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 スマホが鳴った。


 誰だろうと思いながらスマホを見ると、里花先輩だった。


「里花先輩?」

「久しぶり元気だった?」

 

 電話先から懐かしい可愛い声が聞こえる。


「もちろん元気です。里花先輩どうしたんですか、突然?」

「いやね、アルバム見てたら、どうしてるかなと思って、そうだ今から会わない?」

「いいですよ」

「じゃぁ、一時半に『デリシア』でいい?」

「はい。楽しみだな里花先輩と会えるなんて」

「そう? 私も楽しみにしてるわ。じゃあね」

「はい、またあとで」


 相変わらずの里花先輩。


 里花先輩は、高校の時の一つ上の先輩。

 ショートカットの似合う両目の泣きぼくろがチャームポイントの元気のいい先輩。

 図書室で知り合って、良く占いをしてもらってた。

 それがきっかけで、あたしは三年間ほぼ毎日放課後図書室に通っていた。




 確か里花先輩、警視庁の婦警さんになったんだよね。

 あたしもなりたかったんだけど、無理だったもんな。

 まだ水戸先生と付き合っているのかな?


 これはあたししか知らないことだったけど、里花先輩はあたしの担任だった水戸先生と付き合ってたんだ。

 水戸先生は秘密のベールが掛かった不思議な先生。海坊主の外見で口数少ないんだけれど、生徒思いで教え方がうまい先生だった。



 あ、そうだ、里花先輩に職場の愚痴を聞いてもらおう。

 なにかいいアドバイスもらえるかも。

 里花先輩は面倒見が良かったから。

 そういろんな事が、頭の中をよぎる。






「飛鳥ちゃん、こっちこっち」


 約束の一時半より少し前、里花先輩はあたしを見つけ呼んだ。

 髪型はロングになっていて、お化粧を少ししている。

 すっかり大人の女性に変わっていた。


「お久しぶりです」

「久しぶり、突然呼び出してゴメンネ」

「いいえ、暇でしたから」

「そう、それにしても懐かしいわね」

「そうですね。里花先輩随分大人っぽくなりましたね。水戸先生元気ですか?」


 あたしの言葉に、里花先輩は頬を赤く染めた。




 二人の関係を知ってしまったのは、ちょっとした事件だった。

 あたしが一年の時、水戸先生にどうしても分からない問題を放課後、理科準備室に聞きに行ったの。

 その時ノックもせずにドアを開けたあたしが悪かった。

 目の前に飛び込んできたのは、里花先輩と水戸先生のキスシーン。

 あれはもう衝撃的で、しばらく呆然と立ちつくしていた。

 それからあたしは例のごとく、二人に堅く口止めされたのだ。


 今思えば良くあんなところでキスするなんて水戸先生もやったよね。

 生徒と先生が付き合うなんて、禁断の恋とまで言われているのに。

 まぁそれで、あたしは二人に可愛がられたんだけどね。


「元気よ。実はね私達、六月に結婚することになったの」

「結婚?」

「そう」

 

