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かんつり!  作者: 今澤 麦芽
ルアーを作ろう!
9/15

管理釣り、前日!

 ようやく、ここまで……


 不定期更新ですが、よければお付き合いよろしくお願いいたします。

 遂に、その日が来た。明日は待ちに待ったエリパと呼ばれるかんつり部の歓迎会の日である。天気予報も、快晴、四月とは思えぬ陽気の、予報である。


 入学から三週間、学業、入部、バイト、部活動と中学時代から比べ、圧倒的に濃密な日々で、本当にあっという間に三週間が経過していた。


 明日は学校ではなく、最寄りの駅前に朝の五時待ち合わせになっている。その時間は始発すら動いていないが、どうやって向かうのか、どこへ行くのかは聞かされていない。


 ただ、注意事項として、長袖と出来ればパンツルックで足元はスニーカーが良いとのことだった。まぁ、ここでミュールやブーツ、パンプスなどと言われても、通学用パンプス以外はスニーカーしか持っていないが、と綾香はホッと小さな胸を撫で下ろした。


 他の持ち物は小銭程度で、特に指示はなく『部活中に作ったルアー』だけ持ってくればいいとのことだった。


 綾香は手のひらの上で、ころころと転がしながら自作のクランクルアーを眺める。油性のホワイトペンと黒いマジックで、少し大きめの目が描かれ、体は黒の上にマニュキュアの細かいラメが入ったものを薄く延ばして塗ったものだ。


 目が左右非対称とか、気になることはあるものの、それも愛嬌があって可愛いものだ。と、転がしながら指でつつく。


 さぁ、明日は早い。もう寝よう。そう思い、手のひらのルアーを、明日持っていくショルダーバッグの外のポーチへ入れ、ベッドに潜り電気を消し目を閉じた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 遂に明日である。縁は自室で、リールの不備が無いかを確認して、最後にラインの量を確認してからタックルキャリー取り付けた箱に戻す。


 次はロッドである。UL(ウルトラライト)のベイトロッド。ガイドの根本、スレッドの不備、異常は無いか、ガイドのリングに傷は無いか、繋ぎ目(フェルール)に傷、擦れはないか、最後にロッド本体に深い傷が無いかを確認する。


 細かな擦れ傷は元からあったり、魚を取り込んだあと置いたりして付いたものはあるが、塗装を抜いてカーボンにまで至る傷は無かった。


 シ○ノ製の五フィートのベイトロッド、短くはあるが、これが片足しか力が入れられない自身に一番向いている。そう確信し、愛用している。


 そういえば、最初に管理釣り場(エリア)に連れていってもらったとき、スピニングタックルで苦労したのを思いだす。


 私は事故に巻き込まれ、小学生のときに入院、手術をしたが、左足が麻痺し動かなくなった。元々運動が好きだったのが、思うように動けなくなって親にも、祖父母にも強く当たってしまった。バスケットが好きだった。でも、車椅子バスケットを体験したが、以前のような強く心から楽しめず、結局すぐに辞めた。


 そして、最終学年のゴールデンウィークに気力を失くしている私を見かねて、祖父と父が釣りを勧めてきた。当事、私は釣りを知らなかった。


 てっきり、餌をつけ海や河に投げ込み浮きが沈むのを待って魚を釣る。その程度の知識で、それが全てと思っていた。祖父と父に連れられ、車で釣りに行くのに、やけに街から離れていくのが気になったが、まぁ、隠れた釣り場とかなのだろうと思っていた。


 しかし、着いたのは山の中にポツンとある池が多数あって、水が常に流れ込んでいる不思議なところだった。県外ナンバーの車が並び、木造のロッジに人がタックルを持ち並んでいた。


 不思議な光景だった。朝早く、日は昇っているが、まだ薄暗く朝靄が立ち込めた先に池があり、魚がかなりの頻度で跳ねている。


 今思い返せば、捕食の波紋(らいずりんぐ)だったりしたのだが、とにかく初めて観る光景に心が踊っていた。


 そして、券を買い、多少は慣れてきた松葉杖で祖父と父の後を追い、ポイントへと立った。まぁ、私は父が用意してくれた折り畳み式の椅子に腰掛けてだけど。


 木々の香り、水の音、魚の跳ねる音、全てが初めてで、透き通る池の中の無数の魚を眼で追うのも楽しかった。


 父から手解きを受け、釣り始め、数投で釣れた。最初につったルアーはスプーン、一・五グラムの蛍光イエローの枠取りした黒のスプーン。釣れたのは虹鱒(レインボー)、サイズは二十五センチだったのを今でも覚えている。


