Ep.33 オープン直前 その8
●前回のあらすじ:
店主が暴行に倒れた知らせに元女房が心配の表情で慌てふためく。
営業マン風の男は、とにかく魔導車でギルドに向かった。
●主な登場人物:
・武器屋の店主: 気弱な武器屋の店主。一度は店を潰すが、地味な女社長の投資で再オープンさせることに
・地味な女社長: 地味な服装の若い女。どのような会社を経営しているかは不明
・武器屋の元女房: 店主とは離婚したが、地味な女社長の取り計らいで再び店主と暮らすことに
・営業マン風の男: 地味な女社長の部下。武器屋と本社を繋ぐパイプ役
・ギルド受付嬢の姐さん: 元妻に隠れて店主と両想い?
「私の着用していた鎧もめった打ちにされてしまいました。しかし、あれは店頭商品を試用していたものでした。ですので、全部とは言いませんが補填をお願いしたいところなのです。そこで……」
「そこで……?」
「もし可能であれば、この先一年間、彼の装備品の購入やメンテナンスの窓口を当店にしていたけませんか?」
「え?ええ。ギルドとしてはそれで構いませんが……」
その時、ギーと音がして医務室の扉が開いた。全員が扉を振り向くと、そこには店主を撲殺しようとした棍棒男がいた。彼の表情からは怒りの色が感じられる。
「ちょっと待ってくれよ。俺は確かに勘違いをして悪かった。でもそれはそっちの格好にも原因があったんじゃねえか。それなのに、向こう一年間もあんたの店に金を払い続けるってのは、ちょっと納得がいかねえぜ」
確かに一年間の長い償い期間は、精神的仕打ちとしては意地の悪い感じも受ける。棍棒男の主張には妥当性があると言えるだろう。だが、事務長は棍棒男を支持せず、店主の提案に乗るように説得を試みた。
「おいちょっと待て、これはギルド内での揉め事と違うんだ。店長さん達が憲兵に君の暴行を訴えて刑事罰的な解決を望んだり、鎧や治療費の損害賠償訴訟を起こされても、ギルドとしては何も守ってやれないんだぞ?せいぜい、店長さんは鎧を着ていたので、それが誤解の原因になりましたと証言するくらいだ。それに一般人への暴行で刑事罰なんて受けたら冒険者証は剥奪だぞ?それをこうして君の一年間の必要経費の一部分で収めてくれると仰ってるんじゃないか。悪い話じゃないだろ?」
「ぐ……。でも事務長さん、一年間も俺のプライドはズタズタのままですよ!?」
店主が言葉を挟んだ。
「待ってください。お互いのためでもあるんです」皆が疑問の顔で店主を見た。
「我々はこれから、初心冒険者さん達がある程度の経験を積むまでの間のサイクルで商売をしようとしています。ですので、継続的に面倒を見させてもらうこと、そこから得られる経験が商売上の有益な情報になると思うんです。つまり、あなたはこれまで通り必要な経費を必要なだけ使って冒険すればいいんですよ。ただそれが当店に支払われる、と言うだけの話です。これはウィンウィンの関係です。決してイタズラにあなたのプライドを刺激したいワケじゃないんです」
棍棒男はどこか納得のいかない表情だったが、黙って考え始めた。事務長は棍棒男の背中を叩いて、同意を促した。
だが、ここで店主の容態が急変した。「ぐぼっ!」と咳き込み、血を吐いて痙攣し始めた。女聖職者の声が響く。
「私の術じゃ体表の傷は癒せても、内臓の損傷までは治癒しきれません!祭殿から上級の術者を呼んでこないと!」
営業マン風の男は焦りの表情を浮かべて言った。
「マズいですよ!彼の奥さんは、かなり怒っていました。きちんと治して帰さないと憲兵に駆け込まる可能性もありますよ!?それじゃあ本末転倒だ」
「それより喉に溜まった血を吸い出さないと窒息するぞ!医療班急いで!」
事務長の支持で医療スタッフが慌ただしく対処を始めた。女聖職者は自分が祭殿に行って術者を呼んでくると言ったが、事務長が止めた。
「おい、そうしたら応急施術は誰がするんだ!?死んでしまうぞ」
しかし、同業の聖職者の説得がなければ、緊急時と言えど後回しにされる可能性だってある。そのことは女聖職者を引き留めた事務長ですら理解していた。
営業マン風の男が助け舟を出した。
「私は魔導車で来てますので、一緒にいきましょう。それならばずっと早くて、店長さんの元を離れる時間も少なっくて済む」
その言葉に事務長も頷いた。すると女聖職者の響いた。
「はい!ありがとうございます!ここからだと中央大祭殿が一番近いです!」
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