる。
「だが滅多にないのは本当だぞ?」
つまりチュートリアルを受ける者が“非常に”少ないということか。
「あ、お前今
『チュートリアルを受ける必要があるのか』
疑問に思っただろ?
…はっきり言って必要は無い。」
ギルマスがそれを言っては御仕舞いな気がする。
ギロリ
…ほら、リタがギルマスに向けてはいけない視線を向けている。
「チュートリアルを受けることは義務じゃあない。
だが“長続き”する奴は、よほど向いた奴以外は大体チュートリアルを受けているぞ。」
(なんだ…、結局受けた方が良いってことじないか。)
ギルマスが妙に強調して言った長続きとは、単にギルドから脱退することではないのだろう。
俺のようにもう後が無いという者は置いといて、危険の多い冒険者に登録するのは、荒事に自信のある者になるだろう。
そんな荒くれ共に、ギルド職員があれこれ言ったところで、素直に聞くとは思えない。
そしてノウハウが無く、自信だけで依頼に向かい、そのまま…というパターンが多いのだろう。
(浮かれている暇なんかないってことだな…!)
ギルマスの言葉に最悪を想像し、自分も最悪の仲間入りをしないよう、気持ちを引き締める。
「俺は生きるぞ、ジョン~っ!」
そして俺は、この街で最初に出会い門で悲しい別れをした気さくな憲兵の名を、決意と共に天に叫んだ。
ジョン「俺はまだ生きてるぞ~…!」
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