地獄耳
馬鹿な奴だ。
オレは吊し上げを喰らって大泣きしている園部雅樹を眺めつつ心の中で呟く。
運動もでき成績優秀……でも性格が悪く同性の生徒たちからは嫌われていた。
オレも一時期アイツに絡まれていたよ……アレは中学入学直後だったっけ?
教師の出した数学の問題……まずアイツが真っ先に回答したが、教師は別の生徒からも回答を求めた。
……誰も挙手しなかったからオレが挙手して回答し、そしてオレが正解。
園部雅樹は単純な計算ミスをやってただけだったんだが、自分が不正解でオレが正解ってのが気に入らなかったようだ。
数学の授業でオレが挙手しないのを見ると「アイツ、こんな問題もできないんだ」とか周囲に吹聴して回ってたからなぁ……いや、単に挙手しなかっただけで別に問題は解けてたぞ?
お前が根に持ってる発端となった件の問題だって、誰も挙手しないのに先生が他の生徒の回答を求めてたんで、気の毒になって挙手したわけだしさ。
この中学校の生徒は大きく分けて二つの小学校から来た生徒で成り立ってる。園部雅樹はオレとは別の小学校だったわけで小坊時代は接点が無かったんだ。
そして園部雅樹と同じ出身校の生徒が一切挙手しなかった理由も、園部雅樹なら勉強できるから間違うはずがないって先入観と、あと間違い指摘したら何されるかわからないって恐怖もあったと思う。
けっこう陰湿で乱暴者だったからね。
とは言え、先生方からの受けもよく、そういった馬脚を今まで一切、出さなかった園部雅樹が吊し上げを喰らってる……コレが文部科学省が学生のイジメ対策に導入した個人装着型レコーダー。通称『地獄耳』のせいだったりする。
要は園部雅樹がイジメた相手が『地獄耳』からイジメの証拠を持ち出して先生に訴えたワケだわね。
ほとんど言いがかりレベルで八つ当たりに近い内容。オマケに相手が何も言わない事を良い事に好き勝手殴る蹴るときたモンだ。
……ちなみに、その被害者が訴えたわけじゃない。
あと、オレでもないぞ?
つか、オレも居合わせてたんだし、オレが訴えりゃよかったよ……今思うと、止めない訴えないじゃ、オレもイジメをした園部雅樹と同罪だわ。
だから、今、園部雅樹が断罪されてるのを見てホッとしてる。
半面、オレもいつ、地獄耳によって何かしらイジメや悪さの証拠を押さえられって事にならないかと戦々恐々と……は、してないけどね。
ただ、今後の立ち回りなんかは色々考えなきゃダメだろうね。
ちなみに園部雅樹を訴えたのは園部の被害者の一人だ。
あえて自分が対象ではない事柄を選んだのは、流石に目に余ったからだろうね。あと、イジメられてる側にもプライドはある。
イジメられるような弱い人間ではない……そう、親には思わせたいって見栄ね。
でも、そんな見栄やプライドは簡単に吹っ飛ぶんだな。
オレは雪だるま式に増えてゆく園部雅樹のイジメの証拠……地獄耳のデータ数を眺めつつ思う。
自分をイジメていた園部雅樹が、逃げようのない証拠を突きつけられ号泣しているのだ。
そして、その園部雅樹を更に追い込むカードを、イジメの被害者たちは持っている。
形勢は逆転し、今度は園部雅樹を追い込みイジメる側に回れる……つまり復讐できるわけだ。
まあ、園部雅樹よ。
この状況はお前がしでかしたことだし、甘受しとけよ馬鹿。
コレで、クラス委員やら生徒会役員を務めた事で稼いだ内申点は吹っ飛んだと思うが自業自得だろ。
あとな、園部雅樹を追い込んでる連中もだが、明日は我が身だぞ?
小中学生ってのは、基本的に人語を解する猿でしかないって親戚の伯父さんが言ってた。
その猿を人間にするのが親や教師と言った大人の務めだってさ。
ただまあ、大学生どころか社会人になっても猿から人間に進化できない輩も当たり前にいるとかぼやいてたなぁ。
まあ、つまりアレだ。
今、地獄耳のデータ提出し園部雅樹を追い込んでる連中は、叩く事に酔ってるわけだ。そして、この快感を味わうため、今度はイジメる側に回り、あげくに地獄耳で吊し上げにって事だって在り得るんだぞ?
この地獄耳が導入され、まだ僅か一ヶ月だけど、ちいと、この状況は不味いんじゃね?
……とは思っちゃいるが、中学生であるオレに何ができるってワケでもない。
まあ、良いさ。
オレって、少し頭のチャンネルが一般人とズレてるみたいだし、この地獄耳も正直、そこまで怖くないんだ。
ただね、園部雅樹を追い込むことに酔っちまってるオマエらは、明日は我が身って思って襟を正さにゃ、今度はオマエらが園部雅樹の立場に立つことになるぞ?
しばらくは、学校は混乱が続くと思うなぁ……つか、実際そうなったわ。
この「地獄耳」と似たような事はガラケーでもできますね。
ガラケにもボイスレコーダー機能があるんだし……似たような事やったイジメ被害者もいそうなふいんき(←ワザとっス)。
つかボイスレコーダーの機能でイジメの証拠を押さえろって学校で大々的に教えても良いと思うんだけどなぁ……