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Ep.65 オープニングセール その28

●前回のあらすじ:

地味な女社長は、牛丼改革連合なる組織の結成を企てようとした。だがしかし、それは彼女の夢の中での出来事だった。彼女が目覚めるとすえで遅刻となる時刻であった。


●主な登場人物:

・武器屋の店主: 気弱な武器屋の店主。一度は店を潰すが、地味な女社長の投資で再オープンさせることに

・地味な女社長: 前作主要キャラの一人ターニャ・レニ・ヴェンツェル«Tanja Leni Wenzel»。田舎育ちで地味な服装だが男爵号を持つ貴族

・武器屋の元女房: 店主とは離婚したが、地味な女社長の取り計らいで再び店主と暮らすことに

・営業マン風の男: 地味な女社長の部下。武器屋と本社を繋ぐパイプ役

・ギルド受付嬢の姐さん: 元妻に隠れて店主と両想い?

●その他の人物:

・刀のお嬢様: 女社長ターニャと同様に前作の主要キャラの一人。公爵令嬢ユア・スワーネリ・アルンスタ・ガコエワ«Jua Svanhild Arnstad Gakoeva»。先王から聖勇者の称号を授かった冒険者。武器は東国刀で二刀流。現在は行方不明になっていることがターニャから言及されている。(前作では「ゆあ・スヴァンヒルド」と表記)

・高貴な女聖職者: ですわ口調で、相当なお嬢様と思われる高貴な聖職者。インヴィリ«Yngvild»と名乗った。


本作でターニャが店主に武器屋再開を持ちかけたのが、前作の魔導車レースの数ヶ月後という時系列になっています。


 寝坊して遅刻した地味な女社長ターニャは、武器屋の前に仁王立ちして一旦息を吐くと、遅刻なんぞ関係なしとばかりに扉を力強く押し開けて颯爽と中へ突き進んだ。

「「おはようございます!」」店内には店主、営業マン風の男、バイトのララ、大工作業の工員たちがすでに仕事に取りかかっていて、彼女の姿を認めるとすぐに挨拶が響いた。


「おはよう!」


 地味な女社長ターニャは、遅刻なんぞ関係なしとばかりに自信有り気な明るい笑顔を作り、そして堂々とかつ爽やかに挨拶を返した。


「社長!」営業マン風の男の声だ。


彼はターニャがカウンターのところまで歩いたところで小走りで駆け寄ってきた。


「緊急のご報告が一件……」


 報告?あなたは私の心配もしないで何の報告をしようと言うのかしら?

 ターニャは内心そう感じながらも、しかし遅刻のことなんぞ関係なしとばかりに威厳を作って見せた。


「ええ。どうしたのかしら?」

「それが……」彼は神妙で話しづらそうな雰囲気を漂わせている。

「何?言ってみなさい」


 営業マン風の男は「はい」と頷くと、より一層神妙な顔つきになった。ターニャも息を呑み身構えると、いよいよ彼の報告が始まった。


「先日、ターニャ様が発起なされた『牛丼改革連合』が大変なことになっています……」


 ターニャの内心に異様な違和感が湧いた。

 ちょ、ちょっと待って。牛丼改革連合プロジェクトは、あなたがリジェクトしたんじゃなかったかしら?それがどうして?

 ターニャは冷静を装うが、しかし驚きは彼女の制動をかいくぐって体表に漏出し、彼女の瞳孔を押し広げた。

 営業マン風の男は、社長の目の色の変わりように気が付かないか、もしくは彼女の戸惑いなど関係なしとばかりに淡々と続ける。


「既に合流している米飯、牛肉、タレの連合に対し、玉ねぎチームが合流を拒んでおります。つまり、具材グループの牛肉と玉ねぎが袂を分かつという、およそ牛丼にはありえない事態になっているのです……!」


 た、玉ねぎチーム?何よそれ。知らないわよ。だって牛丼改革連合自体がお座なりになったんだから……。

 営業マン風の男は口調を強めて迫ってきた。


「社長、このままでは連合が持ちません。この王国に牛丼が普及するか否かはターニャ様、あなたのご決断にかかっています。玉ねぎチームを説得するか、牛丼改革連合を解体するのか。ご決断を……!」


 ターニャは目を閉じ、必死に考えを巡らせた。

 一体この状況は何なの?おかしいわ。待って。牛丼改革連合の話自体が夢だったじゃないのよ……。はっ、夢?も、もしかしてこれは現実ではなくて……。

 だが戸惑いを見せるターニャに営業マン風の男は更に迫った。


「ターニャ様、今すぐ、今すぐにご決断ください!」


 そんなの絶対におかしい。これは夢よ。絶対に夢だわ。

 ターニャはこの状況が夢であると確証を得ると、急速に意識を手繰り寄せた。そして一気に瞼を全開にした。


「はっ……!」


 地味な女社長ターニャの視界には、彼女の寝室の天井が広がっていた。

 ターニャは悟った。これは二度寝だ。同時に何が夢で、何が現実だったのか明瞭としなかった。わずか一秒かそこらの間に、まるでスライドショーのように夢の記憶の断片が頭を中を横切った。

 身体を起こしてみると、ベッドの脇の小机には妹が作ったサンドイッチが置いてあり、一口だけ噛じったような跡がある。そういえば自分の口の中にもレタスの断片のようなものが感じられる。つまり、これをひと噛りして再びベッドに横になったというのだろうか。

 ターニャはベッドから上半身を起こしたまま、何度か遅刻の弁解のシミュレーションを行ったが、結局は両手で頭をかきむしって力ない足取りで洗面所へ向かった。


   ✢ ✢ ✢


 武器屋の軒先では、店主とララが陳列台の上に商品を並べていた。すると地味な女社長ターニャの魔導車が裏の駐車スペースに入っていき、すぐに彼女が現れた。


「「おはようございます!」」


 二人が挨拶をすると、彼女は力のない挨拶を返してトボトボとした足取りで店内へ入った。

 社長はどうしたんだろうか。二人が店内を覗くと、営業マン風の男が社長に話しかけていた。


「社長。先程、以前社長がバイトをしていたと仰ってた東国料理屋のシェフがお見えになり、開店祝いに我々に牛丼を振る舞いたいとのお申し出をいただきました!有り難いお話ですが、牛丼とはどのような料理なのでしょうか?ご存知ですか牛丼とやらを?」

「ぎゅ、牛丼ですって!?これ夢じゃないわよね?あんたしつこいわよ!」

「え?夢?しつこい?ど、どういうことです!?」


 営業マン風の男には何がなんだか解らなかった。

最後までお読みいただきありがとうございます。

もしよろしければ、↓から★★★★★をいただけるとよろこびます。

次回もご期待ください。

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