Ep.32 オープン直前 その7
●前回のあらすじ:
店主はギルドの受付嬢に手を出さないと言う不文律を破ったとみなされ、棍棒でめった打ちに。
●主な登場人物:
・武器屋の店主: 気弱な武器屋の店主。一度は店を潰すが、地味な女社長の投資で再オープンさせることに
・地味な女社長: 地味な服装の若い女。どのような会社を経営しているかは不明
・武器屋の元女房: 店主とは離婚したが、地味な女社長の取り計らいで再び店主と暮らすことに
・営業マン風の男: 地味な女社長の部下。武器屋と本社を繋ぐパイプ役
・ギルド受付嬢の姐さん: 元妻に隠れて店主と両想い?
武器屋の魔道通信機のベルがけたたましくなった。営業マン風の男はすぐに受話器を取って応対した。
「はい、西区裏通りの武器屋です。……はい、ええ。え?店長さんが!?……はい。わかりました。」
話の途中で彼の声色と表情が深刻なものになると、店主の元妻は何事かと注目した。そして受話器を置いたのを見るとすぐに詰め寄った。
「どうしたんだい?あの人に何かあったのかい」
「それが……」
営業マン風の男は、店主が再びギルドで暴行を受けたことを深刻な表情をもって説明した。どうやら軽鎧を装備していたせいで、ギルドメンバーと間違えられ、それが原因でいざこざに巻き込まれて棍棒でめった打ちにされたと。
「そんな!ウチの人は大丈夫なのかい?一体全体、あのギルドはどうなってるんだい。ウチの亭主をなん度もボコボコにするなんて!もうあんなところに広告出す必要なんてないよ!」
店主の元妻は完全に取り乱し、困惑の表情と大きな身振り手振りで営業マン風の男に更に詰め寄った。
「女将さん、落ち着いてください……!」「これが落ち着いていられるかい!」
元妻はかなり興奮している。営業マン風の男は、この場ですぐに店主の元妻を落ち着かせるのは無理だと判断し、自分がギルドに赴いて事を見定めることにした。
「私が行って来ます。湯沸かし器の工事をしている連中には、魔導車をちょっと借りると言っておいてください」
そう言うと、営業マン風の男はすぐさまトラック型魔導車に乗り込んだ。
荒い運転でギルドに到着すると、魔導車を建屋の真ん前に止めて、すぐに中に入った。
「あっ!武器屋の営業さん!」受付嬢の姐さんがすぐに気がついた。
「お世話になります。ウチの店長は!?」
彼女は内線をかけたかと思うと、すぐに営業マン風の男を誘導し、医務室に案内した。
店主はギルド内の医務室にいた。医務室のベッドの空きがあったのと、先日の女聖職者が顔を出した偶然が重なり、ギルド内で回復術を施されて寝ていた。だが、先日も彼女の回復術では完治しなかったことが示すように、彼女の施術はそれほど優秀ではなく、店主は未だ朦朧とした意識でベッドに横たわるのみであった。
「すみません、うちのギルメンが間違って店長さんを撲殺しようとしたようで。回復は、私のできる限りのことはさせていただきましたが……」
女聖職者は、意識なく横たわる店主に目を落とした後、営業マン風の男のほうを向き、困った顔で頭を下げた。だが、これは彼女に非があるわけではない。
「いえ。別にあなたがあやまることじゃありませんよ。それより、ありがとうございます。回復をかけてくれる人がいなかったらどうなっていたことか。……で、殴った人は今どちらに?」
男の行方については、彼女は知らないようだったが、受付嬢の姐さんが言った。
「今、事務長が審問をしてるわ」
営業マン風の男は、事務長のオフィスに行こうと思ったが、その必要はなかった。医務室の扉が開いたと思ったら、事務長が入って来たのだ。
「どうも、お世話さん。すまないね来てもらっちゃって。店長さんがウチの受付嬢に護身用のナイフをプレゼントしたらしいんだけど、それが太ももにつけるタイプで、しゃがんで着けてあげてたら乳繰り合ってるのと勘違いしゃったらしいんだよ。受付嬢の娘は、血気盛んなギルメンにモテモテなんだけど、彼らの間では受付嬢には手を出さないっていう掟があるみたいで。それで、店長さんが鎧を着てたもんだから、武器屋じゃなくてギルメンだと勘違いしたらしいんだ。で、制裁的な感じで。本当に申し訳なかった……」
事務長さんは深々と頭を下げた。受付嬢の姐さんもバツが悪そうな顔で一緒に頭を下げていた。
「何なら、殴った男の身柄、渡しましょうか?」
事務長の言葉に、営業マン風の男は考えを巡らせた。
どう言う意味だろうか。私の解釈が正しければ、これは事実上の報復の許可だ。この事務長、なかなか恐ろしい男だ。舐めたことをしたら、それなりの落とし前はつけさせられるだろう。気をつけなければ。
「……そ、それには及びませんよ……」店主の声だ。
営業マン風の男が事務長の言葉に思いを馳せていたところ、店主が意識を取り戻した。
「「店長さん!」」
「はあはあ。私にも鎧を身につけて誤解されるような格好でしたし、知らなかったとはいえ、その格好で彼らの不文律を犯したわけですから、ある意味で当然の行動です……」
「店長さん、あなたは悪くないわよ!」受付嬢の姐さんが駆け寄る。
「もちろん悪くありません」
事務長も店長の肩を持った。
「そ、そうでしょうか。……では、もしよろしければ、一つご提案を聞いていただけませんか?」
「……?」
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