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一つの可愛いに囚われて踏み出すことを恐れていては、新たな可愛いを知ることができないのよ!


 しかし愛しの聖モナルク様の可愛さを全世界に発信する前に、やらねばならぬことがある。



「ところで……もうすぐケントルに入るようですが、何か作戦はあるのですか?」



 シレンティが、ベニーグの尻尾をブラッシングしながら問う。



「そんなもんないわよ。黙ってると付け上がる一方だから、こちらもきちんと意思表示してやらなくてはと思っただけ。いざとなったら、モナルク様とベニーグの魔法があれば、何とかなるかなーって……」


「えらいざっくりですね。しかしこのまま行っても、門兵に拒否されるのでは? この馬車ではいくらなんでも怪しすぎます。またベニーグ様は向こうに顔が割れておりますし、さらにモーリス様までもっふりといらっしゃいますから、最悪の場合はアエスタ様がモーリス領辺境伯と結託して謀反を起こし、王族の者達を亡き者にしようとやってきたと思われかねません」


「うっ……そ、そうね。その辺も考えるべきだったわ」



 シレンティの突っ込みを受け、私はチラリと隣のモナルク様を見た。すると、モナルク様がもふん頷く。



「アエスタ、だいじょぶ。モニャ達が変装すればいいんだよ。ベニーグ、アエスタを手伝ってあげよ? モニャと一緒にお手伝いしよ、ね?」


「ふぇ……はぁい……」



 モナルク様の言葉に、ベニーグが蕩けた声で了承する。シレンティの絶妙なるブラッシングテクでうとうとしかけていたらしい。


 そ・れ・に・し・て・も〜?

 私とモナルク様、既に以心伝心状態じゃない? 言葉にせずとも目と目を合わせただけで、素敵な提案までなさってくださるんだもの。さすがモナルク様!

 もう〜? 私達〜? 夫婦も同然よね〜! キャモッフン!!


 などとニヤニヤしている暇はない。



「うーん、うーん、うーん……そうだ!」



 高速で名案を思い付き、私は目の前のシレンティにこそこそ耳打ちをした。



「あっ……なるほど、それはいいですね。わかりました、すぐに荷物を取ってきます」



 シレンティはベニーグの尻尾から手を離し、こちら側に身を乗り出して後ろの幌の荷台を漁り始めた。



「ちょっと、外の奴ら!」

「はいい!?」



 ビビりにビビった十三人の声が返事する。



「ケントルに入ったらすぐ、買ってきてほしいものがあるの。残りの金は好きに使ってくれていいわ」



 シレンティに手渡された荷物から金貨の入った袋を取り出すと、私はそれを丸ごと窓のすぐそばにいた奴に投げ寄越した。



「モナルク様はベニーグを押さえ付けるか、魔法で動けなくしてくださる?」


「ちょ、ちょっと!? 何をするつもりですか!?」

「むきゅ!?」



 ベニーグだけでなく、モナルク様も大層驚いたようだ。いつもの可愛いモナルク様語が飛び出し、可愛くお飛び上がりになられる。イエス、可愛い。オウイエイ、可愛い。


 眉を下げてふるふるしているお顔も可愛いけれど、あまり心配させてはモフし訳ない……じゃなくて申し訳ないので、私は端的に説明した。



「モナルク様、どうかご安心ください。痛い思いをさせるわけではありません。少ーーし、くすぐったがるかもしれないので、押さえてあげてほしいというだけです。彼には念入りに変装していただく必要があるものですから……幸い、私達は手頃な道具を持っております」


「え、まさか」


「ん……んきゅ?」



 ベニーグは、何をされるか薄っすらと察したようだ。


 モナルク様だけはいまだによくわかっていないようだったが、それでももそもそ座席を動いて、ぷりんと大きなお尻をベニーグに向けた。



「ま、待って! モナルク様、私はまだ心の準備ができて……!」

「みゅん!」



 ちっちゃな尻尾の先から、淡いピンクと紫の靄がふよふよと出てくる。


 あら、何て春めいたお色……とうっとり見とれている間に、靄はマーブル状となってベニーグを包み込んで消えた。



「モーリス様、何をなさったのです?」



 幌の荷台に避難していたシレンティが、モナルク様に尋ねる。



「状態異常魔法の、睡眠と麻痺の重ねがけだよ。モニャ、ベニーグと違って魔法のコントロールうまくないけど、尻尾からのは弱いから加減しやすいんだ。でも弱すぎてもダメかなって思って、加算魔法にしたの。だいじょぶ、成功した。ベニーグはねんねしてるだけ、心配いらないよ」



 それからモナルク様は、むふんと口元を緩めた。



「シレンティ、初めてモニャと話してくれた。モニャ、嫌われてると思ってたから……シレンティとお話できて、とても嬉しいな」


「いえ……嫌っては、おりません、でしたが」



 シレンティは言葉を止め、綺麗にまとめた髪ごと頭を抱えた。



「あっざっとぉぉぉぉ! いやあああ何これ!? 何なの、この感情!? いいえ、違う……世界一可愛いのはベニーグ様です! ぐっ、やめろ……そんな汚れを知らぬ無垢な目で見るんじゃねえ! 否、私は認めない、モフモフなど……モフモフなど、歩くホコリと同じ……っ! んおおおおダメだあ! 降参だあ! 可愛い、可愛いです! モーリス様、超絶可愛いです! ごめんなさいごめんなさいベニーグ様! ベニーグ様も可愛いのです! ですがアエスタ様の仰る通り、太ましいピンクのモフモフには太ましいピンクのモフモフにしかない可愛さが……おおおおおん、浮気者の私をどうかお許しくださぁぁぁい!」



 シレンティ、己の価値観が捻じ曲げられる本能的恐怖でご乱心なされてしまった……。良かったわ、ベニーグがおねんねマヒマヒしてて。


 それにしても、モナルク様の可愛さはやはりすごいわ! 普段冷静な者も、ここまで狂わせてしまうのですもの!


 これならもしかすると……うん、私の一番の願いが叶えられるかもしれない!!


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