 それから、ポツリポツリと釣り、ある運命により、スピニングからベイトへと転向することになった。その時使ったのはトップのルアーだった。突如水面が盛り上がったと思ったら、ロッドがしなり、合わせを入れたら猛然と走り出したのだ。


 それまでも、多少はドラグが出ていたが、その時はその比ではなかった。椅子に座りながらも、なんとか走り回る魚を止めようと必死にロッドを立て、巻き、また糸を出され、どんどんと魚が遠くなる。


 父が気づき、来てくれたがどうにかして自分の力で獲りたい。そう思いながら、ロッド操作を父に教わりながらやるが、止まる気配がない。しかも、走り回り他の人の方へ向かっている。

 父に言われ、ドラグノブを回し締めるも止まらず、もっと強く、と僅かにノブを締めた瞬間に曲がっていたロッドが急に真っ直ぐに戻り、糸が宙に泳いだ。


 その様子を見ていた祖父が、自身の使っている複数のタックルから一本を私に手渡した。それが、今の愛竿とリール。このときは借り物だったけど、祖父が亡くなった際に父が譲り受け、私は父に借りるようになった、そして、先日部活を始めた報告をしたら、譲ってくれた。


 話を戻そう。スピニングは、走り回られても、本人が動き回れば魚は獲れる。しかし、私は動き回る事は不可能だ。片足で踏ん張るにも限界があるし、松葉杖では動けない。車椅子なんてもっと無理だ。多少は平らでも、あるときは他の人のラインを潜ったりしなければならない。地面も平らではない、砂利もある。ならば、どうすれば獲れるか。


 祖父が出した答えが、ベイトタックル。スピニングの利点は細い糸を使いやすく、飛距離も出しやすい、トラブルが少ない。


 対して、ベイトタックルはライントラブルが増える、太い糸が使いやすい、飛距離は落ちるがパワーはある。


 要は、魚に優先権(イニシアチブ)を渡さず、多少強引にでも獲り込める様にする事だった。

 最初は本当に苦労した。キャストのたびバックラッシュを起こし、小さいスプーンを投げようとしてバックラッシュ、クランクを投げようとしてバックラッシュ、ととにかく、スプールの糸をほどく作業がほとんどだったが、最後の最後に三グラムのプラスチック製スプーンを使い、ゆっくり巻いているとソレは食いついてきた。


 ドラグは出るが、スピニングと違いドラグ音がしない。手元にズッ、ズッ、と滑るような振動が伝わる。祖父に教えてもらいながらファイトスタイルを覚え、寄せきり、祖父がネットで掬ってくれた。サイズは五十九センチ、虹鱒(レインボー)、でっぷりとし、淡い鱗光を放つ綺麗な魚体と大きなヒレ。枠ギリギリのサイズ、口元のプラスチック製のスプーン。痺れた左腕。とにかく、楽しかった。その時のルアーは記念として、机に飾ってある。


 透き通るオレンジに、赤い斑点の入ったカラー、後から調べルアー名はカラ○バと言うのがわかり、お年玉とかで、中古、新品問わず買い漁ったのも良い思い出である。


 さぁ、明日も釣るぞっ!ロッドをキャリアのケースに仕舞い、ベッドに入り電気を消す。


 エリアに行く前日は常にだが、高ぶってなかなか寝つけない。布団の中で寝返りをうち、目を瞑っているといつの間にか寝付いていたらしい。


 

 目覚ましの鳴り出しの瞬間に、スイッチを切り、体を起こしベッドから抜け出し、片足で窓へ向かいカーテンを開ける。ちょうど日の出前で空が白んでくるところだった。空は晴れ、雲も高い。ひとつ伸びをして、松葉杖をとり、洗面所へ向かい顔を洗った。


 さぁ、着替えて出掛けよう。

 

 次回、釣り回………………になるかなぁ(´Д`)


 不定期更新ですが、できるだけ早くあげれるよう頑張ります。


 お付き合いよろしくお願いいたします。

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