第5話
夜、カンはパソコンで機械について勉強していた。
そろそろ目が疲れてきたな、と思うとリンゴがやって来た。
「カンくん、もう寝ましょう。お勉強をするのは良い事ですが、睡眠不足は万病の元ですよ」
「わかったよ。寝る」
「ふふっ、良い子ですね。ご褒美に私と一緒に寝ますか?」
リンゴは冗談を言った。
「それ、誘ってんのか?」
「ふえ?」
カンはリンゴの手を取る。
「カンくん……?」
「覚えとけ、男はな、狼なんだよ。そんな冗談ほいほい言うな」
「うん……」
リンゴは顔を赤くしながらうなずいた。
カランカラン!
今日も玄関の鐘が鳴る。だが今日は少々騒がしい様で……。
「お姉ちゃんをなおして!」
小さな子供が駆け込んで来た。
「あ?ちょっと待て、ここは病院じゃねーんだ。確か救急車の番号は……」
「119です!」
「違うの!お姉ちゃんはロボットなの!」
「なるほど……。それで、その"姉ちゃん"は?」
「それがね、お姉ちゃんもうなおらないだろう、ってお母さんが……」
そう言うと子供はぽろぽろと泣き出した。
「あー……」
カンが子供の対応に手をこまねいていると、リンゴがしゃがみこんで子供に話しかけた。
「お家の電話番号言える?」
「ん」
子供はそう言うとキッズ携帯を出してきた。
カンもしゃがみこむと、携帯を取った。携帯を操作し、「お母さん」と名前が打ってある番号を指差した。
「これか?」
「うん」
子供はうなずいた。
カンは「お母さん」に電話をかけた。
「もしもし!百合子!どこにいるの!?」
「あー、もしもし。百合子ちゃん?のお母さんですか?」
「え、あ、はいそうですが……」
「そういう事だったんですね……。朝から姿が見えないと思ったら……」
「それで、百合子ちゃんの"お姉さん"の事ですが……」
「ああ、はい。そのロボットの事でしたら百合子が階段から落ちそうになったのを庇って自分が落ちてしまって……。修理工場に持って行ったら型も古くてパーツも取り寄せるのが大変だと修理を断られたんです。でも百合子はそのロボットに凄く懐いていて……。ですから同じ型のロボットを買い替え様と思っていた所です」
「……買い替える?」
「え?ええ、そうです」
「百合子にとっちゃその姉ちゃんはそいつだけだろ。俺が直す」
「え?」
「それで持って来てもらうなんてカンくんも強引だね!そんな所が好きなんだけど!なんちゃって!」
「さーて、ここからが大変な所だ。まずはパーツ探し。無けりゃ自分で作るしかねぇ。リンゴ、パーツ探しの連絡手伝えよ」
「あいあいさー!」
リンゴはカンに向かって敬礼した。
「ここを……こうして……」
「カンくーん!ご飯だよー!」
「もうちょい待て」
「さっきもそれ聞いたー。もう!ご飯食べなきゃ元気出ないよ!さあさあ」
リンゴはカンの腕を引っ張る。
「ちょっ……おい!あーもーわかったよ」
「よろしい」
リンゴは笑顔で言った。
「百合ちゃん!」
「お姉ちゃん!ホントになおったんだ!」
「まさか……」
一緒に来ていた百合子の母は驚いた。
「カンくんは凄いお医者さんなんだよ!」
「そうだね!カンくん凄いね!」
「ガキに『くん』付け……」
「すっ……すみません……」
「いや、いい。百合子」
「なあに?」
「姉ちゃんが壊れたらまた直してやるよ」
「うん!ありがとう!」
百合子は笑顔で礼を言った。
百合子達を見送った後、リンゴはカンの顔を覗き込んだ。
「なっ……なんだよ」
「んーん。嬉しそうな顔してるなーって」
「るせー」
カンは顔を赤らめそう言った。