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かんつり!  作者: 今澤 麦芽
ルアーを作ろう!
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縁~大物を求める心~

 長かった……。


 なので、分割になります、まだ、全部書き上がってませんが……。


 縁編、たぶん三話構成かな? お楽しみください。

 (ゆかり)は一人、たどり着いたポンドの側で準備をしていた。目の前には足元から僅か五十センチほど先へ行けば、風がない今日のような日でもギリギリ底が見えるかどうか、さらに先はどんどん深くなり、最大七メートルの深さがあるというポイントの縁に立っていた。


 松葉杖を器用についこなし、縁組の大きな石と石の間に杖先を嵌め込み、無理無く体を支えれるようにする。軸足の右足にほとんどの体重を預け、ロッドのバットエンドを地面に置き抱えるようにしながら、スナップを、開いて口に咥えていたスプーンをくくりつける。


 縁は、このスプーンを気に入っている。重さは四.三グラムと重いながらも、僅かな水圧の変化でも姿勢を崩し、自然と魚に口を使わせる事が出来るこのルアーを。カラーは朝イチは決まってパールホワイトに、発光蛍光色(グロウカラー)の可愛い迷彩が乗ったお気に入りである。刻印は、WLとあり、メジャーなスプーンであるが、なかなか、サイズやカラーを取り揃える店がないのが玉に瑕だったりもするが、とスプーンを付け終わり、手のひらの上の既に塗装があちこち剥がれた傷だらけのスプーンを撫でぼんやり考えていた。


 水も湧水で年中安定している水温、春先、無風と、絶好のロケーション。目の前、およそ三メートルで大きなライズリングが出来た事で、意識が帰ってきた縁は、ラインに付けたルアーを足元の水の中へ投げ、ロッドを持ち上げる。


 縁のロッドは、ベイトロッドであった。長さは縁の身長である百五十六センチより、やや短いUL(ウルトラライト)のロッドである。これは、エリアを初めた時に父親から譲ってもらったものだ。大分使い込み、洗っても落ちないコルクの僅かな黒ずみや、細かな傷で光沢を失ってきているバット、ガイドの根本の変色しクラックの入ったエポキシ。その全てが縁にこれまで共に戦い抜いた相棒だと、安心感と共にこの子なら大丈夫。そう言う気持ちを与えていた。


 縁は、手に馴染むロッドを右手一本で持ち、リールのクラッチを切る。リールもまた傷だらけで歴戦の猛者のオーラを醸し出す。金色(こんじき)の塗装はあちこち剥がれ、擦過痕(さっかこん)が、それなりに目立つ丸形のリール。これは、父からではなく、祖父の遺品の一つを貰った、文字は掠れて読みづらいが、『カル○ッタ○ンクエスト50』と言うらしい。


 クラッチをしっかり切って、軽く投げた縁は、即座に左手に持ちかえる、そして、キャリーに縛ったボックスを椅子変わりに座り、着水と同時にサミングを行い、リーリングを開始しながら、なぜ、大きなルアーで大物を狙うようになったのかを思い出していた。



「おとうさん! 明日どこか連れてって!」


 わたしは、当時仕事ばかりで家にいない父に向かい、そうねだった。子供らしいと言えばらしいのだが、本当は小学校のクラスの友達が皆、「今度の日曜にお出かけするんだ」と、口々に言いそれが羨ましかったのだ。だから、本当にどこでも良かった。遊園地とか、ファンシーなお店とかじゃなくても、何かが欲しい、ではなく単純に『何処かへ行った事実』が欲しかったのだ。


 今でもわたしは覚えてる。あのあとの父の困った表情を。そして、十一歳を前にした秋のあの日の出来事を。


「うーん、明日はおじいちゃんのお見舞いで無理だから、今日、夜に出掛けるか?」


 そう、この時父方の祖父は入院していた。たしか、長年患っていた膝の関節を手術して大変との認識しか無かったけど。この後、半年位リハビリして、膝本当に悪かったの? と、今でも思うほど活発に釣りに行く祖父も当時はやつれていた気がする。


「夜? 出掛けていいの?」


 父の言葉に、夜出掛けるなんて、非日常の単語が出てきた事に戸惑い、母に顔を向けて確認した。


「お父さんと一緒で、言うことを聞くならいいわよ? でも、お父さん、朝まで帰ってこないとかはダメよ? おじいちゃんのお見舞いで運転してもらうんだからね?」


「あぁ、わかってるよ。いま、タイド観たら三時前干潮のソコリだから、三時には戻ってくるさ」


 そう言い、パソコンのディスプレイを弄り、父は母に予定を告げた。


「あ、釣った魚、要らないからね? この時期、夜ってことはあの魚なのよね?」


 母は、頬に手を当てすこし困り顔だったのを覚えている。父と母の会話に付いていけず、わたしは父に聞いたのだ。「たいど? そこり? さかな?」と。


 父は笑いながら手招きして、パソコンデスクの椅子に腰掛けながら自身の膝を叩き、『ここに座れ』と示してきた。小学生ではあるものの、少し恥ずかしかったが、わたしはそれに従い父の太ももに座った。


「お、大分重くなったなぁ。こりゃ来年は膝の上に座らせるのはキツいかも」


 などと、失礼な事を言っていたはずだ。だから、少しムッとしてわたしは父の太もものお肉をつねった。


「いたたっ! ちょっ! なんで!?」


「はぁ、お父さんが悪いわよ。女の子に重いって、禁句よ?」


 そう言って、笑う母に、つられてわたしも笑った。

 あぁ、製品名書きたい。いや、ほぼ書いてますけどね。


 釣り行きたい、コロナめ……許さん。

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