Ep.60 オープニングセール その23
●前回のあらすじ:
バイトスタッフのララがピンクの絵の具で塗りたくった盾が、女冒険者にウケた。
営業マン風の男は、自分を証明すべく工房へと修理の依頼へ向かう。
●主な登場人物:
・武器屋の店主: 気弱な武器屋の店主。一度は店を潰すが、地味な女社長の投資で再オープンさせることに
・地味な女社長: 前作主要キャラの一人ターニャ・レニ・ヴェンツェル«Tanja Leni Wenzel»。田舎育ちで地味な服装だが男爵号を持つ貴族
・武器屋の元女房: 店主とは離婚したが、地味な女社長の取り計らいで再び店主と暮らすことに
・営業マン風の男: 地味な女社長の部下。武器屋と本社を繋ぐパイプ役
・ギルド受付嬢の姐さん: 元妻に隠れて店主と両想い?
●その他の人物:
・刀のお嬢様: 女社長ターニャと同様に前作の主要キャラの一人。公爵令嬢ユア・スワーネリ・アルンスタ・ガコエワ«Jua Svanhild Arnstad Gakoeva»。先王から聖勇者の称号を授かった冒険者。武器は東国刀で二刀流。現在は行方不明になっていることがターニャから言及されている。(前作では「ゆあ・スヴァンヒルド」と表記)
・高貴な女聖職者: ですわ口調で、相当なお嬢様と思われる高貴な聖職者。インヴィリ«Yngvild»と名乗った。
本作でターニャが店主に武器屋再開を持ちかけたのが、前作の魔導車レースの数ヶ月後という時系列になっています。
営業マン風の男は、工房の敷地正面に魔導車を乗り付けた。すでに鍛冶場で鉄を叩く連続音が響いている。出荷前の製品が左右ずらりと並べてあり、真ん中に通路のように空いた空間が、入り口までのアクセスを担保していた。彼は、そこを足早に駆け進んで行くと、入り口の前には一人の少年がいて、伝票とみられる紙束を手に数個の兜とにらめっこしていた。少年は、ここの工房で丁稚奉公をしている若弟子だ。
営業マン風の男は、少年に話しかけた。
「こんにちは。西区裏通りです」
ここには材料や燃料を運ぶ業者と、武器防具屋、金物屋以外が訪れることはあまりない。だから「どこそこの武器屋」などとは名のならない。むしろ店の場所を伝えれば誰が来たのか通じるということだ。長く付き合いのある店であれば屋号を用いたほうがわかり易いこともあるが、配達も担当している丁稚奉公の少年には立地のほうが伝わりが良かったりもする。
「はい、新装オープンのお店っスね。まいどありがとうございます。今日がオープン日でしたっスよね?おめでとうございます!……あれぇ?オープンなんスよね?何ありましたっスか?」
客先のことを思い出しながら自信を絞り出したハツラツとした大きな声が、次第に不安げに曇っていった。少年からしたら、自分の配達の手違いか、最悪は工房の瑕疵を想像してしまったのだろう。
営業マン風の男は、食い気味に答えた。
「お店が暴漢に襲撃されてしまったんです。それで、多くの商品が破損してしまいました。親方さんに修理のご相談をさせてもらいたいんです!」
「しゅ、襲撃っスか?大変っスね。でも、今忙しいっスよ?話しても無駄っていうか……。来週じゃ無理っスか?」
「何とかお願いできないでしょうか」
「いやぁ、厳しいっス」
「開店セールなんです。どうしても商品が必要なんです」
「今、本当に納期カツカツなんスよぉ」
こいつじゃ話にならない。営業マン風の男が悟った時には、すでに少年と入り口の隙間に肩をねじ込んで建屋へと押し入っていた。
「すみません、失礼します!」
「あぁっ、ちょっと待つっス!」
少年の制止を押しのけ、アトリエに立ち入ると、鉄火場の熱気が顔にジリジリときた。数人の職人が武器や防具の製造を行っていて、金属を叩く音が響いている。営業マン風の男は、一番奥で作業をしている親方を視界に収めると、一直線に駆け寄った。
「親方さん、お忙しいところすみません!」
「あ?なんだ?あれ、あんた西区の……」
「すみません、これ見てください!」
営業マン風の男は、破損品のリストが記された紙を広げて指さした。
「修理が必要なんです。今朝がた、店に暴漢が現れて店の中や商品を破壊してしまったんです。何とか、何とか修理をお願いできませんか!」
「い、いきなりだな……」
「これ、全部壊されてしまった商品のリストです。まだ店を始めたばったかりなのに、こんなに商品を壊されて本当に困ってるんです」
「気持ちはわかるけど、今、他の納期が大変で厳しいんだよ」
今日は散々だ。通りの顔役は説得できず、バイトの娘の才能も見抜けず、社長のように強気の商売にも踏み出せなかった。どうにか、いい条件で修理を、いや、修理の合意だけでも持って帰りたい。このままじゃ俺は何の役にも立たない。
「そこを何とか、何とかお願いできませんか!?もう一度リストを見てください!こんなにあるんです……!」
「あんたもしつこいね。だめだよ、忙しいって言ってるじゃなねえか!もう帰ってくれよ」
「そ、そんな……」
どうしよう、店に帰って社長や店長さんに何て言おう。このまま帰ったら……。
親方は、立ち尽くす営業マン風の男に追い打ちをかけた。
「帰ってくれ」
頭の中が真っ白になった。正直、どうしていいか判らない。
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