Ep.42 オープニングセール その5
●前回のあらすじ:
ガラの悪い冒険者に破壊された店内だったが、地味な女社長はそれでも店を開こうと言った。
店主はギルドに事情を説明しに向かった。
●主な登場人物:
・武器屋の店主: 気弱な武器屋の店主。一度は店を潰すが、地味な女社長の投資で再オープンさせることに
・地味な女社長: 前作主要キャラの一人ターニャ・レニ・ヴェンツェル«Tanja Leni Wenzel»。田舎育ちで地味な服装だが男爵号を持つ貴族
・武器屋の元女房: 店主とは離婚したが、地味な女社長の取り計らいで再び店主と暮らすことに
・営業マン風の男: 地味な女社長の部下。武器屋と本社を繋ぐパイプ役
・ギルド受付嬢の姐さん: 元妻に隠れて店主と両想い?
●その他の人物:
・刀のお嬢様: 女社長ターニャと同様に前作の主要キャラの一人。公爵令嬢ユア・スワーネリ・アルンスタ・ガコエワ«Jua Svanhild Arnstad Gakoeva»。先王から聖勇者の称号を授かった冒険者。武器は東国刀で二刀流。現在は行方不明になっていることがターニャから言及されている。(前作では「ゆあ・スヴァンヒルド」と表記)
・高貴な女聖職者: ですわ口調で、相当なお嬢様と思われる高貴な聖職者。インヴィリ«Yngvild»と名乗った。
本作でターニャが店主に武器屋再開を持ちかけたのが、前作の魔導車レースの数ヶ月後という時系列になっています。
「あれ、店長さん?今日はオープンの日じゃなかったの?」
店主がギルドの建屋に入ると、受付嬢の姐さんがすぐに声をかけてきた。準備に忙しいはずのオープン当日の朝に、ギルドを訪れたことに彼女は違和感を感じたようだ。
「おはようございます。実は……」
店主は、先日のガラの悪い冒険者が店を訪れ、陳列した商品や店そのものに破壊行為を加えたこと、彼は憲兵に連行されたことを順を追って説明した。受付嬢の姐さんの表情が、説明が進むごとに曇っていくのが解った。
「そ、そんな……。ごめんなさいね。あの時、わたしを助けてくれたばっかりに。あいつ、憲兵に突き出しておけばよかったわ。今更だけど……」
「いえ、起きてしまったことは仕方ありません。ただ、当面チラシの配布はストップしていただきたいんです。店が復旧したらまた再開させていただきたいと思います」
「ええ。解ったわ。力になれそうなことがあったら、なんでも言ってね」
受付嬢の姐さんは、そう言って店主の胸に手をあてた。店主はその手に自分の片手を重ねて彼女の気持ちに応えた。すると姐さんは指を開いて、自分の指の間に店主の指を招き入れ、二人の指は絡まった。そして永遠とも思える少しの間、二人は静かに、そして熱く見つめあった。だが、今日はトラブルまみれのオープン初日。そうゆっくりもしていられない。店主は彼女の手を両手で握り胸から離した。
「今日、これからお店をやるんです。チラシを見て、期待して下さる冒険者さんたちのために店を開けます」
「お店開けるの?だって、お店の中ボロボロなんでしょ?商品だって……」
「はい。展示していなかった在庫は無事なので、残った商品でやります」
姐さんは顔を赤らめて店主の手を握り返した。
「店長さんって、エネルギッシュすごいのね……」
エネルギッシュですごいのは地味な女社長なのだが、店主は姐さんに良い顔をしたくて、その事実は隠匿した。
「そんなことはありませんよ。でも、頑張ります!」
店主は、自分を見つめる姐さんのキラキラとした瞳に静かな笑顔で応えると、背中にその視線を感じながらギルドを後にした。
一方、武器屋店舗では、その軒先に工員たちが作った仮設の陳列台が並べられた。陳列台は木製で、突貫の大工作業によるものだ。そしてその上に、光沢のある見た目だけはゴージャスな布が敷かれて、更にその上に商品の武器が並べられていく。
「社長、これも並べましょうか?」「そうね。その辺に置いてちょうだい」
地味な女社長は次から次へと展示の指示を出し、商品がどんどん陳列されていく。しかし、彼女は武器に詳しいわけではなかった。そのために、例えば職業別の武器や防具だとか、価格帯別などの合理的な区分けがされているわけではなかった。商品は彼女の直感によって、何となく形が似ているものや色が似ているものの分類で並べられていた。工員たちも武器に詳しいということはなかったので、誰も修正の提案を行うことなく、陳列が進んでいった。
忙しなくしている地味な女社長であったが、彼女の背中に少女の声が響いた。
「あの、すみません。バイトの面接を受けにきたんですけど……」
振り向くと、両手でチラシ一枚を持った身長百四十センチに満たない小柄な少女が、一人でモジモジと突っ立っていた。ショートボブの金髪のサラサラヘアーと、丸く大きなエメラルドの瞳が目を引いた。地味な女社長は「この娘可愛い」と感じたが、多忙な今、そんなことはすぐに頭の片隅に追いやられて、意味不明な声がけに感情が突沸した。
「はぁ?」地味な女社長の顔は曇っていた。
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