 結婚。

 思いも寄らない言葉に、あたしはびっくりした。

 里花先輩は二十歳で、水戸先生は二十九歳。

 年齢的には問題ないけれど、早すぎるような気がする。


「おめでとうございます」

「ありがとう。飛鳥ちゃんもぜひ出席してね」

「え、いいんですか?」

「もちろん。だって高校時代、私と大気さんの関係知ってた数少ない人だから」

「わーい、うれしいな。結婚式に呼ばれたのって初めて」


 そんな話で盛り上がっていると頼んだはずもないチョコレイト・パフェが二つウエイターさんが運んできた。

 高校時代よく食べたもの。

 あたしは目をぱちくりしながら、里花先輩を見ると、


「私が頼んどいたの。これ飛鳥ちゃん好きだったでしょ?」


 あの時と同じ笑顔であたしに言った。

 まるで、高校時代に戻ったみたい。


「はい、いただきます」

「どうぞ」


 生チョコがかかっている生クリームをスプーン一杯に救って、口の中にほおばる。


 おいしい。


「飛鳥ちゃんは、相変わらずみたいね」


 幸せそうなあたしの顔を見て、里花先輩はクスクスと笑う。


「いつでも、自分に正直でわかりやすい性格」

「そうですか?」

「うん、それで仕事の方はどうなの?」

「結構大変ですよ。あたしいつも失敗ばかりしてみんなの迷惑ばかり掛けてます」

「飛鳥ちゃん、ドジだからね」


 う、嫌な思い出が蘇ってくる。


「里花先輩が羨ましいです。好きな仕事が出来て」

「婦警も大変よ。特にうちの課わ。徹夜はあるし、休みはルーズだし」


そう言いつつ、里花先輩の目は輝いている。


「でも、職場の人はいい人ばかりだから楽しいかな」


 やっぱり。


「飛鳥ちゃんの所は?」

「変な人ばっかり」


 あたしは職場の不満をここぞとばかり里花先輩に愚痴をこぼす。

 里花先輩は、だまって聞いてくれた。





「ふーん、でもおもしろそうな人ばかりだね」

「でも、怪しすぎます。リーダと課長夜遅くまでいつも何しているんでしょう?」


 最後に、今まで不思議に思ってたことを話す。


「え?」

「この前あたし職場の日誌を見てしまったんです。そしたらいつもリーダ達深夜まで会社にいるらしんです」

「日誌?」

「はい、いつもは次長が持っているんですけど、こないだたまたま一番に来た時に」

「…………」



 里花先輩はいきなり真剣な顔になり、だまってしまった。


 違う。

 あたしの知ってる里花先輩じゃない。


 とっさにあたしはそう思った。

 だって本当に、目の前にいる里花先輩はどこか別の大人の女性に見える。


 そうだよね。

 里花先輩は、高校を卒業して二年だもんね?

 卒業して一年しか経ってない同級生達も大人になっているんだもん。


 もう、あの時とは違う。

 どうやってもあの時にはもう戻れない。


「どうしたの、飛鳥ちゃん?」

「なんだか、里花先輩があたしの知らない人に見えちゃって」

「そう、ごめんね。ちょっと考え事してたから」

「いいえ、ただあの時とはもう戻れないんだなって」

「そうね、でもまた私達は、前見たくもうすぐ戻れるわ」


 意味深な言葉を言う。


「本当ですか?」

「ええ、そのうちWデートだってできるようになるわ」

「Wデートなんて、好きな人もいないのに」


 あたしはわざとおちゃらけた。


 やっぱり、里花先輩には藍川君の事なんて言えない。

 あたしには高嶺の花だから。


「大丈夫。今日ここに来る前に飛鳥ちゃんのこと占ってきたの。そしたら近々運命的な大事件が起こる見たい」


まだ飛鳥先輩、占いやってたんだ。

あたしなんか本棚に誇りかぶって置いてあるのに。


「大事件?」

「そう、乗り切れたら素敵な結末が待っているわ」

「乗り切れなかったら?」

「“死”ね。つまり生死をかけたゲーム」


 バックから死神のカードを取り出し、あたしに見せる。


 なんで、そんなカード持ってるの?


「さ里花先輩、冗談きついです」


 これには思わず苦笑い。

 でも里花先輩は真面目な顔で続きを話す。


「いいえ、冗談じゃないわ。でも心配しないで、飛鳥ちゃんには白馬に乗った勇者様が守ってくれるから」

「そんなこと言われても」


 白馬の勇者様。

 そう言われた時、藍川君の顔が一瞬浮かんだ。


 一昨日の夜から、あたし変なんだよね。

 藍川君のことが気になっちゃって。

 藍川君にすごく逢いたい。

 たった二日の休みがこんなに長く感じるなんて高校の時以来。


 あたしは、工藤と藍川君どっちが好きなの?

 藍川君が来る前は、工藤のことが忘れられなかった。

 何かある度に工藤のことを思い出した。

 でも藍川君が来てからは、あんまり思い出さなくなった。


「さては飛鳥ちゃん心当たりがあるんでしょう?」

「え、いいえ。ありません」

「そうなの? まぁ今日の所はこのぐらいにしといてあげるわ」


 なんだ、からかってたのか。


「里花先輩、からかってたんですか」

「ちょっとね、だって飛鳥ちゃんすぐ顔に出るからおもしろいんだもん」

「里花先輩!!」


 恥ずかしさのあまり大声に近い声を上げる。

 周りのお客さん達がいっせいにあたしを注目した。


 そんな風に、いきなりの里花先輩の電話から始まった楽しい一日はあっという間に終わった。

 でも、里花先輩はあたしを呼びだした理由はちゃんとあった。

 その事に気づくのはもう少し後のことだった。

 


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