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Ep.11 店舗の改装と女の情念

●前回までのあらすじ:

武器屋を閉店させ、酒場で一年以上ホールスタッフのバイトを続けた元店主。

客の地味な女社長が、自分が投資するから武器屋をやるようにと脅迫して来た。

よく話を聞いてみると、雇われ店長としてのリクルートだった。

店主はそれでも有難いと引き受け、妻に戻って来てもらおうとやる気を出す。

武器屋テナントの外に出てみると、向かいの道具屋から一人の女が出て来た。

なんと、その女は自分を捨てた元妻だった。

彼女の胸に抱かれた赤ちゃんは、いったい誰の子供なのか。



●主な登場人物:

・武器屋の店主: 裏通りで武器屋をやっていた店主。経営に失敗し、女房にも逃げられてしまった。地味な女社長の出資で武器屋を再開することになった

・地味な女社長: いつも田舎くさい地味な服装の若い女経営者。どのような会社を経営しているかは明らかでない

・武器屋の元女房: 店主とは離婚したが、なぜか向かいの道具屋に

・営業マン風の男: 地味な女社長の部下。武器屋と本社を繋ぐパイプ役

「お、お前、どうしてここに!?」


「あんたこそ!その店、先月で潰れたと思ったら、何であんたが戻って来たんだい!?」


「それはどうでもいいだろ。ていうかお前、その赤ちゃんは!?まさか、道具屋とデキてたのか!?」


 武器屋、もしくは防具屋と道具屋の不倫はよくあることだ。武器屋と防具屋は同一の建屋の中に入ることも多いため、女房どうしが友人となることが殆どだ。そのため、全くないとは言わないが、武器屋と防具屋の不倫関係は極めて少ない。しかし道具屋となれば、大体が武器防具屋から少し離れたところにあるのが通例。なので不倫関係を結んでいるとすれば、このパターンが多い。

 もう少し言えば、防具屋の場合は、鎖帷子の編み込み、革ベルトの取り替えなどの手のかかる内職作業が多く、時間的余裕も少ない。これが武器屋だと、研ぎ作業など殆どが修理専門のスキルを要求されるため、アフターサービスは工房への外注が中心となる。結果として時間的余裕も生まれ、余暇時間が発生しやすい。このような構造から、武器屋と道具屋の不倫感関係は醸成されやすいと言える。

 この関係性は、武器防具の店や道具屋の界隈では一般的に認知されている。だからこそ、店主の頭には元妻と道具屋との不倫がよぎったのだろう。


「バカ言うんじゃないよ!」


 スパァン!元妻の張り手が店主の頬を打ち抜いた。


「ぶばあっ!」


 コマのように半回転して倒れ込む店主をよそに、赤子を抱いた元妻は早々に道具屋の中に戻った。

 しばらくそのまま呆然とし、夕日が指す路地裏に四つん這いで項垂れる店主。長い影の哀愁が路面を覆っていた。


「……う、うう。どうしてこんなことに……。こんなことなら、店なんて再開するんじゃなかった……」


 店主は路上の石を握りしめ、心の叫びを打ちつけた。



 翌日、武器屋に看板を設置するためとは聞いていたが、本部から筋肉質で屈強なスタッフがゾロゾロと訪れた。その人数が多いと思ったら、店舗内装の仕上げや什器類の搬入と設置をして店を仕上げるのだそうだ。作業を監督するためか、昨日の契約書を交わしに来た営業マン風の男も一緒にいた。


「おはようございます。今日の作業で店舗は仕上がりますので、明日からは仕入れの計画を立てて実行に移して行きましょう」


「おはようございます。……あの、今日は社長さんはいらっしゃらないのですか?折行って、社長にご相談したいことがあるのですが……」


「え?社長に?今日の夕方、ここに来ますよ。店舗の仕上がりの最終確認ということで」


「本当ですか!?よかった」


 そんな会話をしていると、屈強な男たちは早速作業に取り掛かっていた。その日は一日中、周囲にガチャガチャという音を立てて作業が進んだ。


 地味な女社長が訪れるという夕方、店舗の施工はほぼ終わっていた。店舗内は棚が綺麗に並んだだけでなく清掃も行き届いた。外には店名が輝く看板が掲げられ、もはや店舗には一点の曇りもない様だった。それは、元妻の影に心が澱む店主の心の内とは裏腹だった。

