第2話
「ねえカンくん。カンくんのお父さんとお母さんは?」
リンゴは広い、と言ってもそこまで広くは無い、だが一人で暮らすには充分過ぎる程の広さの部屋を見回しながら言った。
「死んだ」
「え」
「母さんは俺が産まれた時に、父さんは二年前に病気で。兄弟も親戚もいねぇ。天涯孤独ってやつ。父さんが死んだ時ここを売っぱらってもっと狭い所に引っ越そうかと思ったけど、父さんが母さんと俺と暮らすのを夢見て買ったもんだから売れなかった。それに工場からも近いしな」
カンは淡々と言葉を紡ぐ。
「ごめんね、辛い事聞いちゃって」
「良い。もう慣れた」
「寂しくない?」
「下町のみんなもよくしてくれるし、仕事が忙しくて寂しさなんて忘れちまったよ」
「これからは私もいるから寂しさなんてもっと忘れさせてあげるよ!」
リンゴは拳で胸を叩いた。
「……ッ!アイタタタ……」
「傷だらけで人の工場に不法侵入してた奴に言われてもな……」
カンはため息をついた。
「えへへ」
「ちなみに俺の所は機械の修理を主な仕事にしてる。お前もしっかり仕事を覚えろよ」
「修理って事はカンくんは機械のお医者さん、って事だね!」
「医者……。まあそうとも言えるか……?」
「私も機械の看護師さんになれる様に頑張るよ!」
「期待しとくよ」
カランカラン……
カンがそう言った時、半分仕事場にしている玄関の扉に付けた小さな鐘の音がなった。
「客だな」
「私の初出勤だね!」
「へーへー」
カンとリンゴは玄関へと向かった。
玄関へ行くと、軽トラに作業用ロボットを積んだおじさんが立っていた。
「ん?なんやその嬢ちゃん。見ぃひん顔やな」
「今日からウチの居候。で、何用だ?」
おじさんはリンゴを一瞥(いちべつ)すると、こう言った。
「あ、ああ。作業用のロボットが壊れたんやけどな、これ、修理するのと買いかえるんやったらどっちが安いんかな」
おじさんの言葉を聞くとカンは荷台に積まれたロボットに歩み寄った。いろいろ手で持って動かすカン。
「パーツが磨耗してんな。まあ、これなら修理の方が安い」
「ああ、ならそのまま修理たのむわ」
「わかった」
軽トラでそのまま工場までロボットを運ぶとおじさんは帰って行った。
「……」
「何不機嫌そうな顔してんだ」
「どっちが安いか、って経営者としては正しいけれど、ちょっと冷たい気もしますね」
「そうか?ロボットと人間の関係なんてそんなもんだろ。それより、ちゃんと仕事の工程見とけよ。お前にも手伝えそうなもんは手伝ってもらうんだからな」
「……はーい」
数日後……
「おお!直ったんか!ありがとうな。これ、代金」
「毎度」
「おじさん」
「ん?なんや嬢ちゃん」
「その子、大事にしてあげて下さいね」
「んん?まあ、壊れたら修理代もかかるしな」
「……」
神妙な顔つきで固まるリンゴをカンは肘でつついた。
「壊れたらまた直してやる。『橋本工務店』をご贔屓に」
「ああ、また任せるわ」
おじさんは来た時と同じようにロボットを荷台に乗せ、帰って行った。
「リンゴ、お前客に変な事言うなよ」
「変な事じゃないもん」
リンゴは頬を膨らませた。
「随分ロボット寄りの考え方をするんだな」
「ロボットにだって、心はあるよ」
「ふーん」
「カンくんも機械工ならそこの所を知っていて欲しいな」
「夕飯の買い出しにでも行くか」
「もー!話そらさないでよー!」
「今日の晩飯はオムライスだ」
「やったー!オムライス大好きー!」
「単純な奴」
カンは笑った。