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発熱による不調と恋愛小説との関連性が全く掴めないわ!?


 勝手にベッドに入り込んだ件は、モナルク様のお心に傷を残してしまったようだ。


 お散歩を待ち構えて挨拶しても逃げられたし、お洗濯を覗き見なさっていた時もお掃除を盗み見なさっていた時も、隠れる速度がいつもより素早くて、桃色の残像しか捉えられなかった。

 朝の洗濯物モフササイズだけは、こっそりばっちり堪能させていただきましたけれども。


 ランチでもずっと俯いていて、いくら話しかけても『うみゅ……』『きゅい……』と小さな声で相槌をお返しくださるのみ。無視されなかったことには安心したけれど、食事もあまり進んでおらず、早々と退席された。


 こうなったら、唯一二人きりになれる庭仕事の時間でチャンスを作るしかない!


 今日は畑は水遣りのみで、メインは樹木のお手入れだ。

 モナルク様はいつものように、木からもっさりとはみ出しながら私の仕事ぶりをチェックしていらっしゃった。

 ところが、作業の途中で困ることが起きた。ベニーグに渡された高枝切鋏では届かない高木があったのだ。


 誰も見ていないなら、ちょちょいと木登りすれば即座に解決する。しかし以前、ちょっとした会話の弾みでモナルク様に『木登りは控える』と言ってしまった。モナルク様が覚えていらっしゃるかはわからないし、森の中では野猿ばりに木登りして木の実味比べ珍道中を楽しんでいるけれど、さすがに目の前で控えると宣言した行動を取るのは気が引ける。


 高枝切鋏を手にしばらく木を見上げてから、私は梯子を取りに屋敷の裏にある倉庫へと向かった。

 が、少し進んだところで、足を止めた。背後から、ぺてててて……という不思議な音が聞こえたからだ。この音には、聞き覚えがある。


 慌てて私は来た道を戻り、建物の影から元いた場所を見た。


 すると、モナルク様が飛んでいた。


 背中の小さな翼を細かくぺてぺて動かし、私が仰いでいた木を両手でばっさばっさと叩いている。いや、叩いているんじゃなくて、整えているようだ。手を動かす度に、枝や葉っぱが落ちてくる。


 時折離れて全体をチェックしつつ、木全体を綺麗にまあるく整え終えると、モナルク様はぽっとんと落ちるように地面に着地した。そしてモフい手とモフい膝をついたまま、ひんひんふんふん荒い息を吐く。

 やはりあの太ましい体を、あの小さな翼で支えるのは大変なのね……。


 なんて感心してる場合じゃないわ!

 話しかけるなら今よ! 優しく介抱して、好感度を上げるのよ!



「モナルク様!」



 思うが早いか、私はモナルク様に駆け寄った。



「大丈夫ですか? 一人で立てもふか? 無理そうでしたら、私がお手伝いを」

「むきゃん!」



 しかしモナルク様は私の顔も見ず、ボールのようにころころもふもふ転がって逃げていってしまった。


 こんな移動方法もお持ちだったとは、さすがモナルク様! また可愛いのリミッターブレイクをなされましたわ!


 とても可愛いコロコロもっふりこなモナルク様を見られたのは嬉しいけれど……やっぱりまだ、昨日の件を怒っている、のかしら? だとしたら、わざわざお手伝いなんてしてくださらないわよね?


 そこで私ははっとした。


 そういえばモナルク様、今日は何だかいつもと毛のお色味が違った気がするわ。

 普段に比べてピンクみが強いというか……エクササイズの時はそうでもなかったのに、私と顔を合わせた時にはお顔色――いやお毛色? が赤みを帯びているようだった。


 もしかしたら、心の傷が体にまで不調を及ぼして、お熱を出してしまったのかも? それなのに心配かけまいと無理なさっているのかも!?


 ベニーグに即刻報告して、即座に治療してもらわなくては!




「ああ、そうですねー。モナルク様は今日、ちょっと不調のようですねー。まあ、放っておけば治りますよー」


「そんな変化ありましたか? 私はいつも通り、桃色で太ましいとしか思いませんでしたが」



 早速庭園に走って伝えに行ったものの、ベニーグとシレンティの反応は、どちらも煮え切らないものだった。


 ベニーグの方はブラッシングされて液状化するんじゃないかってくらい蕩けた顔をしているし、シレンティは膝の上に乗せた尻尾に視線を集中させていて、こちらを見向きもしない。


 何よ、二人してイチャイチャに夢中になっちゃって! ただのバカップルじゃないの!



「悠長なことを言っている場合じゃないでしょう! 早くお薬をお出しして、お休みになっていただかなくては! 薬はどこに置いているの!? ベニーグとシレンティはお忙しいようですから、私がお持ちするわ!」


「およしなさい。あなたが行くのは、逆効果ですよ」



 ぷるると綺麗に梳かしてもらった耳を震わせてから、ベニーグが静かに言う。



「アエスタ様……わかってはおりましたが、あなたは本当に鈍感ですね。今日の仕事はもう結構ですから、これからすぐ恋愛物の本をお読みなさい。そうですね、両片想いのモダモダ系が良さそうです。シレンティ、一緒に書庫に行っておすすめしてあげてください」


「かしこまりました。さ、アエスタ様、行きますよ」


「ええ!? ちょっとモナルク様は」


「読めば私の言うことが理解できますよ。では夕食後に、感想をお伺いに行きますからね」



 ブラッシングしてもらった尻尾を満足気に眺めながら、ベニーグがひらひらと手を振る。私はそのまま、シレンティにとんでもないバカ力で引きずられていった。


 どうしてモナルク様の不調が、私が本を読むことに繋がるのよ!? もう、一体何なのよーー!?


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