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Ep.21 冒険者ギルドの受付嬢 その2

●前回までのあらすじ:

店をつぶし女房にまで逃げられた武器屋の店主。

酒場でバイトを始めて一年が過ぎた頃、客の若くて地味な女経営者の投資で武器屋を再開することになった。

そこに偶然元妻が現れ、抱いている赤子が店主の子供だと言う。

地味な女社長は、二倍の給与増額を条件に元妻と子供の面倒を見るよう店主に迫った。

店主はそれを受け入れ、仕入れの準備に取り掛かった。

そして冒険者ギルドに広告の掲出と挨拶に行くと、初心者向けの講習会で講演をすることに。


●主な登場人物:

・武器屋の店主: 裏通りで武器屋をやっていた店主。経営に失敗し、女房にも逃げられてしまった。地味な女社長の出資で武器屋を再開することになった

・地味な女社長: いつも田舎くさい地味な服装の若い女経営者。どのような会社を経営しているかは明らかでない

・武器屋の元女房: 店主とは離婚したが、地味な女社長の取り計らいで再び店主と暮らすことになった

・営業マン風の男: 地味な女社長の部下。武器屋と本社を繋ぐパイプ役

 店主は人前で話すのが苦手だったので、だんだんテンパってきた。本当に何の準備もなく話すのか……?どうしよう、大丈夫かな。

 店主の思いをよそに、事務長が勢いよく立ち上がって先導した。


 「さあ、場所は食堂です。今日は初心冒険者のガイダンス会場として使っています、行きましょう」


 三人は受付のあった入り口兼集会場のような場所まで戻った。店主は自然と受付嬢の姐さんを見てしまった。彼女と目が合ったので笑顔を作って会釈すると、彼女も薄笑みでそれに応えてくれた。

 更ににそこを突っ切って隣接する食堂に移動し、事務長は壁際に壇に登ると拡声器を使って話し始めた。


「まだ昼休憩中ですが、失礼します。今日は初心者向けの武器を中心に扱っている西区の武器屋さんが見えて、武器の扱いやメンテナンスについて講演してもらえることになりました。皆さんの役に立つ耳寄りな情報になるかと思いますので、ぜひ聴いてください。あ、休憩時間中ですので、食べたままでも結構ですよ。じゃ、店長さん」


 事務長に促されて店主も登壇した。傍からスタッフが出てくると、拡声器はスタンドに据え付けられて店主の前に置かれた。


「こんにちは。ご紹介に預かりました西区の裏通りの武器屋です。ええと、ええ……」


 店主がまごついているとヤジが飛んだ。


「おい、さっさと喋れよ!俺はゆっくりハンバーグが食いてえんだよ!」


「え!ええ!?すみません。あ、私の今日の晩御飯もハンバーグの予定です!」


 店主は咄嗟に関係ないことを言うと、会場が爆笑というか嘲笑の渦に包まれた。店主は「しまった、こんな関係のないことを言ってしまうなんて」と表情を苦くした。ふとホール入り口に目をやると、あの受付嬢の姐さんが立っていた。彼女も笑っている。遠くから見ても、笑いすぎない彼女の笑顔は素敵だった。

 あぁ、あの人も見ている。ここはしっかりやらないと。

 アメフトでチアリーダーがいると選手に気合が入ることが実証されていると言うが、店主にとっての受付嬢の姐さんは、まさにそう言う効果なのだろう。気合が入った。


「ええ……では、本日は武器のメンテナンスについて簡単に紹介させていただきたいと思います。皆さんはこれから冒険をお始めになる皆さんということで、まだイマイチ実感がないかと思いますが……。特に初心冒険者さんは、武器をひとつしかお持ちでない場合が多く、修理中はお仕事、つまりダンジョン攻略やクエストができません。ですから、稼働率という点でけっこうな痛手になってきます」


 初心者の盲点になりそうなポイントが突かれると、聴衆の目の色が変わり、ガヤガヤとした声も静まり返った。


「あの店長、いいところに目をつけてくれた」事務長はつぶやいた。


 店主はさらに続けた。


「えー、また、武器屋や工房の窓口では決済方法が幾つかあって、大きく分けて生活通貨系と冒険者通貨系での決済方法に別れます。みなさんもご存知かと思いますが、生活通貨と冒険者通貨の交換市場は毎日動いています。例えば、政府が初心冒険者向けに支給してる冒険者通貨がありますよね。その準備のために買建て注文が入ると、一時的に交換レートが大きく変動しますので、タイミングによっては結構な差額が出てきます。このようなレート変動にどう対処するのがオススメかを武器屋目線で……」


 会場にいる初心冒険者の誰もが、店主の話に吸い込まれていくのが解った。店主は初心冒険者がやりがちな失敗例とその解決策を解りやすく要点をまとめて説明した。それだけでなく、お店がやっている冒険者通貨の管理法を紹介し、冒険者向けに応用できるアレンジも紹介した。会場には、どよめきや「おお!」という感嘆が溢れたこともあった。店主のややたどたどしい口調も、長年の実務経験から得た的確な内容の前では、大きなデメリットにはならなかったようだ。


「店長さん、ちょっと心配してましたけど、やっぱりプロの武器屋だったんだ。見直しました……」


 営業マン風の男も店主の説明に相槌を打つと、横で事務長も感嘆した。


「冒険者だけの集まりじゃ、ここまでのノウハウは出てきません……」


 店主は、そろそろ話をまとめにかかる。


「ええと、今ご説明したような点は、当店ではしっかりサポートさせていただきますので、是非ご利用いただければと思います。店の場所は、西区の大通りから南側の裏通りにある商店の並びで……」


 店主の話が終わりに近づいたのがわかると、会場では初心冒険者たちが顔を突き合わせて早くも感想を述べあっているようだった。店主の話がそれなりのインパクトで伝わったことの証だろう。


「ご清聴ありがとうございました」


 店主が話を終えると、拍手が沸き起こった。店主が入り口付近に目線をやると、受付嬢の姐さんも薄笑顔で拍手していた。店主は彼女のピンと指の張った手の動きが小刻みに速かったのが嬉しかった。


 店主は「ふう、なんとかやりきったぞ」と、そんな思いで壇から降りた。

 初心者研修は、すぐ午後の部が始まるようだった。店主と営業マン風の男の二人は、事務長に軽い挨拶をして食堂をあとにした。

 

「店長さん、お疲れ様でした!とても良かった!私も勉強になりました」営業マン風の男が珍しく感情を表に出している。


「いえ、そんな……あれ?」店主が受付を見ると、受付嬢の姐さんが冒険者に絡まれていた。


「なあ、いいだろ?一回くらい俺と飲みに行こうぜ?」若くてチャラい兄ちゃんだ。


「あんたもしつこいね……」


 つっけんとうな口調だったが、彼女の表情は困っていた。

最後までお読みいただきありがとうございます。

もしよろしければ、↓から★★★★★をいただけるとよろこびます。

次回もご期待ください。

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