 店主が外に出て真新しく蘇った店舗を見ていると、馬のない馬車がやって来て店の前で止まった。魔石の力で動く四輪車、魔導車だ。魔導車に乗っていたのは、あの地味な女社長一人。彼女は自分で魔導車を運転してここまで来たのだ。どう見ても二十代前半に見えるその若さで会社を経営している上、魔導車の運転までこなすハイカラ女。どうやら、地味なのは服装だけのようだ。


 地味な女社長が魔導車から降りると、紺色のスカートがなびいた。彼女は颯爽としていた。しかし、その服装は今日もどこか田舎くさくて地味だった。


(一体この人は何者なんだろう。こんな若い女なのに会社経営をして屈強な男共を従え、それだけでなく魔導車まで自分で運転するなんて。見た目以上にすごい人なのかもしれない……いや、むしろすごいことだけは確かだ)


「しゃ、社長、ご苦労様です。こんな立派な店舗にしていただき、本当にありがとうございます」


「あら店長ごきげんよう。いいえ。しっかりやってもらうわよ」


 地味な女社長は微笑んでいた。

 この人は笑うこともあるのか。今日は機嫌が良いということだろうか。だが彼女についての洞察もほどほどに、店主は新たな心のつっかえとなった元妻のことを話し始めた。


「……それが社長、実は、いたんです」


「いた?何が?」


「あいつが、妻がいたんです。そこの向かいの道具屋に。しかも赤ちゃんまで作って。ですので私、どうやってここで商売していいか、解らなくなってきまして……」


「え?そうなの?でも、お店はやることになったんだから仕方ないじゃない。割り切りなさいよ」


 地味な女社長はあっさり言った。経営者らしい割り切り感覚である。


「そんな、私にどんな気持ちでやっていけと仰るんですか?道具屋の赤ちゃんまで……」


「……ちょっと待って。別れてから一年と少ししか経ってないんでしょ?本当に道具屋の子供なの?きちんと確認した?ええと、そ、その……、最後にしたのはいつなのよ?」


 地味な女社長は顔を赤らめた。意外と可愛らしいところもあるようだ。

 しかし、店主自身は考えてもいなかったことに気付かされた。


「はっ……。ま、まさか俺の?そんな……」


「その可能性もあるんじゃないかしら?気を取り直して、ひとまずお店を頑張りなさいよ」


 地味な女社長は再び微笑み、両手で店主の手をとって激励した。

 この人は、ヒステリックで暴力的なだけでなく、こんな優しい一面もあるのか。だからあんな屈強な男たちも従っているのか……。きっと直情的なお方なんだろう。店主は地味な女社長の情の厚さに心打たれた。


「うう、すみません社長……」


 その時、道具屋の扉が開いた。


「今日は一日中騒がしかったねえ。でもやっと静かになったねえ、坊や」


 赤子を抱いた店主の元妻が、外の様子を見に出てきたのだ。元妻の目に入った光景は、自分の元夫が地味な服装の若い娘にニヤつき、二人で手を取り合っているように見えた。

 元妻は叫んだ。


「あ、あんた!人の不倫を疑っておいて、自分は若い女と何してんだい!しかもそんな地味な女と!」


 店主は地味な女社長の手を離し、慌てふためきながら言葉を発した。


「ち、違うんだ。これは違うんだ!」


 地味な女社長は、うまく状況が飲み込めていなかった。


(え?地味な女って誰?私のこと!?私ってそんなに地味!?)

最後までお読みいただきありがとうございます。

もしよろしければ、↓から★★★★★をいただけるとよろこびます。

次回もご期待ください。

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