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なろう世界のマヨネーズとサルモネラ食中毒に関する一考察

作者: よろ研

※初めての投稿で書いてみたのですが、タイトルの内容は既に鳴嶋ゆん先生が「生卵とマヨネーズについて ~異世界料理のための豆知識~」(https://ncode.syosetu.com/n4006el/)でまとめていただいていました。

ただ、若干視点が違う部分もあるかなということでこのまま投稿させていただきたいと思います。ご容赦ください。

現実世界では現在、卵関連食中毒=サルモネラのような関係性が成立してしまっていますので、「なろう世界」の作品でも危険性を指摘される方が見受けられます。では、この関係性は現実世界でいつごろから言われ始めたのでしょうか。また、それは「なろう世界」でも通用するものなのでしょうか。そのあたりを考察してみました。


まず、現実世界において、卵は冷蔵庫が出現する前、常温保存が普通だった古い時代からありふれた食品でしたし、食中毒云々というのは聞いたことがなかったような気がします(もちろん、古くなって傷んだ卵はダメですが)。また、卵に賞味期限は記載されていませんでした(黄身が盛り上がっているのが新しい卵、とか)。

私の記憶では、賞味期限設定がないころ、ふと冷蔵庫から取り出して「いつ購入したんだったかなぁ。卵ってどのくらい持つんだっけ?」と疑問を持ったり、家庭科の教科書で「卵は新鮮なものから使いましょう」との記載に「じゃあ古い卵はいつ使えっちゅうねん」と突っ込みを入れたりしていました。現在では、ばら売りの卵にも賞味期限シールが貼られていますのでそんなことはないのでしょうが。



卵とサルモネラ


卵関連のサルモネラ食中毒で代表的なものはSalmonella Enteritidis(以下S.E.)によるものです。採卵鶏はその親もしくは祖父母に当たる種鶏、原種鶏を育成国から輸入して維持しているのですが(日本ですと今はフランスやオランダなどからでしょうか)、1980年代の前半に種鶏・原種鶏がS.E.に汚染される事態が起こります。

S.E.は鶏に対する毒性はさほど強くないため、特に異常も見つからず汚染種鶏等が全世界に輸出されてしまいました。また、S.E.は組織内(細胞内)侵入性を持っていますので、卵表面だけでなく、卵巣内で卵内部にも入り込んでしまいます。かくして日本でも1989年ごろからS.E.による食中毒が増加傾向となります。結果、サルモネラ食中毒全体としては1999年に食中毒原因菌のトップに躍り出るほど増えてしまいました。

(サルモネラは血清型分類で約3000種に区分されますが、今回はS.E.中心でお話させていただきます)



卵のサルモネラ対策


実際のところ、S.E.汚染鶏から産まれる卵のうち、卵内部(in Egg)にS.E.が入り込んでいるのは0.03~0.003%程度(1~10万個のうち3個)ですので、殻付き卵としてみた場合、特に高い確率ではありませんし、早めに(卵内でS.E.が増殖する前に)食べてしまえばアタることは稀です。しかしながら、安全・安心の観点と、大量調理施設での懸念などからいくつかの対策が取られるようになりました。


・卵殻の洗浄

卵を消毒薬(食品添加物でもある次亜塩素酸ナトリウムなど)入りの溶液で洗浄して、卵殻表面(on Egg)の細菌を落としてしまおうというものです。効果的ではありますが、やりすぎますと卵表面のクチクラ層や卵殻そのものを破損して、on Eggの細菌を入れ込んでしまいますので、現在ではいろいろと工夫がされています。


・冷蔵輸送、冷蔵保存

相手はサルモネラ属の細菌ですので、冷蔵条件下ではほとんど増殖できません。ですのでとりあえず冷やしてしまうのは理にかなっています。


・卵の賞味期限設定

卵の賞味期限は計算式その他で設定されています。

まず、卵内でS.E.が急激に増殖し始めるまでの日数は

D=86.939-4.109T+0.048T^2

(D:菌の急激な増加が起こるまでの日数、T:保存温度)

