バイト戦士、綾香
不定期更新に関わらず、閲覧頂きありがとうございます。これからも、チマチマ掘り下げるので……あれ?物語進まなくない?
お付き合いいただければ幸いです。
二人と別れた後、バイト先であるスーパーマーケットへと向かう。駅から少し歩くものの、春の暖かな陽射しの中ゆったりと街中を行くのは気持ちがよく、足取りは軽い。
先日、釣具をネット検索したら、あまりの量で目眩がした綾香は『何を買えば良いのかわからないし、今度の歓迎会で釣りをしてみてからでいいよね』と、気楽に考えていた。
下は数千円で全て揃う、上は本当に釣具なのか、ブランドバッグ並みの値が付いていたりと不安感満載ではあるのだが。
そんなことを考えていたら、バイト先へ着く。裏に回り、搬入口へと向かう。受付に挨拶をして、更衣室へ、手早く着替えタイムカードを押し、休憩室へと向かう。
休憩室に入ると、良く面倒を見てくれるベテランのおばさん達がお茶を飲みながら挨拶をくれる。
「お疲れ様、綾香ちゃん。今日の特売覚えた?」
「お疲れ様です。はい、覚えてきました。特売品は手打ちだから結構大変ですよね」
「「「お疲れ様」」」
おばさん達の話の輪の中に入り、お茶を淹れてくれたのでゆっくりと飲む。
「そういえば、綾香ちゃんがバイトするのって高校の部活費の為だったよね?」
聞いてきたのは、少し恰幅の良い三十半ばの佐藤さんだ。
「はい、うちの高校は部活強制なので、部活の数が多くて基本弱小部は部室のみで、活動費とかは自前なので」
「へぇ、大変ねぇ。なんの部活なの?」
「かんつり部です」
「かんつり部?なんの部活なの?」
「えっと、管理釣り場?ってところで釣りをする部活です。あ、ルアー作ったりもします」
「あぁ、釣りの部活なのね」
そこで、別の方から会話に参加してきたのは、細身で凄く綺麗な三十路とは思えないお姉さん。佐々木さんだ。
「わたしの夫も釣りするから、言えるけど……」
「え?何をですか?」
聞き流せば良かった。そう思ったのはこのあとすぐだった。
「釣りってスゴいお金掛かるのよ。しかも、同じ物を何個も買うの。一個で良いステーキ肉買えるような、プラスチック製品をね。信じられる?わたしの時給の二倍が一瞬よ?しかも、良く無くすし」
「え……?」
ルアーまでは見てなかったのだ。そう、タックルは検索したが、ルアーは見ていない。つまり、ルアーがそんな値段だとは思わなかったのだ。いって精々千円と思っていた綾香は打ちのめされる。
「しかも、ロッドやリールもね。本当に高いのよ……釣りが趣味の人はいい人ってのは都市伝説ね。間違いないわよ」
「あら、でも釣りの時は家に居ないから良いじゃない?うちなんて、休日常に家でゴロゴロしてて、ご飯作らないとだし、邪魔だわよ」
佐々木さんに、佐藤さんがフォローを入れる、が切り返される。
「とんでもないっ!余計お金掛かるのよ?ガソリン代とか高速代とか……わたしは、おしゃれなランチすら楽しめないのにね」
「…………佐々木さん、今度一緒にランチ行きましょう」
フォローができなくて、佐藤さんがおしゃれランチをご馳走することで佐々木さんの怒りは静まる。
「釣りってそんなにお金かかるんだ……」
「あぁ~でも、夫もピンキリっていってたよ?遊びならそれなりで良いんじゃない?」
「うぅ、バイト頑張ります」
そろそろ勤務開始時間となる。湯呑みを片付けて、休憩室を出て、勤務表の確認をしてから、指定されているレジへと向かう。
さぁ、戦いの時間だ。
綾香は、どれだけお金が掛かるのかわからない不安をバイトにぶつけ発散することにした。
ここのスーパーは立地的に仕事帰りの人が多く、特売時間もそれにあわせている。その為、夕方から十九時半までが、もっともレジが忙しくなる。さばいても、さばいても列が途切れることはない。
釣り銭の百円玉が切れそうだ。隣のレジの佐々木さんへと声を掛け、百円棒を五千円札と交換し、戻る。一瞬しか見えなかったが、佐々木さんのレジ打ち速度が速すぎた。特売品の山をみるみる打ち込むのだ。列の消化も早い、これがベテラン……しかも、笑顔だ。綺麗なお姉さんが、笑顔で高速レジ打ち。素敵すぎる。そう感銘を受け、更に心に渇を入れ、バイト戦士の道を綾香は歩み始めたのだった。
そして、全力の笑顔と、高速手打ちをマスターするのはそれから数日後であった。
バイト戦士爆誕。とは、いかないものの、やっぱりスーパーの手打ちのお姉さん達には感動するものである。
よく値札無いものをパッと打てるものだ……と感心しかできない。凄すぎるぜ、レジ打ちバイターのみなさん。
なんとなく、そんな気持ちで書いた回となります。