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エピソード1‐1 ~災厄の村~

月明かりが世界を怪しく照らし出す夜

今夜は満月だ…。


風が吹き、田んぼの稲を揺らしている…。

ここは、神有月村

いや…もう神無月村というべきだろうか…?


夜の田んぼ道を一人の村人が

その手に松明をもって歩いていた。


「急げ…急ぐんだ…!

 出来るだけ速く…!!」

…村長の下へ急げ!!


村人は細く長い田んぼ道を

村家の方向に向け、急ぐ。


そこに忍び寄る、怪しき影達


村人を見て、にやりと笑うように口を歪ませ、

物欲しそうに舌なめずりをする

…見つけた。


高速で近づいていく影


村人が気配を感じ、後ろを向いた

「ひっ…!!」


村人の目に映るは、この世ならざる者。

尻尾が鉄のように硬質で、

高速で動くことにより全てを切り刻む…


かまいたち だ。


「うわぁああああああ…!!」

村人の叫び声が辺りに響く



「大丈夫か!?」

村人と妖の間に割って入る人物

狐の面が月に照らされ、黒い服のためか、

面だけが浮かんでいるように見える。

武蔵だ。


「早くこの場から離れろ!!」

「面目ねぇ!」

村人が走り去る


かまいたちは狩りを邪魔されたことにより、

牙をむき出しにして怒りをあらわにしている。


「妖か…紅桜、来い!!」

…しかし、反応がなかった。

ざわっ…と稲が風に揺れているだけだ


「あの野郎…またさぼりか!!」


ヒュン…!


「おっと!!」

かまいたちが通り抜ける


「ちっ…!」

左腕が尻尾にかすり、

袖が破れ、切り傷が見えていた。


「しょうがない…俺一人でやるか…!」

腰から右手で忍刀を抜き放つ


またかまいたちが近づく

「ぐっ…!」

忍刀で尻尾からの攻撃を防ぐ


何度か攻防を繰り広げた


「くそっ…」

肩口に傷をもらっていた武蔵

けれども、かまいたちも身体の所々に傷が存在した


「まだか…紅桜!!」

叫ぶ。


その時、ようやく反応があった


近くの茂みが揺れ、バッ…!と影が飛び出してくる

「来たか!!」

その影に反応し、武蔵は先ほど受けた傷を見せる。

影は傷に近づき…噛みついた。


「来い…紅!!」


一瞬、漆黒が辺りを包む。


<遅れてごめんね、ご主人さまぁ…♡>

そこにいたのは…一匹の尾が九本ある狐だった

「大遅刻だ…紅。

 ちゃんと働いてもらうぞ…」

<りょ う か い♡>

ちらりとふざけるように応えながら

かまいたちを見る九尾、紅

…野良、小物だねぇ…。


ふざけているように見えて、

紅の全身からは突き刺すような殺気が迸っていた。


それは一瞬だった。

瞬きが一回出来るか出来ないかというくらいの時間

それだけが過ぎたのち…かまいたちはその姿を

紅の口元に移動させていた。


首元を噛まれ、絶命し、

プラプラと紅の口元から垂れ下がっている。


紅はバキバキと音を立てながら

かまいたちを食らいつくした。

<流石野良、不味っ…星一つ…かな…>

うげぇ…と表情を歪ませながら首を振る紅。


「さてと…あとは…」

武蔵は先程の村人の無事を確認するため、

その姿を探した。


まだ遠くには行っていないはずだ…





「おいっ…嘘だろ…。」

しかしながら、武蔵が村人の姿を

もう一度発見した時。

彼は、無残な姿になっていた…

<…。>

紅がジッと屍を見ていた。


「…。」

同じく黙っている武蔵


「行くぞ、紅…」

武蔵は屍を担ぎ、歩き出した。

<やれやれ…>

ため息を一つつくと、紅は尻尾で

器用に屍を包み、武蔵から引きはがした。


<ほら、あたしが持つから…

 で、どこに行けばいいのさ?>

二人は村長の家に向かった。




一つの蝋燭が、部屋を照らしている。

上半身を白い帯で巻き、

着替えをしている一人の女性がいた。


コンコン…

柱が小さく叩かれる。

少し、部屋の戸が開いた

がく、どうかしたのですか…?」


「お嬢、武蔵と紅桜です…」


「…わかりました。すぐに行きます

 待っていなさい、と伝えてください。」

「了解しました。」

戸が閉まる


さて…

「おいでなさい…蒼竹…」

呼びかけに答え、

金色の首輪をつけた小さな猿が部屋の隅から出てきた

猿は肩に上り、女性の腕に移動

指先を優しく噛んだ


直後、その猿は妖化する

妖化すると同時に、首輪は腕輪に変わっていた。

<お嬢、お呼びでしょうか…?>


「私の着付けを手伝ってください…

 急ぎの用事です。」

すみませんね…蒼…。


<とんでもございません。

 了解しました…>

蒼は顔を伏せながら応えた




「…。」

「すいません…色々と準備に手間取りました…」

屋敷の広間にて、

待っていた武蔵と

ただの狐に戻った紅桜が立ち上がる。

奥から女性と蒼が出てきた

「天様…今回は何用ですか…?」



「この度、あなたを招集したのには

 訳があります…。」

向かい合うように座る両者

フゥ…とため息をつき、紅桜は顔を伏せていた


「先ほどここに来るまでに確認しましたが…

 ここ最近になって、妖が人を襲うという事例が

 頻発しています…。」

「分かっています…」

武蔵は懐から紙を取り出す

それが何かはすぐに分かった

それは血まみれの手紙だった…


「本日ここに来る途中、

 妖に襲われていた者が持っていたものです…」

天の前に手紙を置く


「中にはほとんど読めませんでしたが…

 妖 来たる 応援を と書いてありました…」


手紙を手に取り、開く。

中を一通り確認し、ため息をついた

「読めた部分、そしてこの手紙を見ただけでも

 大変な事態になっていることが予想できます…」

ここで一度間を置く天


「予定が変わりました…。

 応援に行ってもらえますか…?

 この手紙の差出先…文月村に…。」


「俺が…応援に…?」

手紙を受け取り、開く。


「すでに手遅れになっているかもしれませんが…

 状況の把握に行ってもらいたいのです…。

 お願いできますか…?」

半分諦めている様子が伺える。

「了解しました…」


「明日の朝、出発してください」

「御意」


武蔵と紅桜は屋敷を後にした


「…いったい何が…

 起ころうとしているのですか…?」

天はもう一つ、手紙を取り出す。

都、睦月から送られてきたもの


本当の用事はこれだった。

それは村長同士の会合への招待状だった…。


そう、天は分かっている。

これは…行ったら二度と戻れぬ

“地獄”への片道切符なのだと…。

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