Ep.28 オープン直前 その3
●前回のあらすじ:
いよいよ商品の搬入が始まった。どうやら武器だけでなく、防具も取り扱うらしい。
●主な登場人物:
・武器屋の店主: 気弱な武器屋の店主。一度は店を潰すが、地味な女社長の投資で再オープンさせることに
・地味な女社長: 地味な服装の若い女。どのような会社を経営しているかは不明
・武器屋の元女房: 店主とは離婚したが、地味な女社長の取り計らいで再び店主と暮らすことに
・営業マン風の男: 地味な女社長の部下。武器屋と本社を繋ぐパイプ役
・ギルド受付嬢の姐さん: 元妻に隠れて店主と両想い?
「じゃあ、始めましょう」
店主が魔導二輪を操縦するための訓練が始まる。武器屋店舗の前に店主と営業マン風の男が車両を囲み、扉の前で元妻がそれを見ている。
「……と言っても私も基本操作くらいしか教える内容がありませんが……」
「え?でも、やってみましょう」
「積極的ですね。」
「ええ。新しい技術には適応しないといけませんから……!武器屋なら当たり前です!」
店主はそう言いながら、魔導二輪に跨って真っ直ぐな目をした。だが内心は、ギルドの受付嬢の姐さんの笑顔でいっぱいだった。「この新しい乗り物を乗りこなして、すぐに会いにいきます!」そう心の内で叫ぶと、グリップを握る手に自然と力がこもる。
「あんた大丈夫かい?こけてケガを悪化させやしないだろうね?」
赤子を抱いた元妻は心配そうに店主を見つめた。店主は「大丈夫さ」と答えると営業マン風の男を促すように見た。
「じゃあ、まず魔導モーターを起動します。この鍵をハンドルの中心あたりにある鍵穴に刺してひねってください」
店主は右手を差し出して鍵を受け取り「こうですか?」と言って鍵を刺して回した。すると、シートの下に位置する魔導モーターが小さくキーンという高い音を放ち始めた。
「では、最初は足をついたまま極低速で動いてみましょう。右手のグリップを少しだけ手前に回してください。一気に回すといきなり動きます。危ないから少しだけですよ?」
「はい」 店主はあまり考えずにクイッとグリップを回した。魔導モーターから甲高い音が鳴り、車両が急発進した。
「うわっ!」店主は魔導二輪から振り下ろされ、車両は少し進んだところで倒れた。店主はその場に横倒しになり、体を地面に打ちつけた。車両が石畳の路面をする音がズシャアアア!と裏通りに響いた。
「ぐふっ!」「ちょ、言ったじゃないですか、少しだけって!大丈夫ですか!?」
しかし、店主は打ち身に痛みに震える体を起こし、ゆっくりと立ち上がった。
「な、なんのこれしき……!」
「アンタ!大丈夫なのかい?」
「ああ……大丈夫さ」だが、心配する元妻の声をよそに、店主の頭の中は今なお受付嬢の姐さんの姿で満たされていた。あの柔らかく温かい膝枕が恋しい。
店主はよろよろと魔導二輪へ歩み寄り、車両を引き起こして再び跨る。
「ちょっと待ちな!」
妻はそう言うと、店主に今日届いたばかりの甲冑を着けるように進めた。「そんな、商品ですよ?」と営業マン風の男は心配したが、元妻は「ウチの人がこれ以上怪我してもいいて言うのかい?」と反論する。それに店主は「転ばなければどうということはありませんよ、今ので大体掴めました」と余裕の表情だった。転ばないのであれば必要ないのではないか、営業マン風の男はそう思ったが、なんとなく空気に飲まれて口をつぐんでしまった。
甲冑をつけた店主が再び魔導二輪に跨る。兜のバイザーを下ろし、両手でハンドルのグリップを握った。異様な姿である。
再び、店主はゆっくりと発進した。
「じゃあ、一区画行ったらUターンして戻ってきてください。Uターンは車体を内側に傾け、アクセルを開けて後輪を滑らすようにして、地面についた軸足を中心に旋回してください」
店主は片手をあげて「了解」と合図を送った。そのまま加速し、区画の終端まで進んだ。ターンのために体を傾けて足を着き、アクセルを開けると、シュヴァアアと音を立てて後輪を滑らせた。「おお!」と営業マン風の男が感嘆の声を上げる。だが、その感嘆は悲鳴に変わった。店主はターンの終わりぎわ、後ろが流れて転んでしまった。シャザアアア!と車体と甲冑が地面をする音が響いた。
「アンタ!」「あっ商品が!」二人は叫んだ。
店主は「ふーっ、ふーっ」と兜の中で息を荒くして立ち上がると、何とか再び車両を発信させて戻ってきた。
「ふーっ、ふーっ、今度こそ大体掴めました。今度は本番ということで、一人でチラシをギルドまで届けてきます!」
……よし、これで受付嬢の姐さんに会いに行けるぞ!また良い感じになって色々触りたい!
すけべ心は最高の動力源だった。
「そ、甲冑着たまま行くんですか!?商品ですよ?」
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