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Ep.59 オープニングセール その22

●主な登場人物:

・武器屋の店主: 気弱な武器屋の店主。一度は店を潰すが、地味な女社長の投資で再オープンさせることに

・地味な女社長: 前作主要キャラの一人ターニャ・レニ・ヴェンツェル«Tanja Leni Wenzel»。田舎育ちで地味な服装だが男爵号を持つ貴族

・武器屋の元女房: 店主とは離婚したが、地味な女社長の取り計らいで再び店主と暮らすことに

・営業マン風の男: 地味な女社長の部下。武器屋と本社を繋ぐパイプ役

・ギルド受付嬢の姐さん: 元妻に隠れて店主と両想い?

●その他の人物:

・刀のお嬢様: 女社長ターニャと同様に前作の主要キャラの一人。公爵令嬢ユア・スワーネリ・アルンスタ・ガコエワ«Jua Svanhild Arnstad Gakoeva»。先王から聖勇者の称号を授かった冒険者。武器は東国刀で二刀流。現在は行方不明になっていることがターニャから言及されている。(前作では「ゆあ・スヴァンヒルド」と表記)

・高貴な女聖職者: ですわ口調で、相当なお嬢様と思われる高貴な聖職者。インヴィリ«Yngvild»と名乗った。


本作でターニャが店主に武器屋再開を持ちかけたのが、前作の魔導車レースの数ヶ月後という時系列になっています。

「じゃあ、そう言うことだから、この竹槍は在庫に入れて、六十本は湯沸かし器とのセット用に引き当てるわよ。それから、取り敢えず十本は店頭に出しなさい」


 地味な女社長が営業マン風の男に指示すると、店の中につかつかと歩いて行った。彼も渋々ではあるが竹槍を立てる入れ物をさがそうと、社長を追って店の中に入った。社長はカウンターから帳簿を引っ張り出し、ベラベラとページをめくり始めた。その横では、営業マン風の男はカウンター脇にしゃがみ込み、そこにあった傘立てのような筒を手にとって、ほとんどテキトーにサイズを見積もりながら呟いた。


「出ませんよ、六十本なんて。三十本でも多いくらいです」


 社長は彼を直視し、両腕を腰に当てて仁王立ちで「言うじゃないのよ」と不満を顕にした。

 

「私は合理的な予測を述べているだけです。本当に竹槍を百本を一週間で捌くつもりですか?」


 ほとんど投げやりな口調だ。営業マン風の男は、社長に目も合わせず、筒の外側の汚れを手ではたきながら言うと、彼女は半身を翻し、つらつらと帳簿の書き込みを始めながら答えた。


「そうよ」


 あっさりとしたものである。

 営業マン風の男は立ち上がり、本当に本気なのかと社長を見ると、肩まで伸びたライトブラウンの髪がペンを走らせる動きに合わせて静かに揺れ、そこから白い鼻先と小ぶりな唇が見え隠れしているだけで、彼女の瞳がどれほど本気の光を放っているのかは判らなかった。

 営業マン風の男は思った。目の前にいる一人の女は、二十歳そこそこの細身の華奢な、貴族出身なので多少は品があるけど、言っちゃ悪いが何処にでもいそうなお姉ちゃんだ。

 その彼女から、自分にはありえないような強気の姿勢が繰り返されることに不安を感じずにはいられなかった。その不安には、男の自分よりも若く勇ましくもたくましい女が、確かに目の前に存在しているというプレッシャーもきっと含まれているのかもしれない。いずれにせよ彼には、社長との間に伸びるカウンターが、身分の差以上に長く感じられたのだった。

 営業マン風の男が呆然と立ち尽くしていると、彼の背後にある武器屋の入り口から、女の叫び声が響いてきた。


「きゃあああ!」


 二人は入り口を振り返り、一旦目を合わせると駆け足で店先に出た。


「どうしたの!?」


 社長が目にしたのは、三人の女冒険者と店主、バイトのララが陳列台の前に集っている光景だった。

 その中の一人の女冒険者が続けて奇声を発した。


「何これ!この盾かーわーいーい!」


「あ、社長」


 店主が社長に気がつくと、女冒険者たちも社長を振り向いた。


「え?この武器屋の社長さんて女性なんですか。だからこんな可愛い盾があるんだあ」


「すごい。こんなの見たことないよね!」


「ねえ、装備できるんだから買っちゃいなよ〜」


 三人の女冒険者が沸き立った。彼女たちの隙間から見えたのは、先程ララが絵の具で塗りたくったピンク色の盾だった。営業マン風の男は、その時にララを叱責したが、社長はこの盾を見て何かを感じ、彼女を咎めなかったのだった。そして予想通り、女冒険者の心に刺さった。

 地味な女社長は、一瞬キョトンとしてしまったが、何が起こったのかを把握すると、それ見なさいという表情で営業マン風の男を見た。


「あ、あ……」彼は自分自身に戸惑った。


「ララちゃん、やったわね!」


 社長が得意げにララを褒めると、彼女は頬を赤らめ、頭を掻きながら照れ笑いした。


「えへへ……」


 営業マン風の男は再び思った。│地味な女社長このひとの強気と判断は、俺の度量を明らかに超えている。一体俺は何の役に立てるのだろうか、と。

 その思いなどはどうでもいいとでも言うかのように、社長とバイトのララ、三人の女冒険者は歓談を興じ始めていた。


「そうだ……」


 営業マン風の男は店舗に戻ると、カウンターから破損品のリストが記された紙を取り出した。そして店から駆け出ると店主に言った。


「店長さん、工房に事情を説明して、修理納期の交渉をしてきます!そこの傘立てみたいなのに竹槍を十本くらい入れて陳列しておいて下さい!」


「え?あ、はい。気をつけて」


 彼は魔導車に駆け乗り、アクセルを強めた。

最後までお読みいただきありがとうございます。

もしよろしければ、↓から★★★★★をいただけるとよろこびます。

次回もご期待ください。

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