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時には、流れとノリと勢いに任せてもいいじゃない!


「良かった……来るの、遅くなってごめんね」



 疑問を言葉にしようとしたが、声にならなかった。


 目の前のピンクのモフモフは、モナルク様だ。間違いなく、可愛い可愛いモナルク様だ。



 でも、何故?


 何故モナルク様が、ここにいるの?

 何故モナルク様が、助けに来てくださったの?

 何故モナルク様が、喋ってるの……?

 何故モナルク様が、私を抱き締め、て、る、の……!?



 ずっと夢見ていた念願のモフモフ。


 その胸に、呆然としたまま顔を埋めていると――急に泣けてきた。


 想像より、ずっと柔らかい。想像より、ずっとあたたかい。想像より、ずっとずっと心地良い。



「アエスタ、ごめんね……モニャ、間違ってた。アエスタだけに、つらいことさせようとした。それしか方法がないって言われても、アエスタにだけ背負わせるなんて、やっぱり間違ってる。モニャ、止めるべきだった。なのにモニャ、アエスタがベニーグ好きって知って……嫉妬して、やな態度取るような、やな子で……」



 涙の塩分でモナ毛を傷めてはならぬと頑張っていたけれど、モナルク様の言葉で感涙も嬉し涙も即座に引っ込んだ。



「はあああ!? 私が!? ベニーグを!? 好き!? ないない、絶対にありえない! 何でどうしてナニユエにそんなおぞましくも気色悪い勘違いをなさったのですか!?」



 顔を上げながらも両手でモナ毛をもみもみモフモフ味わいつつ、私は吠えた。


 するとモナルク様が眉毛を下げて、世にも可愛らしいショボン顔になる。



「だ、だって、夜に二人で会ってた……モニャにはない良さがあるって、ベニーグを褒めてた……」


「ああ、あの夜に見ていらしたのはモナルク様だったのですか。ええ、シレンティの気持ちを代理で伝えましたね」


「その後、二人でアエスタのお部屋に行った……」


「ええ、シレンティと仲直りさせるためにね」


「そ、それに、朝の散歩の時に、ベニーグのこと、打ち明けようとした……」


「ええ、ベニーグから過去を聞いたという話をしようとしましたね」


「ベニーグ、アエスタがモニャと二人きりなのイヤで、すっ飛んできた……アエスタも好きとか愛が重いとか言った……」


「ええ、シレンティが髪を下ろしているという嘘がバレて殺されかけましたわね。シレンティへの想いが重すぎると引きましたわね」


「それにそれに……ベニーグ、人間っぽいし細くてカッコイイ……モニャ、こんな毛だらけだし……また太ったし……」


「太った!? 本当ですか!? やったー! モナルク様が増えたーー!」



 喜びに任せて、もふん、と私はモナルク様に自ら抱き着いた。



「もーー太ったとか肥えたとかデブったとか、モナルク様はそんなこと全然気になさらなくていいんですよ! モナルク様はモナルク様だから素敵なんです! 私は初めて見た時から、そんなモナルク様一筋なんですから!」



 全身でモフモフを愛でる。何という幸せか。



「んもう、んもふう、金輪際二度と絶対に他の奴のことが好きだなんて勘違いはなさらないでくださいね? 私が好きなのはモナルク様だけなんですから! 特にベニーグと、だなんて想像するだけで鳥肌が立つし吐き気を催します。ベニーグって性格悪いし根性悪いし、嫌味でヘタレで、おまけにムッツリスケベなんですよ! あんな偉そうな態度してるくせにムッツリですよ、ムッツリ! 好きになる要素なんてどこにも全くちっともさっぱりありゃしませんって!」


「アーエースーターさーまー?」



 見事なまでに綺麗に重なった二つの声が、ハーモニーを奏でて私を呼ぶ。

 同時に凄まじい殺気を感じ、私は恐る恐る振り向いた。



「あっ……ベニーグ、いたの……。それにシレンティ、あなたも無事で何より……」


「おやおや、私がいると悪いような言い方ですね? 私の方こそ、モナルク様にそんな思い違いをなされていたなんて、ショックでしたよ……こんなおバカでおバカなおバカを極めた超おバカ、キュンキュン泣いて頼まれても腹を見せて懇願されても願い下げです。あとムッツリスケベはとっとと取り消しなさいね?」



 ベニーグがいつもの嫌味調で言う。

 ローブから覗く顔は笑みの形を保っていたが、頬が引き攣っていた。きっと耳と尻尾も怒りで震えていらっしゃるのだろう。



「ベニーグ様に介抱していただきましたので、この通り、元気いっぱいです。ベニーグ様には好きになる要素がないとのことですが、ここに要素がないはずなのに好きになった者がおりますが? ムッツリでもそこが良いという者がおりますが? エネルギーが有り余っておりますので、戦って勝った方の言い分を認めるという勝負でもなさいます? まだ殴られた頭が痛むので、アエスタ様にもほんの僅かにちょっぴり少しは勝ち目はあるかもしれませんよ?」



 私の肩口に例の模造刀を突き付けたシレンティが、無表情のまま言う。


 負傷してるとはいえ武器を持った元騎士と丸腰の私が戦ったところで勝ち目なんてあるわけないでしょ! 素直にごめんなさいする道を選ぶわ!

 それよりあなた、流れでベニーグに愛の告白をしたんですが、気付いていらっしゃらない? その隣で、頬を赤らめてキュンキュン子犬の鳴き声みたいな心の音をダダ漏らしにしてるベニーグをアテンションプリーズよ!



 ん?

 あれ?


 もしかして……。

 私も……ノリと勢いで……。

 好きって、言っちゃった、ような……?


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