Ep. 14 女の圧力
●前回までのあらすじ:
武器屋の店主は、店をつぶし女房にまで逃げられてしまい、酒場でのバイト生活を送っていた。
しかし、偶然に知り合った若くて地味な女経営者の投資で武器屋を再開することになった。
再会のために以前の建物を改装すると、地味な女社長が店主の手を取り激励する。
するとどう言うわけか、向かいの道具屋から武器屋の元妻が出て来た。
元妻に二人が手を取り合っている光景を目撃され、一気に修羅場になった。
しかし、結局は元妻と地味な女社長は意気投合して、その場去って行った。
店主は改装スタッフたちを見送って一人になると、奥の部屋でお茶を淹れようとする。
暗い店の奥の部屋に謎の人影が。
店主は人影の急接近に驚いたが、影は先ほどどこかへ行ったはずの地味な女社長と元妻だった。
●主な登場人物:
・武器屋の店主: 裏通りで武器屋をやっていた店主。経営に失敗し、女房にも逃げられてしまった。地味な女社長の出資で武器屋を再開することになった
・地味な女社長: いつも田舎くさい地味な服装の若い女経営者。どのような会社を経営しているかは明らかでない
・武器屋の元女房: 店主とは離婚したが、なぜか向かいの道具屋に
・営業マン風の男: 地味な女社長の部下。武器屋と本社を繋ぐパイプ役
「お前とその子をどうする……?」
暗闇の中、元妻の影はゆっくりと近づいてくると、店主の後ろからさす光で照らされて姿が露わになった。彼女の胸に抱かれた赤ちゃんは、穏やかな表情ですやすやと寝息を立てている。その子供を店主に見せるように傾けながら元妻は言った。
「そうだよ。妻と、やっとできた子供を放って自分だけ再出発するのかい?」
「放って……?いや、お前が出て行ったんだろ?」
投資を受けることを決断した当初、店主としては妻に戻って来て欲しかった。しかし、元妻が子供を抱いた姿で道具屋から出て来たというのが、不倫を思わせるショッキングなことで、たとえ現実がどうであったとしても疑いの念を消し去ることができないでいた。同時に、いきなり父親になる不安や、身重の妻を産後に渡り一年以上も独りにしてしまったという罪悪感の感情が入り乱れて複雑な状態だった。店主は、今なにかの決断を判断できる状態ではなく、むしろ混乱している。
だが、そんな店主に構うことなく元妻は続けた。
「聞けば、帳簿や仕入れのチェック、支払いの手続きや催促も社長さんのところでやって下さって、アンタは武器を仕入れて売るだけなんだろ?収入は給料制だけど、固定給で安定してるそうじゃないのさ。そしたら、アタシは専業主婦でこの子を育てて、アンタを支えればいいじゃない?」
「お、おい……勝手に話を……」
店主がまごつくと、地味な女社長がけしかけてきた。
「どうするの?あなたの子供を産んだあと、そう時間も経っていない元奥さんをこのまま放っておくの?」
男女関係のもつれに、女側の女友達がしゃしゃり出て来て意味のない説得をしてくるのはよくある話だ。ということは、社長と元妻の二人は、すでに友人関係と言えるほどに意気投合してしまったということなのだろうか。
「いや、それは急に言われても。というか、社長。なぜ灯りを点けていないのですか?こんな暗い部屋でまるで潜むように」
「そんなどうでもいいことはどうでもいいのよ。どうするの?奥さんを引き取るなら、給料のことはもう少し考えるわよ?」
元妻の瞳が輝いた。
「アンタ!やったじゃない。家族と安定した仕事と十分な給料。しかも子供まで。アンタは幸せ者だよ!」
「お前、それ自分で言うのか?」
元妻は、子供の顔を店主に向けてさらに近づけて来た。
「よしよし、この人がお父ちゃんだよ?ねえ、アンタ。この子、可愛いだろ?」
社長の援護射撃を背に、元妻の進撃だった。
「ま、待て……。俺もいきなりのことで少し混乱してるんだ。時間が欲しい」
店主がたじろぐと、地味な女社長がぽつりと言った。
「あっそう。じゃあ、給料の件はなかったことに……」
なんて卑怯な!
地味な女社長はその残酷な一言と共にそっぽを向いた。そしてさらに元妻が。
「アンタ!しゃきっとしな!今ここで決めないと大変なことになるよ!?給料が足りないばかりに子供が食い物に困ってもいいのかい?」
もう面倒を見ることが前提になっている。おかしい。それに、どうせ押し切られるなら、今押し切られないと条件が悪くなるという。こんなアンフェアなことがあるのか。
社長はさらに詰めかける。
「人生、決める時に決めないと取り返しのつかないことになるわよ?」
社長の強烈な一推しだった。中年に片足を突っ込むまでこんな暮らしをしている自分と、服装が地味とはいえ、二十代前半で会社を経営して多数の従業員を従えている若い女。そんな立派なお方に人生の選択方法について問われたら、それはもう首を縦に振るしかなかった。
「わかりました……。社長、こいつは……、こいつと子供は俺が面倒を見ます!」
「アンタ……!お父ちゃんが面倒見てくれるって!よかったね!」しゃがれ声だった元妻が、高い声をあげた。
そして、寝ている子供に話しかけながら、体をくねらせて擦り寄って来た。
「調子のいいやつだな……。でも、幸せになろうな。……社長、お見苦しいところを目に入れました。……ありがとうございます!」
店主は我が子をかかえる妻の肩を抱き、地味な女社長に一礼した。
「ふふ。よかったじゃない」地味な女社長は、満足そうな顔で二人を見つめたのだった。
翌朝、宣告通り営業マン風の男が店に来た。だが、社長はおらず一人だった。
「おはようございます。社長、あの後戻ってらしたみたいですね。お店は大丈夫だと聞きました。ということで、今日は仕入れの話をしましょう」
ということは、給料増額についての書面の取り交わしも彼と行うのだろうか。
「え、ああ、そうですか。ええと、それだけですか?その……、給料の……」
「はい?給料?」営業マン風の男は、意表をつかれたと言うか、全く話を理解していない風に見えた。
「ええと、社長から給料の件は聞いてませんか?」
「え?何も聞いてませんけど……?」
「ええっ!?」
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