Ep.16 武器の修理とは
●前回までのあらすじ:
武器屋の店主は、店をつぶし女房にまで逃げられてしまい、酒場でのバイト生活を送っていた。
一年が過ぎた頃、酒場客の若くて地味な女経営者の投資で武器屋を再開することになった。
店舗回収が済んだ時、店主との子供だという赤ちゃんを抱いた元妻と再開する。
地味な女社長は、給与増額を条件に元妻と子供の面倒を見るよう店主に迫った。
店主は迷いの中復縁を決断したが、店舗担当である営業マン風の男には給与の件が伝わっていなかった。
元妻は営業マン風の男に給与増額の確認を懇願し、微妙な空気の店内に。
そこに工房の親方がやってきた。
●主な登場人物:
・武器屋の店主: 裏通りで武器屋をやっていた店主。経営に失敗し、女房にも逃げられてしまった。地味な女社長の出資で武器屋を再開することになった
・地味な女社長: いつも田舎くさい地味な服装の若い女経営者。どのような会社を経営しているかは明らかでない
・武器屋の元女房: 店主とは離婚したが、なぜか向かいの道具屋に
・営業マン風の男: 地味な女社長の部下。武器屋と本社を繋ぐパイプ役
工房の親方が挨拶代わりに片手を挙げた。
「親方、久しぶりだね」
「お前さん、この一年何してたんだ?全然顔も出さなかったじゃないか。行方が知れねえってんで、馴染みの皆んな心配してたんだぞ?」
「いやあ、店潰したのが恥ずかしくて……」
「何言ってやがんだ、水臭え。あれ?奥さん、子供産んだのかい?何だめでてえこともあったんじゃねえか。こちらの人は?」
親方は営業マン風の男に目線を向けながら店主に尋ねた。だが、営業マン風の男は自ら答えた。
「初めまして。この度、こちらのお店に資金を提供させていただいた者です。あ、私個人がと言うわけではなく、我々の会社として、ということですが」
「会社が資金を?なんだそりゃ?」
身内の会話で明るかった雰囲気に曇りが出た。店主は慌ててフォローを入れた。
「資金を入れてもらえたおかげで、こうしてまた店をできるようになったんだよ」
だが、親方の顔は納得いってなさそうだ。営業マン風の男は続けた。
「実は修理のことで是非お話をさせていただきたく思っていたんです。まず、今後も以前のように、当店から修理のお仕事をご依頼をさせていただくことは問題ありませんか?」
「ああ、まあ?そりゃ構わんよ?こいつとは昔からの馴染みだからな。断るなんて不義理はしないさ」
「ありがとうございます。お話ではありますが、修理にあたり、内容や程度に応じた価格表を作っていただけないかと思っていまして」
親方の顔が一気に曇った。
「はあ?価格表?土台無理な話だね。武器ってのはな、使う人間や戦いの如何で壊れかたも場所も、ひとーつひとつ違うんだよ。だから、その都度損傷の位置や程度、それを使う人間に合わせて修理をするんだ。それが職人の勘ってもんだよ。ズブの素人にはわからないだろうがな?あんた武器屋やるの初めてだろ?」
「ええ。心得ています。もちろん定番的なものだけも結構なんです」だがその言葉にも親方の顔は渋い。
「そもそもあんたの会社ってのは何やってる会社なんだい?それに何でまた武器を?」
「私どもとしましては、昨今の冒険者の増加に目をつけまして、新規参入させていただき商売をと思っているんです。そこで、まずは脱初心者クラスの冒険者の武器の買い替えにフォーカスしたいと思っています。具体的には、買い取った初心者用の武器を修理して、初心冒険者に売り渡すというエコシステムを考えています」
「エコシステム?はん、大したもんだな。何だかいけすかねえがな」
「親方、修理、やってもらえないのかい?」店主は焦り口調で訊いてきた。
「そう言う訳じゃねえけど……。新規参入てことは、武器は素人なんだろ?」
「ですが、私どもは本気です」
「本気って。やる気と意気込みだけで命が張れたら楽なもんさ。俺たち武器職人はな、命を預かってんだよ。だからこそ気持ちだけじゃなくてな、腕と技術がものを言うんだ。武器職人てのはそう言う仕事なんだよ」
親方は頭を掻きながら少し考えて続けた。
「それに、初心者用の武器ってのはな?そんな何度も修理できるように作られてる訳じゃねえんだよ。材料が何度も打ち直せるほど良くねえ。だから直しても強度が落ちる。つまりな、それをやったとして、初心者が壊れやすくなっちまった武器でモンスターと戦って、挙句やられて死んじまったらどうすんだよ。お前さんとこの武器を使ったら死んじまうってなるんだぜ?それにこっちの評判にも関わるじゃねえか。絶対上手くいかねえさ。あんたも話にならんやつだね」
営業マン風の男は、これに食らいついた。
「ならば、丁寧にきちんと修理するまでです。お言葉ですが、初心者用の武器といえども、彼らにとっては決して安いものではありません。それ故に、初心者がより攻撃力の低い安価な武器に流れたらどうなるでしょうか?それこそモンスターとの戦闘に苦慮し、彼らの身の危険が増すばかりではありませんか?」
「う……。言うじゃねえか」親方の顔が引きつった。更に営業マン風の男は続けた。
「それだけではありません。より彼らに手の届きやすい価格帯にするためには、修理内容の傾向を掴み、それに応じた適切な工賃配分を行うことが必要なのです。あなたはおっしゃいました。武器の商売は、その使い手の命を預かるものだと。私も同意見です。だからこそ、きちんとした職人の手で整備された良い武器が、彼らの手の届く値段である必要があるのです。それが彼らの生命を助ける術になるのです。売価が高ければ、武器職人や武器商人のもつ、彼らの命を守るという理念は実現されません。どうか、価格表の制定にご協力をお願いできないでしょうか?」
店主は営業マン風の男の言葉に圧倒された。長年武器屋をやっていた自分とは本気度が違う。彼と比べたら、自分は好きな武器をただ並べているだけだった。
彼の言葉は、親方の心にも直撃した。顔中の皺を寄せいていた親方の顔の皮が、力が抜けてだらんと垂れた。
「……わかったよ。お前さんの言うとおりだ。協力はするよ。ただし、分かんねえ部分は分かんねえからな」
「ありがとうございます!」営業マン風の男は、親方に一礼した。
「ははは、良かった。商売が上手くいきそうな気がしてきたよ、なあ?」店主は笑顔になり、元妻の方を伺った。
「ほんとだねえ」彼女もまた笑顔だった。
店主は今度は上手く商売ができそうな希望を胸に抱いたのだった。
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