Ep.53 オープニングセール その16
●前回のあらすじ:
地味な女社長は、着替えで使わせてもらった店主の元妻の部屋で、托卵の証拠と思しきものを見つけた
●主な登場人物:
・武器屋の店主: 気弱な武器屋の店主。一度は店を潰すが、地味な女社長の投資で再オープンさせることに
・地味な女社長: 前作主要キャラの一人ターニャ・レニ・ヴェンツェル«Tanja Leni Wenzel»。田舎育ちで地味な服装だが男爵号を持つ貴族
・武器屋の元女房: 店主とは離婚したが、地味な女社長の取り計らいで再び店主と暮らすことに
・営業マン風の男: 地味な女社長の部下。武器屋と本社を繋ぐパイプ役
・ギルド受付嬢の姐さん: 元妻に隠れて店主と両想い?
●その他の人物:
・刀のお嬢様: 女社長ターニャと同様に前作の主要キャラの一人。公爵令嬢ユア・スワーネリ・アルンスタ・ガコエワ«Jua Svanhild Arnstad Gakoeva»。先王から聖勇者の称号を授かった冒険者。武器は東国刀で二刀流。現在は行方不明になっていることがターニャから言及されている。(前作では「ゆあ・スヴァンヒルド」と表記)
・高貴な女聖職者: ですわ口調で、相当なお嬢様と思われる高貴な聖職者。インヴィリ«Yngvild»と名乗った。
本作でターニャが店主に武器屋再開を持ちかけたのが、前作の魔導車レースの数ヶ月後という時系列になっています。
店主たちは、開店準備を一通り終えた。地味な女社長から新装オープンの一言をもらうセレモニーも行う。残念ながら、暴漢による襲撃で店の中はぐちゃぐちゃになってしまったが、軒先に商品を陳列して店を始める。
店の中では建物の修繕、棚などを再生、新造する大工作業が続けられているが、セレモニー前にそれらを一度中断して、社長が来るのを待った。
「おまたせ……!」
部屋のドアが開いて、着替えをすませた社長が出てきた。さわやかな笑顔だ。先程までの派手なクリムゾンレッドの服とミントグリーンのスカートとは打って変わり、落ち着きのある、いつもの地味な服装だ。胸に光るブローチもまたゴージャスなものではないが、石のサイズと装飾の細かさは、彼女が貴族の身であることを疑わせないものとして十分だった。
「社長、みんな揃ってますので、一言お願いします」
営業マン風の男が、大工道具とおが屑が散らばる店内に社長を誘導すると、そこには店主、女将である彼の元妻と抱かれた赤子、バイトスタッフのララ、本社から急遽駆けつけた大工たちが揃っていた。
「ありがとう。無事に……ではないかな?それでも今日の日を迎えられたことを嬉しく思います。特に店長さんは、何度も暴行にあって苦労しました。店もこの有様だけど、みんなの協力があって何とかオープンさせることができました……ぷっ……」
社長は、何故か吹き出した。
まずいわ、だって、托卵の秘密が頭から離れないんですもの……。
「失礼……。ええと、私はこの武器屋さんを西区の裏通りの個人商店から、王都一の大きな武器屋にしたい。そんな思いがあってこの店に投資しました」
「おぎゃあ、おぎゃあ!」
突然、女将の抱く赤子が泣き始めた。元妻は「静かにおし」と優しく子供を揺すった。その光景が目に入った社長は、笑いを堪えて声が震え、間違えて托卵と言いそうになった。
「たく……、ましい皆がいれば、それも不可能じゃないと思うの」
き、君は誰の子なのよ。『P』って誰のイニシャル?また吹き出しそう。ま、まずいわ。
「ばぶーばぶー」
再び赤ちゃんが声を上げると、元妻は言った。
「お父ちゃんの門出なんだから、邪魔しちゃだめだよ、ほら!」
社長は、完全にツボって笑いを堪えて肩を揺らし始めた。
ちょ、ちょとお!お父ちゃんじゃないでしょう……お父ちゃんじゃ!
「たくら……」
社長がそう言うと、皆がシーンとした。
「たくら?何だ、たくらって?」
「あ、あ、ええと、伝説のタクラマカン砂漠のように広大な収益を上げられるよう、頑張りましょう!さあ、オープンよ!」
大工たちは、社長の声に共鳴して、「おお!」という太い声を上げた。こうして、西区裏通りの小さな武器屋は再び店を始めることになった。
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