Ep.63 オープニングセール その26
●前回のあらすじ:
営業マン風と男との会話の中で、工房の親方は、店主との馴れ初めを話し始めた。
●主な登場人物:
・武器屋の店主: 気弱な武器屋の店主。一度は店を潰すが、地味な女社長の投資で再オープンさせることに
・地味な女社長: 前作主要キャラの一人ターニャ・レニ・ヴェンツェル«Tanja Leni Wenzel»。田舎育ちで地味な服装だが男爵号を持つ貴族
・武器屋の元女房: 店主とは離婚したが、地味な女社長の取り計らいで再び店主と暮らすことに
・営業マン風の男: 地味な女社長の部下。武器屋と本社を繋ぐパイプ役
・ギルド受付嬢の姐さん: 元妻に隠れて店主と両想い?
●その他の人物:
・刀のお嬢様: 女社長ターニャと同様に前作の主要キャラの一人。公爵令嬢ユア・スワーネリ・アルンスタ・ガコエワ«Jua Svanhild Arnstad Gakoeva»。先王から聖勇者の称号を授かった冒険者。武器は東国刀で二刀流。現在は行方不明になっていることがターニャから言及されている。(前作では「ゆあ・スヴァンヒルド」と表記)
・高貴な女聖職者: ですわ口調で、相当なお嬢様と思われる高貴な聖職者。インヴィリ«Yngvild»と名乗った。
本作でターニャが店主に武器屋再開を持ちかけたのが、前作の魔導車レースの数ヶ月後という時系列になっています。
あの頃は、まだ今ほど冒険者産業が盛んでなかった。むしろ、黎明期だったと言えるだろう。
俺は王都で一番大きく、名のある工房で修行をしていて、武器防具職人として一人前になったばかりだった。
冒険者に特化された武器や防具も殆ど無い時代、武器防具職人として一人前になったばかりの俺は、冒険者用の新しい武器防具を作ろうと暗中模索を繰り返していた。そんな時、アイツは積極的に自分の店にプロトタイプを置いてくれて、冒険者からのフィードバックを提供してくれた。そして、試作を繰り返して遂に完成した商品群は、着実に冒険者の心を捉え、徐々にに売れ始めたんだ。
しかし、そんな時だった。その工房の親方だった俺の師匠は、その一連の商品を自分名義で開発したことにらしてしまったんだ。まあ、工房の代表者だし、正直そうする権利はあった。ただ、それだけじゃなかった。卸先を大手の武器防具屋に限定する専売契約を結んじまった。
「え?じゃあ開発に協力してきた店長さんの店はどうなったんですか?」
営業マン風の男の疑問に、親方は声を震わせた。
「せっかくのヒット商品なのに、開発に協力したアイツの店には卸せなくなっちまった……。そのことを師匠に抗議したが、無駄だった。というか、それ以降、俺と師匠はギクシャクするようになった……」
カップに注がれた酒をグイと飲み干すと、親方は続けた。
それで師匠が信じられなくなった俺は、独立を目指して資金を貯め、数年後に無事独立を果た。それで作ったのが、この工房さ。
だが、またしても師匠は、俺の前に立ちはだかった。大手の店や武器屋の業界団体に、俺の工房の商品は取り扱わないように圧力をかけたんだ。幸い、都会じゃ田舎と違って力関係が複雑だから、鶴の一声で全部の店が取引してくれないなんてことはなかった。それでも取引してくれる店は驚くほど少なかった。
「まさか、店長さんは……」
ああ。あいつは弱小の個人経営のくせして、業界団体に逆らって、俺の商品を取り扱ってくれたんだ。あいつも厳しい立場に置かれてしまったよ。嫌がらせで卸値は引き上げられたり、納期が遅くなったりしたって言ってたな。
アイツは元から研究熱心ではあったんだけど、そういうのもあって、工房や問屋のネットワークから外れた貿易会社にも仕入れルートを作り、東国の武器なんかも扱い始めたんだ。
「……そういうことだったんですか。店長さんは、どうして不利を被ってまで協力されたんですか?」
アイツが言うには、とにかく冒険者を救いたいって話だ。当時は冒険者用の装備品は、軍隊の放出品とかで、ダンジョン探索には必ずしも使いやすいものじゃなかった。だから、冒険者の負傷、死傷は今とは比べ物にならないくらい悲惨だった。あいつはそれを嘆き、武器屋として何とかしたい、無事に帰ってきてもらいたいって、気概をみせてたんだ。ほら、冒険者は複雑な事情をもった奴らが多いだろ?親もいなくて、小さい兄弟の面倒を見てるとか。そういう奴らが死んじまったら、兄弟は孤児だ。アイツはそう言うどこまで気にかけてるんだよ。
「店長さんが……。そういう人だったんですね……」
アイツはその後もウチで作った商品を扱ってくれたり、試作品の熟成にも協力してくれたんだ。アイツがいなかったら、今の俺はないんだよ……。
親方は手酌で酒を注ぎ、飲み干すと上を見上げ、ふう、と息を吐いた。工房の通気窓からは、そろそろ傾いてきた陽の光が差し込んでいた。
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