Ep.13 女の執念
●前回までのあらすじ:
一度は武器屋を潰し、女房にまで逃げられた店主は酒場でバイト生活を送っていた。
一年が過ぎ、偶然知り合った若くて地味な女経営者の投資で武器屋を再開することに。
元の場所で武器屋を再開するために店舗を改装、地味な女社長が店主の手を取り激励する。
その時、なぜか向かいの道具屋から出て来た元妻に、二人が手を取り合っている光景を目撃される。
元妻は店主と社長に詰め寄って来て言い争いに。
元妻と道具屋との関係を、以前に遡り疑った店主だが、元妻の抱いている子供は自分の子だと宣言される。
すると社長と元妻は、店主を「店をつぶし妻の浮気を疑うダメな男」だとして意気投合、二人は車で去ってしまう。
営業マン風の男は、社長から店舗改装の最終確認を得られず困ってしまった。
●主な登場人物:
・武器屋の店主: 裏通りで武器屋をやっていた店主。経営に失敗し、女房にも逃げられてしまった。地味な女社長の出資で武器屋を再開することになった
・地味な女社長: いつも田舎くさい地味な服装の若い女経営者。どのような会社を経営しているかは明らかでない
・武器屋の元女房: 店主とは離婚したが、なぜか向かいの道具屋に
・営業マン風の男: 地味な女社長の部下。武器屋と本社を繋ぐパイプ役
「社長は、車で行ってしまいました」
店主は、営業マン風の男に地味な女社長が車で行ってしまったことを告げた。
「どこへ?戻ってくるんです?」ちょっと何があったのか理解できていない、という表情だ。
「どうでしょうか。癇癪を起こしましたけど……」
「え。また癇癪ですか。そうですか。じゃあ戻ってこないでしょうね。また明日、私が連れて来ますよ」
営業マン風の男はそう言うと、店の中に入って戻り、身振り手振りで作業員たちに状況を説明していた。そして、今日のところは全員解散されたのだった。
店主は武器屋の入り口に笑顔で立ち、続々と帰っていく筋骨隆々の作業員たちに改装作業のお礼とねぎらいの言葉をかけて見送った。こういう行動が反射的にとられるところは、店主が長く商売人をやってきたことを表している。
作業員たちは全員が帰途につき、店の中には店主と営業マン風の男の二人のみになった。彼は、会計台に置かれていたティーポットから、二つのティーカップに茶を注いだ。空になったティーポットを何度か振って最後の数滴をを注ぐと、カップの一つを「どうぞ」と店主に手渡し、まだ何も置かれていない陳列台に腰をあててよりかかった。そしてカップを持ってない右手を広げて店主に訊いてきた。
「で、何があったんです?」
「え、ええ。実は……」
店主は先ほど遭遇した事態を、営業マン風の男に説明した。
「……そうですか。社長も、少し思い込みが激しいところがありますからね。まあ、今日のところはお許しください。社長もあの若さで色々と苦労してここまで来ています。それだけに人の痛みが解る優しい方なのですよ」
「色々とご苦労を……。一人で身重になってしまった妻に同情するのも納得です……」店主は頷いた。
二十代前半であろうあの若さ。しかも女で経営者をやっているのだから、平坦な人生ではなかっただろうとは思っていた。だが、苦労人と聞いて、彼女がさぞかし立派な人なのだろうという思いを新たにした。
営業マン風の男は、よりかけた腰を離して直立した。
「それでは明日、朝イチで伺います。社長と一緒に来ることになると思いますので」
彼はティーカップを会計台に戻し、出入り口へと歩いた。店主も彼に倣って同じへ移った。
「わかりました。色々とありがとうございました。遅くまでご苦労様でした」
店主が営業マン風の男を見送った時には、すでに日が落ちて暗くなっていた。
一人になった店内。会計台を見ると、作業員たちに仕出した弁当がいくつか残っていた。
「夕飯はこれでいいか。さあ、茶でも淹れよう」
今日は疲れた。店内で作業している人が多くいて落ち着かなかったし、物の移動の手伝いもして体を動かした。夕方には社長や元妻と一悶着あった。出来事が多くて長い一日だった。
店主はやっと一息つける、と湯を沸かすために奥の部屋の扉を開けた。部屋は灯りをつけていないので暗かった。
「ん?」
暗い部屋の中で何かが動いた。
「何だ!?」
店主の後方から漏れ出た光が、動いた陰の輪郭をなぞる。
人だ、人がいる!
人影は、迫り来る靴音で駆け寄って来た。店主の背筋はゾワっと震え、変な汗が吹き出した。
「ひいいっ!」
何だ!?いきなり強盗か!?そんな思いが店主の脳裏を走った。
素早く駆け寄って来た人影が店主の目の前に立った。
「やっと一人になったわね」
暗闇から現れた人影を見て、店主は驚いた。
「えっ!?しゃ、社長!?」
人影は地味な女社長だった。そして部屋の隅にはもう一人の人影が。その影から、低い声が聞こえた。
「あんた、アタシとこの子をどうすんだい?」
元妻だ。胸には赤子を抱いている。二人、いや三人は、どうしてここにいるのか、そして、どうして暗いのに明かりを点けていなかったのだろう。
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