Ep.35 オープン直前 その10
●前回のあらすじ:
血を吐いた店主の心拍が停止し危険な状態に!
魔導心拍再生装置のチャージが完了した。
●主な登場人物:
・武器屋の店主: 気弱な武器屋の店主。一度は店を潰すが、地味な女社長の投資で再オープンさせることに
・地味な女社長: 地味な服装の若い女。どのような会社を経営しているかは不明
・武器屋の元女房: 店主とは離婚したが、地味な女社長の取り計らいで再び店主と暮らすことに
・営業マン風の男: 地味な女社長の部下。武器屋と本社を繋ぐパイプ役
・ギルド受付嬢の姐さん: 元妻に隠れて店主と両想い?
「急患、ですか?」
大祭殿の医療棟では、女聖職者が受付に駆け寄っていた。受付の微妙に困った表情が気にかかる。
「はい。中央区の冒険者ギルドで、手違いで一般人が暴行を受けて瀕死なんです!私ではどうにもならなくて。どうか中級より上位の聖職者を派遣していただけないでしょうか?魔導車で来てますから、すぐに行けます!」
「そうですか……。残念ですが、今日は手がいっぱいなんです。今日は王族の方々の定期往診が重なっていて、そもそも中級以上は誰も残っていないはずです……」
「そ、そんな……!」
女聖職者の顔は青ざめた。これでは店主の命は尽きてしまうだろう。
「一応、確認してきますけど……」
受付の者は、奥に入り数分ののちには戻ってきたが、首を横に振った。
「申し訳ありません、残念ですが……」
冒険者ギルドでは、心肺停止の店主に魔導心拍再開装置が使われようとしていた。医療班リーダーは、両手に持った左官小手のような装置を、露わになった店主の胸に向けた。
「よし!離れて!」
リーダーがそう言うと、取り囲んでいたスタッフ達は一歩引いた。リーダーは小手を店主の胸に当てて、グリップの親指のあたりにあるボタンを押した。すると、ズダァアン!という大音とともに、店主の体が激しく上下に弾んだ。
「きゃあ!店長さん!」姐さんが悲鳴をあげた。
「大丈夫だ。あのショックで心臓を動かすんだから!」
事務長がそう説明したものの、現実は残酷だった。
「心拍再開しません!」脈を測る医療スタッフが首を横にふる。
「もう一発だ!三百だ。三百にチャージ!」「チャージ三百、開始します……!」
助手の傍にある装置の魔石が、先ほどよりも強く輝き始め、キーンという高周波が耳をつく。そして、装置のブザーがさらに大きな音で鳴った。
「チャージ・三百、完了!」
「さっきより強いぞ!離れろ!」
リーダーがそう言うと、周りのスタッフが先ほどと同じように離れた。そして一段と大きいズダァアン!という音と共に、店主の体が弓形に反り返ってベッドから跳ね上がった。
「きゃああ!店長さん!」受付嬢の姐さんはさらに悲惨な声をあげた。
リーダーが脈を測るスタッフに顔を向けると、脈拍のスフタッフか首を激しく横に振った。
「ダメです!再開しません」
「……く!こうなったら!ご、五百だ!五百でチャージ!」
「だ、大丈夫ですか!?説明書によると、その値は馬とかに使う値ですよ!」
「何?じゃあ、千だ!中途半端なことしないで、一発で決めるぞ。千でチャージだ!」
「わかりましたァっ!」
「やめて!店長さんが死んじゃう!」
大祭殿の外に停めた魔導車に、女聖職者がトボトボと歩いて近づいた。
「どうしました!?」
彼女の姿に違和感を感じた営業マン風の男は、魔導車から飛び降りて詰め寄った。
「それが……」
営業マン風の男は、説明を聞く項垂れ、珍しく語気を強めた。
「そ、そんな……。王族の往診で一人も居ないって、おかしいだろ!」
営業マン風の男が魔導車の扉を拳で叩くと、女の声がした。
「どうなさったのかしら?王族の往診がどうかして?」
若い女だ。新しく寄宿舎に入るのか、ツバの広い帽子を被った旅装束でキャスター付きのトランクを引いて門の前まで来た。彼女の服全体、特に長手袋やブーツの革は明らかに高級なしつらえで、出家するには違和感がある。
ギルドの女聖職者が事情を説明すると、彼女は少し考えてから言った。
「そうですのね。……よろしくてよ。わたくしが参りましょう。案内なさい」
聖職者にしては随分と上から目線の言葉だったが、口調はまるでそれが当然、いや自然なもので不思議と嫌な感じがなかった。高貴な生まれで元からそのような言葉遣いなのだろうか。
「でも、状態がかなり悪くて、失礼ですがおそらく中級以上の聖職者様でないと……」
ギルドの女聖職者がそのように確認したが、高貴な女聖職者は「あらそう」と返すのみだった。ギルドの女聖職者はどうすべきか迷ったが、どちみちもう仕方ないので魔導車の扉を開けて彼女を誘導すると、高貴な女聖職者はそこに乗り込み、三人掛けの座席の真ん中に堂々と座った。トランクはそのまま道に置かれたままだったので、営業マン風の男が魔導車の荷台に担ぎ入れた。彼女の両隣に営業マン風の男と、ギルドの女聖職者とが座ると、三人はほとんど肩が触れるような距離感だった。高貴な女は「ちょ、狭いですわね、この車」と不満そうに一言漏らした。
「じゃあ行きますよ!」と営業マン風の男。そこからギルドまでは、文字通りぶっ飛ばして戻った。ギルドの建物の前に着いて魔導車を降りる時、高貴な女は言った。
「それにしても、あなた方は運がよろしくてよ。わたくしは今でこそ中級。でも、もうすでに大法術司への昇進が内定しておりますのよ?ですから、実質上級ですわ。おっほっほっほ」
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