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真実の理(しんじつのことわり)  作者: きゆ
第1章 近視
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第5話 1年

◆第5話 1年


ー 2023年9月19日(火曜日) 日比谷@某定食屋 ー


 「でかしたぞ今川ー!!」野太く大きい声と青年の背中を叩く音が店内を響き渡った。

 

 聡「(先輩声でかい…。)あ、ありがとうございます。先輩からいただいたアドバイスのおかげで、彼女とお付き合いすることができました」


 フンフン♪と言わんばかりの上機嫌な表情が太田の顔に浮かんでいた。


 三浦「先輩、もうちょい声量下げましょ。後、今川、初カノおめ」

 

 聡「あぁ、ありがとう。うまくいったのは、三浦のおかげでもあるよ」

 

 太田「まぁとにかくよかったじゃねぇか。しかし1年以内に結婚したいってのは、今どきの若者でも中々大胆な子がいるもんだなぁ。万が一結婚詐欺とかの輩だったら、俺がとっちめてやるからな!金目のものは気つけるんだぞ、金目のものは!」

 

 三浦「若者って、先輩と僕らそんなに年変わらないっすよね。後、年齢的にも1年付き合って結婚するのは割と普通なんじゃないっすか?それに聞いた感じ、結婚詐欺とかそういうことしそうなタイプの人には思えませんでしたけどね」

 

 結婚詐欺か…。そんな発想全くなかったな…。

 確かに交際スタート当日に半ば婚約のようなものを要求してくるような人は、傍から見れば少し怪しいと思われても仕方ないか…。

 

 聡「ハハ…。とりあえず祝いの言葉いただきましてありがとうございます!恋愛初心者なので、また色々相談させてもらうかもしれませんが、その時はよろしくお願いします!」

 

 太田「おうよ、まかせとけ!」


 目の前に座っている三浦は冷静な顔つきでスマートフォンを操作しながら水を口にしていた。

 

 三浦「ところで、その彼女さんが1年以内に結婚したい理由って何でだっけ?」

 

 聡「何やら昔から結婚に憧れがあったらしく、後最近回りの友達も結婚し始めてて羨ましいと思ったからなんだってさ」

 

 三浦「へぇ」その後に続く言葉はなかった――。

 

 聡「やっぱり何かおかしいかな?」

 

 三浦「いや、別に。いいと思うぜ」


 彼のその言葉で聡は少しだけ安堵した。


 聡「これからも色々とアドバイスよろしくな!」

 

 三浦「あぁ、1相談1定食でいいぜ」

 

 聡「いや、たけーよ!」

 

 三浦はフッと鼻で笑った。そしてその口角は僅かに上がっていた――。


◇◆◇◇◆◇


 ――それから月日はあっという間に流れた。


 幸(Sachi)は元々体が強い方ではなく、月のうち1週間は必ず体調不良でダウンするというサイクルもあったため、会うのは月に2回程度であった。


 また、お互いインドア派であるということもあり、外出してのデートは月に1回ほどであった。


 しかし、季節ごとの風物詩に関連した行事については、思い出作りとして必ずデートに盛り込みたいね、という話を二人でしていたので、主に出かける際はそういった類のものが歓楽できる出先が中心であった。


 秋はハロウィン、栗拾い、紅葉。冬はイルミネーションやクリスマス、初詣。春は花見やいちご狩り。夏は花火大会、海岸沿いでのドライブ、それから浴衣を着て夏祭りにも行った。


 青年にとってそれらはとても充実した日々であった。


 そうしてもうすぐ交際開始から1年が経とうとしていた――。


◇◆◇◇◆◇


ー 2024年9月15日(日曜日) 東京ー

 

 「よしっ、っと!」

 

 青年はカバンの中に『ある大切なもの』がしっかりと入っていることを入念に確認した。

今日はいよいよあの日だな…。青年は拳をぐっと握りしめた。その手にはほんのり汗を滲ませていた。


<@みなとみらい線 元町・中華街駅改札口付近 >


 「ごめんね、聡くん、お待たせしましたっ」女性はそう言いながらやや駆け足で聡の方へ向かってきた。

 「いや、今14時1分だし、全然待ってないから大丈夫だよ!俺もついさっき着いたばかりだから!」

 

 聡はちらりと腕時計を見ながら、僅か1分の遅刻で律義に謝る彼女の無垢さを少しばかり可愛らしいと感じた。

 するとすぐに、彼女は少し息切れしていることに気づいた。

 

 「大丈夫?ちょっと休んでから中華街の方に行こうか」そう言うと青年は彼女の手を繋ぎ、ベンチの方へゆっくりと歩き出した。


 「ありがとう…。いつもごめんね」


 彼女は少しばかり申し訳なさそうな顔をしたが、すぐに聡のいつも優しい表情を見て安心した――。


<@中華街>

 「うんっ、この小籠包中々おいしいね!ハフッ…」聡は火傷をしないよう頬張りながら幸に語り掛けた。


 「口の中火傷しないように気を付けてね。こっちの青椒肉絲(チンジャオロース)も美味しいよ」そう言うと彼女が注文した青椒肉絲の皿を聡の方に差し出した――。


 少し遅めの昼食は中華街で済ませた。


 「そろそろ次のところ行こうか」聡がそう言うと、彼女は「うん」と頷き二人の足は山下公園の方へ向かった。

 

 山下公園の港沿いをゆっくりと歩いた。聡はこの一年間のことを思い出していた。そして今彼女も自分と『同じ気持ち』となっているだろうかと、ふと彼女の顔の方へ目をやった。


 ――彼女はどこか儚げで、寂しそうな眼差しで海を見ていた。


 「海、あまり好きじゃない?」青年は彼女に問いかけた。

 「ううん、きれいだなって」

 「そうだね――」

 

 正直なところ、青年は彼女のことをまだ完全に理解しきれていなかった。なぜそのような感情を抱いた時にそんな表情をするのか…。

 そういった、彼女から発せられる言葉の内容と浮かべられている表情にどこかミスマッチがあるように思われて、それが何によるものなのかを彼の中では咀嚼しきれていなかったからである。


 日が暮れてきた――。


 「さぁ、そろそろ次の港の見える丘公園に行こうか」そう言うと聡は幸の手を引いた。

 「港の見える丘公園は一度も行ったことがないから、楽しみ!」


 二人は公園の方へ向かって歩き出した――。

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