で、これに冷蔵庫内での保存日数(一般的には7日加算)等を加味して決定されています。

どういうことかといいますと、卵は保存しておくと卵黄膜が劣化して卵黄内の鉄や脂質が卵白内にしみ出すようになります。すると、おとなしくしていた卵内のS.E.等が栄養を得て急激に増殖し始めます。もちろん、卵殻のひび割れ等から侵入してきた細菌も同様です。卵内に侵入しているS.E.は産卵直後は精々数個程度とされていますので、その段階では中毒症状を起こすことはめったにないのでしょうが、S.E.(およびその他の細菌)が増殖した卵を(特に生で)食べるのは危険です。

というわけで、賞味期限が設定されたのと、賞味期限を過ぎた卵は細菌が増殖している可能性があるのでよく熱を通して食べましょう、となったわけです。


・殺菌液卵の活用

殻付き卵であれば前述の対応でいいのですが、商業用に流通している液卵(割った状態の卵)は卵黄膜は破れるか傷ついていますので、卵黄膜強度を前提とした対応は使えません。また、大量の卵を一つにまとめてしまいますので、S.E.汚染卵が混ざってくる確率が上がります。そこで、「卵は固まらないけれど菌は死滅」という条件が食鳥卵の規格基準として規定されています(卵の状態(全卵か卵黄のみか等)よって違いますが、全卵であれば連続式殺菌で60℃3分30秒、バッチ式殺菌で58℃10分、処理後25gあたりサルモネラ属は検出されないことが条件)。



では、マヨネーズ製造工程で殺菌可能か


マヨネーズは製造工程で酢を入れるから大丈夫、という意見も見られますが、実際には自家製マヨネーズで食中毒が起きています。実際に起きた飲食店でのS.E.食中毒事例では、酸味を嫌ってあまり酢を使わなかった(市販マヨネーズは酢の割合が8.7~10.5%なのに対し、この事例では3.7%)のが原因とされています。酢の殺菌効果の主たるものはpH下降によるものですから、殺菌可能なpHまで下がらなければ効果は出ませんし、酢以外の酸味(レモン果汁とか)を使用した場合も殺菌効果が変化する恐れがあります(サルモネラであれば酢の場合はpH5.04以下で増殖できなくなるのに対し、クエン酸の場合はpH4.05まで下げないと増殖抑制されない)。殻付き卵を使った場合でも新鮮なうち(菌が増えないうち)に使い切るか、酢をがっつり効かせるか、ということになろうかと思います。



「なろう世界」でのマヨネーズは安全か


以上のことを考えますと、「なろう世界」はマヨネーズが驚かれるくらいの世界ですから、おそらく新鮮な殻付き卵流通でしょうし、現実世界の「酢」が造れるかどうかにもよりますが、少量生産ですぐ使い切るようなら問題ないのでは、となります。

現実世界のように10~100万羽単位で飼育する養鶏場が出現するようになれば(当然背景として種鶏の問題やそれだけの卵が流通し消費される社会が確立しているでしょうから)食中毒問題も出現してくるであろうということで。


ちなみに現実世界では卵以外の食品でも流通や保存が見直された結果、食品中で増殖する細菌による食中毒(サルモネラや腸炎ビブリオ等)は減少していきました(管理の不手際等で増殖させてしまった食中毒は相変わらずあります)。

代わりに、カンピロバクターやノロウイルスなど食品中では増殖できない(むしろ減少していく)病原体による食中毒が増加傾向にあります。つまり「新鮮なものほどよくアタる」という、ある意味矛盾した状況になっていますので、できるだけ生食は控えて火を通して食べましょう。



ここまで駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。


※サルモネラ血清型表記はわかりやすくするため旧表記です。また斜体字の出し方がわからないので学名表記もそのままです。詳しい方ご了承ください。


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