Ep.64 オープニングセール その27
●前回のあらすじ:
営業マン風と男は、工房の親方から聞いた店主のほっこり話に心をが温まった。
●主な登場人物:
・武器屋の店主: 気弱な武器屋の店主。一度は店を潰すが、地味な女社長の投資で再オープンさせることに
・地味な女社長: 前作主要キャラの一人ターニャ・レニ・ヴェンツェル«Tanja Leni Wenzel»。田舎育ちで地味な服装だが男爵号を持つ貴族
・武器屋の元女房: 店主とは離婚したが、地味な女社長の取り計らいで再び店主と暮らすことに
・営業マン風の男: 地味な女社長の部下。武器屋と本社を繋ぐパイプ役
・ギルド受付嬢の姐さん: 元妻に隠れて店主と両想い?
●その他の人物:
・刀のお嬢様: 女社長ターニャと同様に前作の主要キャラの一人。公爵令嬢ユア・スワーネリ・アルンスタ・ガコエワ«Jua Svanhild Arnstad Gakoeva»。先王から聖勇者の称号を授かった冒険者。武器は東国刀で二刀流。現在は行方不明になっていることがターニャから言及されている。(前作では「ゆあ・スヴァンヒルド」と表記)
・高貴な女聖職者: ですわ口調で、相当なお嬢様と思われる高貴な聖職者。インヴィリ«Yngvild»と名乗った。
本作でターニャが店主に武器屋再開を持ちかけたのが、前作の魔導車レースの数ヶ月後という時系列になっています。
営業マン風の男が、裏通りの店の前に戻ると、軒先に陳列されていた商品は既に片付けられていた。工房で親方の話を聞いているうちに閉店時間を過ぎてしまったのだ。
彼は、傾いた日差しが当たる扉を開けて、店の中へ足を進めた。
「ただ今戻りました」
店の中で大工作業をしていた土工職人たちも既に帰った後だ。作りかけの棚がいくつか並んでいて、空いている場スペースを外にあった陳列台が埋めている。
「お帰り。あれ、どうしたの?何かさっぱりした顔してるじゃないの」
カウンターで帳簿を付けていた地味な女社長が、薄笑みで迎えた。
「えっ、そうですか?」
親方から聞いた店主の昔話のお陰で、店主を見直したということが、何だか恥ずかしくなって知らないふりをした。
「どうでしたか、今日、というかオープン初日の売上は?」
「そうね……」
社長が言うには、店内が破壊された割に、まずまずの売上だったらしい。出足は順調……と言いたいところだけど、案の定、竹槍は一本たりとも売れなかったと言う。この竹槍を一週間以内に百本すべて売らなければ、この裏通りから出ていかなければならないのだから、他の商品の売上よりもむしろ重要だし、ちょっとやばいとも言える。
だが、社長はそれでも余裕なのか、柔らかい笑顔を見せていた。いつもこの人の度胸には驚かされる。
ガチャ。奥の扉が開いて、店主が顔を覗かせた。
「あ、おかえりなさい。思ったより売れちゃいましたよ、あはは」
やれやれ、竹槍は一本も売れてないっていうのに……。
こうして、オープン初日は過ぎていった。
翌日、新装オープン二日目。
武器屋の外に、魔導モーターの音が響き、魔導車の扉が閉まる音がすると、すぐさま店の扉が勢い良く開いた。地味な女社長が颯爽と入店してきた。もちろん、いつもの地味な服装で。
「「おはようございます」」
店主と営業マン風の男が挨拶をすると、社長もそれに応えた。
「おはよう。今日もよろしく頼むわ」
社長はそう言うと、二人が返事をするかしないかのタイミングに被せて、話始めた。
「ねえ。私、もう一つ組織を立ち上げることに決めたわ」
「組織、ですか?」営業マン風の男が尋ねた。
「そうよ。名付けて、牛丼改革連合よ!」
「牛丼?改革、連合?牛丼とは何ですか?」
「え、牛丼知らないの?そこからかあ。そうねえ、私、お父様が亡くなって爵位を継ぐまでの間に、飲食店でバイトしていた話は言ったことあったかしら?」
「直接伺ったかは覚えてませんが、存じ上げてます」
「そう。そのバイト先が、すぐそこの東国料理屋なのよ。そこで私はものすごく美味しい東国料理に出会ったの」
「え?東国料理ですか?」
「そう。それが牛丼ていうの」
「そうですか。それで、どう言う料理なのですか?」
「牛丼はね、牛肉と玉ねぎの煮込みをご飯にのせた料理なの。甘じょっぱいタレが牛肉の香りによく合うわ。私、王都に牛丼を広めるために、国民に合う味付けにしたり、啓蒙活動をする組織を立ち上げることに決めたわ。それが牛丼改革連合よ!」
「えええっそれは素晴らしいですね!さすがターニャ様です。しかし、連合というからには、社長とともに牛丼とやらの改革に挑む組織が他にいもあって、そこと合併するということなのですか?」
「え?他の組織?ないわよ?」
「そうなんですか?じゃあ連合ではないのでは?」
「だめかしら?」
「はい。連合とは二つの組織が併合されるようなニュアンスですから、単一の組織では不適切なネーミングかと」
「そ、そんな……。じゃあ、牛丼はどうなるのよ?牛丼は?」
「私に言われても……」
「な、何よ。反対意見だけ言うけど、代替案は示さないなんて、組織人としてどうなのよ。だって牛丼なのよ?牛丼、牛丼、きいいいい!」
地味な女社長は、目をつむって両手の握りこぶしを振り上げた。
次の瞬間、目を開けると、そこは自分の家の寝室だった。
いつもの起床よりも、窓から差し込む光が微妙に明るい気がする。そして、残酷な時計が目に入った。
「え?……あれ?夢?あ、今何時……って、え、あ!もう開店時間じゃないのよ!どうし……ああっもう!」
社長はベッドから飛び起き、部屋から掛け出た。そして、ダイニングのテーブルの上を見ると、サンドイッチと妹が残した手紙がおいてあった。
おはよう。牛丼、牛丼てうなされてたから、先に出るね。
手紙を持つ手が震えた。
「う、うなされてるのに放置するかしら普通?起こしなさいよ、もうっ!あああっ遅刻よ!遅刻!」
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