リールと竿とポイントと
ようやくメーカーとか出ますが、流してください。
綾香と電車で別れた二人は駅を出て、五分ほどのビルへと入る。ビルの五、六階が目当ての釣具屋である。品揃えは街内一、ただ、惜しむらくは駅近の為に駐車場がないが、それは高校生の二人には関係の無いことだった。
「霞ちゃんは何階から行くの?」
「ん、五階の方からでいいよ~わたしも行かないとだし」
「わかった」
エレベーターへ乗り込み、五階のボタンを押し何故か喋りづらい密室で、階表示を目で追う。
僅かな揺れと、小気味良いベルの音が鳴り扉が開く。
釣り餌など無いので無臭のはずだが、なぜか二人は『あぁ、釣具屋の匂いだ』などと感じる。
「新製品!こっちのケースかな?」
縁は松葉杖を、器用にさばき目当ての新製品を探す。
「縁ちゃんはダ○ワ派?シ○ノ派?」
「遠心ブレーキ派!なので一択しかない」
縁が見ているのはベイトリールだった。補足としては、ベイトリールにはスプールブレーキが大まかに二種ある。マグネットと遠心の二種。
扱い安いと言われるのは主にマグネットだが、しっかりと調整された遠心ブレーキのベイトはキャストフィール、飛距離共にマグネットを凌駕するとも言われるが、それは釣り人の腕が左右する。
ベイトリールには弱点がある。横風に弱く、少しでも下手なキャスト、サミングをすれば漏れなくバックラッシュが付いてくる。それをさせないのが楽しい、難しいのが面白い。というのが、ベイト使いの性であり、業とも言える。
それらを効率的に制御しやすくしたのがマグネットブレーキタイプである。もちろん、多少は簡易になるものの、セッティングは遠心よりも面倒で出しづらく、微調整が釣り場で出来ないので縁は候補から外していた。
「店員さん、呼んできたよぉ」
「おおっ、霞ちゃんぐっじょっ!」
縁は店員さんに、ガラスケースを開けてもらい手に取る。中堅機種とはいえ、価格は諭吉四人は飛ぶリールにも関わらず迷わず回したり、クラッチを切ったりして、フィールを確かめる。
「前よりしっかりしてる感じ……でもハンドルの長さはちょっと長い……片足で踏ん張りながらだと安定した巻き上げは…………うーん、やっぱり今使ってるカル○ン50には勝てないか……どのみちフィネスには向いてないし……」
「どう?」
どこかへ行っていた霞が戻ってきて声を掛ける。
「うん、とりあえず保留。バス用として買うかも悩むとこ。この足だと、ボート位しか出来ないしね」
「あぁ~バスはキツいよねぇ。ほとんど藪漕ぎとか要るし」
「うん。で、霞ちゃんはどこ行ってたの?」
「来週の新歓エリパ用のロッドとリール買ってた」
「え?持ってるんじゃ……」
「綾香ちゃんのレンタル用だよ」
「あぁ、で、なに買ったの?てか、現物は?」
「今は糸巻きお願い中、このあとスプーンとかも見たいし、邪魔になるしね」
「でも、わざわざ新品買わなくても……綾香ちゃん初心者だよ?」
「それには訳があるの」
「どんな?」
「ポイントの有効期限今月末までだったの!」
「え?何ポイントあったのさ?」
「教えない♪」
霞のご機嫌な様子を不思議に思いながら、縁は『まぁ、初心者用だし、数千ポイント位で揃えたのだろう』と安易に考えていた。
そして、六階へと上がり驚愕に眼を剥くこととなる。
ベイトにおける定義などはまぁ色々あるので、簡単な説明と言うことで流してください。