Ep.26 オープン直前 その1
●前回のあらすじ:
ギルドの受付嬢の部屋で休息を取る店主。
元妻の托卵を指摘された上に、二人は体を寄せ合いいい感じに……。
●主な登場人物:
・武器屋の店主: 気弱な武器屋の店主。一度は店を潰すが、地味な女社長の投資で再オープンさせることに
・地味な女社長: 地味な服装の若い女。どのような会社を経営しているかは不明
・武器屋の元女房: 店主とは離婚したが、地味な女社長の取り計らいで再び店主と暮らすことに
・営業マン風の男: 地味な女社長の部下。武器屋と本社を繋ぐパイプ役
・ギルド受付嬢の姐さん: 元妻に隠れて両想い?
「あんた、どうしたんだい?どっかおかしくしたのかい?」
お店に戻ると、店主は営業マン風の男の肩をかりながら建屋に入った。すると元妻は、その姿を見るなり困惑したのだった。そして、赤ちゃんを会計カウンターに置き、すぐに店主に駆け寄ってもう片方の肩を支えた。
「あ、ああ、ちょっとね、別にたいしたことないさ……」
店主が言葉を詰まらせている雰囲気を察して、営業マン風の男が、元妻に事の成り行きを説明した。「……と回復をさせたのですが、店長さんは気を失っていたので……ええと、休ませたまま、私はその間に本社から魔導車を持ってたんです」と、彼なりに気を使ったのか、受付嬢の家で休んでいたことは微妙にぼかされた。
店主は奥の部屋に運ばれ、ソファーに座らせられた。元妻は当然のように店主の姿勢をサポートする位置にクッションを捩じ込む。「ほら、ちょっとここ上げて」「あ、ああ……」阿吽の呼吸で楽な姿勢が作られていくと、こんな女でも長年連れ添った仲だと意識され、受付嬢の姐さんとの関係に罪悪感を覚えてきた。
しかし、店主にも正当性がないわけじゃない。可愛らしいくもあるその女の赤ちゃんは、店主の子供でない可能性も示唆され、昨日の今日会ったばかりで、行政手続き的な認知もまだしていない。同居することになった元妻とも同様で、まだ二度目の結婚式も挙げていないし、誓いも立てていないければ、もちろん行政的な手続きもしていない。そもそも結婚をどうするかの話は、まだきちんとなされていない。だから、法律上も慣行上も彼女は「同居人」にすぎないのだ。社長にも面倒は見るとは言ったが、再婚をするとは明言していない。だから他の女と何があっても、きちんと元妻と赤子の面倒を見れば大義は立つし、心を寄せ合う女性との関係が許されないということはない。店主は、そう自分自身に言い訳した。
店主がそんな言い訳を心のうちにめぐらせている間に、元妻はダイニングテーブルの椅子に営業マン風の男を座らせ、店舗に戻って赤ちゃんを抱いて戻った。そして、ゆり篭に赤ちゃんを寝かすと薪をくべて湯を沸かし始めた。
「今、お茶を淹れるから待ってておくれ?」
「どうぞ、お構いなく」
営業マン風の男は、そう返したが、元妻は棚から茶葉の入った箱を取り出し、店主に言った。
「受付嬢を庇ってケガしたんじゃ、どうしようもないじゃないか。どうして放っておかなかったんだい。相手は腕に覚えのある冒険者だったんだろ?」
「そうもいかないさ。だって、チラシは受付に近いところに置くんだし、そ、そうだ、もしかしたら手渡しになるかもしれないんだ。それなのに知らん顔したら、丁寧に扱ってもらえないよ」
「そんなもんかねえ……」
茶を淹れた妻は、営業マン風の男の前に皿に乗ったティーカップを置き、続いて店主の横たわるソファにサイドテーブルを寄せ、その上にカップを置いた。そして店主の横について背中を少し起こすような動作で言った。
「大丈夫?飲めるかい?」
「あ、ああ……」
その時、元妻の目線が店主の胸元で止まった。
「おや?アンタ、これ何だい?長い髪の毛……。女の髪じゃないのかい!?」
元妻は店主の胸あたりに付着していた髪の毛を、親指と人差し指でつまみ上げて店主の目の前で見せた。
営業マン風の男は「ブフッ」と茶を吹き出すと、まさかという目線で店主を見た。
「し、知らないよ。でも、倒れた俺の一番近くにいたのはその受付嬢だったんだ。意識を戻すのに体を揺らしたり、人を呼んだりしてる間に髪が触れる事だってあっただろうさ」
すかさず、営業マン風の男もフォローを入れた。
「我々に回復術を施してくれたのも長髪の女聖職者さんでした」
「アンタ、変な気をおこしてやないだろうね?アンタには、アタシとこの子がいるんだよ?」
「あ、ああ。そんなバカなことある訳ないだろ?」
店主の脳裏に巡ったのは、受付嬢の姐さんが言っていた「女の勘」だった。元妻もそうだが、女の勘とは嗅ぎつけた全てを明らかにしてしまう。実に恐ろしい。
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