南の大陸へ
神の存在をダンジョンで感知したリーシェですが、その存在はずっと下層にありまた消耗も激しかったので、スティ倒したあとはダンジョンから脱出しています。
その描写を今後の改稿で付け足していく予定です
どこまでも続く美しい浅緑の絨毯。
この世の平和を運んできたような穏やかな風、草原の上を滑る。
草原にたった1本立つ大木の枝に座り、ある者が口元に三日月を描く。
「もうすぐね。あの臆病者が神を連れて戻ってくる」
ずっと遠い別大陸の地にいる金髪の少年の帰還に、その者は爛々と目を輝かせた。
その目に映るのは、穏やかな緑の大地とは対象的な踏み荒らされた土地だ。
毎日のように人が死に、最強を決めんと刀を打ち合う場所。
ここまでは剣戟の音は聞こえてこないが、争い合う様子は十分に見える。
この地獄に戻る少年の表情を思い浮かべて、その者は凶悪な笑みを浮かべた。
☆*☆*☆*
ダンジョンから帰って半月。
リーシェはキリヤと転移ゲートの前に来ていた。服装もいつもと違い、南の大陸独特の衣装へ変わっている。
不思議な羽織を風に靡かせながら、見送りに来たアズリカに笑いかける。
「いない間、お留守番お願いしますね」
「あぁ。家と畑はちゃんと守っていくから、安心して行ってこい」
と言ってからなぜかニヤッとするアズリカ。「まるで妻を見送る夫だな」と言ったような気もするが気のせいだろう。
ここにいないラピスは、キージスに改めて取り調べを行うために王都にいる。
騎士団の再選定や、魔境谷への今後の対応などやることはたくさんあるそうだ。
これからしばらくは忙しさで目の回る毎日を送るだろう。
キリヤによれば、南の大陸への旅は簡単には終わらないらしい。
もしかしたら1年かかるかもしれないと言っていたので、リーシェの荷物は最小限になっている。
「それじゃあ、行ってきます」
少し寂しそうな視線を背中で受け止めてゲートをくぐった。
眩い光が視界を奪い、体がフッと軽くなる。
次の瞬間にはさっきまでと違う感触が足に伝わった。
鼻腔をくすぐる草の香り。目に映える美しい緑の風景。耳をくすぐる風のざわめき。
「ここが……南の大陸」
圧巻、と言うに相応しい優しい場所だ。
だが、隣にいるキリヤはどこか浮かなそうな顔をしていた。
「綺麗なのはここだけです。1歩草原から踏み出れば、日夜を問わず血を流す凄惨な街があります」
何考えているのか分からない声音でキリヤは言う。
戦人族にまつわる噂は本当だったのかと目を見開いたリーシェが口を開く前に、別の声が響いた。
「そしてその街から逃げた臆病者が1人。よく戻ってきたなぁ?」
左側の髪をひと房だけ長く伸ばした女性が、真っ赤な瞳でリーシェたちを見ていた。





